Quantic Dream、不適切なコラ画像が社内で広まったことを受け、安全配慮義務違反により元従業員への賠償金の支払いが命じられる


フランスのゲームスタジオQuantic Dreamが、不適切なコラ画像の社内拡散を止められず、職場の安全配慮義務を怠ったとして、元従業員への賠償金の支払いが労働裁判所より命じられた。現地メディアのLe MondeMediapartが報じ、PC Gamerがその内容を伝えている。

『Detroit: Become Human』『Heavy Rain』などで知られる同スタジオを巡っては、2018年1月、フランスの報道機関3社(Le Monde、Mediapart、Canard PC)が一斉に、Quantic Dreamの社内ハラスメントの蔓延に関するレポートを公開。当時の現従業員・元従業員の証言をもとに、性差別的・人種差別的なジョークが飛び交う社風の醸成に加担していたとして、スタジオ創設者であるDavid Cage氏と共同CEOのGuillaume de Fondaumière氏を糾弾していた(関連記事)。社内サーバーのキャッシュからは、グループメールで共有されていた従業員の卑猥なコラ画像が大量に見つかり、その一部は「Canard PC」にて掲載されている(アダルト描写が含まれるため閲覧注意)。Quantic Dreamはのちに報道内容を否定しており、同件を報じたLe MondeとMediapartに対し訴訟を起こしている(Kotaku)。

コラ画像を中心とした職場環境の問題を巡っては、元従業員による複数の訴訟が勃発した。今回の訴訟はそのうちの1件である。先述したMediapartによると、Quantic Dreamは裁判所より、元従業員である原告(1人)に対する賠償金および訴訟費用の支払いが命じられたようだ。原告は、同僚に不本意な加工画像を作成されたことがあり、そうした労働環境の悪化が自身の退職につながったという。このたび原告の主張が部分的に認められた形で、「同性愛嫌悪的、女性嫌悪的、人種差別的、もしくは非常に卑猥な」コラ画像が社内で広まったことについて、安全配慮義務違反としてQuantic Dreamに賠償金の支払いが命じられた。

ただし、原告による主たる訴えは、労働環境の悪化により退職せざるを得なくなったことを受けての損害賠償請求であり、もともとの請求額は11万4000ユーロ。そのうち今回認められたのは5000ユーロのみである(別途、訴訟費用として2000ユーロの支払いがQuantic Dreamに命じられた)。労働環境の悪化により退職せざるを得なくなったという主張について、十分な証拠を提示できなかったため、請求内容のほとんどは認められなかったのだ。よって、原告が要求していた退職事由の「自己都合退職」から「不当解雇」への変更も却下された(退職事由は失業手当の受給資格などに影響する)。

Quantic Dreamは、不当解雇には該当しないと認められた本判決を勝訴と見ており、以下のとおりツイッター上でも声明文を出している。先述したLe Mondeが報じるところによると、Quantic Dreamのマネジメント陣は、苦情が出た時点でコラ画像の作成者に注意するなど適切に対処し、しかるべき措置を施したと、裁判所に認められたようだ。

事後的に訴訟へと発展した一連のコラ画像。Quantic Dreamによると、これらは労働時間外に作成されたもので、当時は苦情も寄せられなかったという。しかしながら会社の敷地内で作られたものには違いない。よって、手に負えなくなってしまう可能性を見越しておくべきであったと、安全配慮義務違反と指摘された理由について、上の声明文にて説明している。なおQuantic Dreamには本件を控訴する意向はないものの、原告側が控訴する可能性はあり、まだ本件に決着がついたかどうか定かではない。

こうしたQuantic Dream元従業員による訴訟案件は複数ある。2018年には、自身を材料とした侮辱的なコラ画像が社内で出回ったことを受けて退職した原告による、損害賠償請求案件が発生。そのうち1件については原告の訴えが認められ、退職事由を辞職ではなく不当解雇とみなすよう判決が下されたと報じられている(Eurogamer)。一方で訴えを却下された事例も複数報告されていることから、不当解雇に該当するかどうかは、結局のところケースバイケースでの判断になることがうかがえる。

今回のケースは、不当解雇ではなく、安全配慮義務という論点から原告の主張が部分的に認められたという点で、過去事例とは異なるだろう。