『ポケットモンスター ソード・シールド』ThankYouGameFreakが全世界でトレンド入り。批判強まる中、開発元への感謝の声が世界であふれる

『ポケットモンスター ソード・シールド』の発売が迫る中、SNSで同作の開発を手がけるゲームフリークに感謝を告げるハッシュタグ #ThankYouGameFreak が全世界でトレンド入りを果たしている。

シリーズ最新作『ポケットモンスター ソード・シールド』の発売が迫る中、SNSで同作の開発を手がけるゲームフリークに感謝を告げるハッシュタグ #ThankYouGameFreak が全世界でトレンド入りを果たしている(Trend 24)。日本を含めた全世界の多くのユーザーが、長きに渡りシリーズを引っ張ってきたゲームフリークに、感謝を述べ応援する旨の投稿をしており、それらがSNSに溢れかえっている。大好きなポケモンを作ってきてくれてありがとう―――。そんな投稿が爆発的に投下された背景には、発売前に立ち込める、最新作にまつわる強い批判が関係している。まずこれまでの経緯をざっとおさらいするが、少し長くなるので、流れを知っている方は小見出し「あふれる応援の声」まで読み飛ばすといいかもしれない。

ポケモンリストラ騒動

『ポケットモンスター ソード・シールド』は、今年2月に正式発表された「最強のポケットモンスター」を掲げて開発されたシリーズ最新作。Nintendo Switchというハードに戦場を移し、キャラたちの頭身が上がるなどグラフィック表現が大幅にパワーアップ。ガラル地方を舞台とし、新たなジムやポケモンが導入されるほか、メガシンカやZ技に置き換わりダイマックスが登場。そのほか厳選を簡略化するアイテムなども導入されており、システムもグラフィックも大幅に刷新されている。

大きな進化が確認できることから発売前から大きな期待が寄せられていたが、6月のE3でのある発表をきっかけにそうした期待ムードに暗雲がたちこめていく。その発表とは、ざっくりというならば、過去ポケモンには『ポケットモンスター ソード・シールド』に登場しないポケモンもいるという宣告であった。旧作『ポケットモンスター サン・ムーン』ではアローラ図鑑に含まれていないポケモンも、全種類ポケモンバンクから連れてくることが可能だったが、今作の連動アプリポケモンホームでは、連れてこられるのはガラル図鑑に登場するポケモンに絞られるのだ。

過去作のポケモンの中には、『ポケットモンスター ソード・シールド』に登場しないポケモンも出てくる。これまで当たり前であった「すべてのポケモンが登場する」を否定する旨の発表は、ファンを動揺させた。そうした決断が下された理由としては、800種類以上存在するポケモンをグラフィック・戦闘バランス面で作り込むには、時間が足りない(開発期間が限られている)と語られていた。ほぼ毎年発売されている『ポケモン』シリーズ、増加し続けるポケモンの量、そして求められるグラフィック水準の向上。そうした開発上の理由から、登場ポケモンを絞ることが決断されたのだろう。

※ 該当の増田順一氏の説明は25分30秒より

しかしながら、すべてのファンが開発側の事情を聞いて、気持ちを消化しきれるわけではない。海外では「#BringBackNationalDex(全国図鑑を取り戻せ)」やBrexitをもじった「#Dexit」なるハッシュタグが生まれていた。その後ゲームフリークは、もし『ポケットモンスター ソード・シールド』に出てこないポケモンでも、その次の作品などで登場する可能性があるといった説明をしていたが、悲嘆と怒りに満ちた批判は、6月から止むことがなかった。単にポケモンが登場しなくなることだけでなく、怒りはゲームフリークにぶつけられ、批判はモデリングやグラフィック水準といった他の部分にまで及ぶこともあった。

 

情報が錯綜し批判が激化

そして11月頭から、批判は激化することになる。というのも、リークを称した真偽不明の情報がネット上に出回り始めたからだ。注目が集まったのは、やはり「どのポケモンが登場しないのか」というトピックである。真偽不明の情報をもとに登場しないポケモンリストが作成され、自分たちの愛するポケモンの姿が最新作では目にできないと確信し悲しみに暮れたユーザーたちが、ゲームフリークへの批判を強めていった。SNS上ではプロデューサーの増田順一氏やディレクターの大森滋氏を中心としたゲームフリークを厳しく非難する声が出てきており、特にTwitterで活動している増田順一氏に対しては大量のヘイトコメントが寄せられていた。

こうした批判のエスカレートについては、単に「好きなポケモンが出ない」というだけでは完結できない部分もある。というのも、「すべてのポケモンが登場しない」という事実の正式な発表は、国内向けには公式になされていない。E3 2019のライブイベントで、増田氏と大森氏により口頭にて発表されたのち、ファミ通などメディアで改めて言及。海外向けには日本語を添えて発表されていたが、国内向けにはこうした事実は正式に告知されていない。予約が開始されたのは7月なので、そうした告知がなされた後であるが、重要な要素を国内向けに正式発表しない状態で発売に臨むスタンスについて、ゲームフリークと任天堂を批判する声があるのは理解できるかもしれない。

また増田順一氏のTwitter運用について、苛立つファンも少なくないようだ。ファンとの交流を欠かさない増田氏は、好意的なコメントにのみ返信するというスタンスを一貫している。ただ批判が寄せられる状態で、コメントに目を通した上で好意的な投稿にのみ返信する行為は、怒れるファンとしては“無視されている”と感じるようで、反応のない増田氏に返信を求めるファンの姿もしばしば見かける。また登場しないという情報が出回っているポケモンのグッズを手製し、新作を楽しみにすると語るファンに引用RTで感謝する増田氏の投稿について、配慮不足ではないかという反応が寄せられている。

・『ポケットモンスター ソード・シールド』は、発表時から期待が高い(期待が高いと反動も大きい)
・過去作のポケモンすべてが登場するわけではない
・そうした事実の告知方法が、十分にファンに認知が行き届く形ではない
・最近になり登場しないポケモンの情報(真偽不明)が、出回り始めた

これらの状況により、今ゲームフリークは厳しい批判に晒されている。SNS上にはヘイトの混じったコメントも散見されるようになり、先日には、発売日となる11月15日に開催予定であった増田順一氏と大森滋氏が登壇予定だったイベントも、急遽中止になることが発表されていた。運営上の都合であるとされていたが、発売イベントが中止になるというのは異例。海外版については、予約の取り消しの対応を受けたというRedditユーザーの報告が寄せられるなど、ローンチに向けてすべてが順風満帆といえる状況ではないのは確かである。

 

あふれる応援の声

そんな中、YouTuberであるMysticUmbreon氏が、#ThankYouGamefreakなるハッシュタグを作成。小さな頃から大好きなゲームを作ってくれたゲームフリークに感謝していると述べ、今は大変な時期であるが自身の愛は変わらないとコメント。ハッシュタグを使って、ゲームフリークへの感謝を伝えようと呼びかけた。氏はYouTubeにてその意図をさらに説明している。ゲームフリークには今、殺害予告などを含めた危険なメッセージが大量に送られており、それらは開発者にとってはまったく良くないと懸念。ゲームフリークの開発士気が落ちているという報道(VICE)にふれながら、ポケモンとゲームフリークが、どれだけ自分達の人生を豊かにしてくれたかなどを思い返し、今こそポジティブなことをしていこうと呼びかけている。

https://twitter.com/MysticUmbreon94/status/1193124786185965572

https://www.youtube.com/watch?v=DoKEvcFqHaw&feature=emb_title

そうした呼びかけが響いたのか、日本時間11月10日の早朝より、全世界で#ThankYouGamefreakのハッシュタグのついた、ポケモンへの愛と感謝の言葉が溢れかえった。Twitterでは全世界トレンド入りをしたほか、全米にてハッシュタグのトレンド1位も獲得している。YouTubeでも話題を呼んでいる。特にTwitterでは数秒ごとに投稿がなされており、応援の声で世界が埋め尽くされている。ゲームフリークに届けるためか、わざわざ日本語を添えるコメントも多く見かけられる。投稿内容はユーザーそれぞれ異なるが、長くとも短くとも、ポケモンをいかに愛しているかが強く感じられるものだ。過去ポケモンが登場しないことを中心としたゲームフリークへの批判も多いが、それ以上にシリーズを愛しており、その開発を引っ張ってきたゲームフリークを応援するユーザーが、全世界にいることを確認させてくれるだろう。ポケモンへの愛が今、全世界であふれているのだ。

https://twitter.com/erincookies456/status/1193167555231408129

自分の好きなポケモンが最新作に登場しないという事実は、シリーズに愛着のあるファンであるほど悲しいもの。そして、ネガティブな情報となる過去ポケモンの登場についての発表は、その告知手法に改善の余地があったかもしれない。ただし、任天堂やクリーチャーズといったさまざまな会社が協働して作られる『ポケットモンスター』シリーズにおいて、そうした決定はゲームフリーク、増田順一氏だけで下されているわけではないだろう。ゲームフリークや増田氏を標的にし、心のないコメントを送ることはフェアではなく、むしろシリーズの今後の未来を暗くさせてしまう可能性すらある。また今出回っている『ポケットモンスター ソード・シールド』の情報が、真偽不明であることも忘れてはならない。

先月掲載されたEurogamerのインタビューでは、増田順一氏は批判のコメントを見かけると少し落ち込むが、それらを受け入れなければならないとも語っている。批判のフィードバックを見て、次回作を改善することに務めているとも。開発側はファンの声を聞き、それらの意見を取り入れる姿勢はあるわけだ。ただし、そうしたコミュニケーションが生まれ得るのは、プレイヤーたちがゲームをプレイした発売後である。というのも、リークを称した不確実な情報をもとに生まれる開発側への批判は、フィードバックとして認められないからだ。まず11月15日の発売を待ち、発売後に情報が確定した状態で、その時にポケモンファンとしての意見をゲームフリークや任天堂にぶつけるのが、もっともシリーズの今後につながる手段だろう。不確定情報を参照し生まれた怒り。そこから放たれるヘイトコメントが、何かを生み出すことはない。世界中であふれる応援コメントがコミュニティのムードを変え、心ないコメントを減らしていくことを願うばかりだ。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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