『Fallout 76』の年額1万2000円プラン「Fallout 1st」の発表に、厳しい批判が降り注ぐ。発言の矛盾や課金者優遇方針に怒りの声
Bethesda Softworksは10月24日、『Fallout 76』ユーザー向けメンバーシップ「Fallout 1st」の販売を開始した(国内Xbox One版は2020年スタート)。「Fallout 1st」は月額課金制のサービスとなっており、加入することで、スクラップボックスやサバイバルテントの利用、プライベートワールドの作成が可能となるほか、限定アイテムなどの特典を受けとることができる(関連記事)。しかし本サービスの発表を巡り、多くのユーザーが「Fallout 1st」およびBethesdaに向けて非難の声を上げているようだ。
#Fallout76 の新たな楽しみ方、「Fallout 1st」が登場‼️
フレンドと一緒にプレイできる自分だけのプライベートワールドで、アパラチアを探索しよう!https://t.co/z0PPotJDHB pic.twitter.com/2Pyx5XdqFH
— ベセスダ日本公式 (@Bethesda_jpn) October 24, 2019
「Fallout 1st」は、『Fallout 76』ユーザー向けの定額制のプレミアムサービス。料金は月額プランが12.99ドル(日本版は1500円)、年額プランが99.99ドル(日本版1万2000円)となっており、今回はそのサービス内容と価格、両方に向けて批判が殺到している。海外掲示板redditにおける『Fallout 76』のコミュニティページ内では、「擁護のしようがない」、「かなり動揺している」など、今回のBethesdaの方針に困惑を示すようなスレッドが乱立。redditユーザーのなかには「季節外れのエイプリルフール?」と、メンバーシップの発表を揶揄するものも現れるなど、異様な状況となっている。一体なぜこれほどまでに、「Fallout 1st」は批判を浴びることになったのだろうか。
これまでの言動との矛盾
実はこうした批判の背景には、プレイヤーに対して不信感を募らせるようなBethesdaの今までのおこないが大きく絡んでいる。Bethesda Softworksは、昨年11月に『Fallout 76』を発売。広大なマップや世界観に沿ったサバイバル要素が評価された反面、頻発するバグやクラッシュ、マルチプレイにおける機能不足などが作品のクオリティを下げてしまい、メディアおよびユーザーからの評価は決して好ましいものではなかった(関連記事)。特にバグとクラッシュのなかには、ゲーム進行を著しく阻害するものまで含まれており、一部ユーザーからは『Fallout 76』を“未完成品”だと厳しく批判する声も上がっていた。
Bethesdaはこうした状況を受け、ユーザーからのフィードバックをもとに、パフォーマンスの改善ならびにコンテンツの追加をおこなっていくと公式フォーラムにて明言。以降、精力的にアップデートが重ね続けられ、作品の改善が図られてきた。しかし今年4月、パッチ8にて追加された「修理キット」の実装を巡り、Bethesdaはコミュニティから反発の声を受ける。というのもBethesdaは当時、ゲーム内ショップ(アトミックショップ)では、コスメアイテムのみを取り扱うと公式ホームページにて宣言していた。にもかかわらず、コスメアイテムではない修理キットを販売した結果、過去の発言との矛盾が指摘され、コミュニティの不信感が高まったのだ。
そして今年6月、BethesdaはE3にて『Fallout 76』向け拡張コンテンツ「Wastelanders」を発表した。その際、ディレクターのTodd Howard氏は、人間NPCや新たなメインクエストの追加を含む大型無料アップデートを、2019年の秋頃に実施すると告知。公開されていたロードマップにも「fall 2019」(2019年 秋)リリースと記載されており、多くのファンは年内にプレイできることを待ち望んでいた。
※ なおHoward氏は今年のE3にて『Fallout 76』のローンチ時に酷評されたことを振り返り、「未経験の分野だったため、ゲーム発売時には多くの問題があり、至極まっとうな批判を多く受けた」と批判の正当性を認めていた(当該発言は動画の7分30秒頃)
しかし今月17日、Bethesdaは品質のさらなる向上を理由に「Wastelanders」の配信を2020年の第1四半期まで延期すると発表。さらにアトミックショップについて、コスメアイテムのみを取り扱うという今までの方針を変更すると説明したのである。既述のとおり、Bethesdaには、修理キットの販売によりコミュニティの不信を招いた過去がある。またその後も、コレクトロンステーションや冷蔵庫などの非コスメアイテムがショップに追加されてきた。そうした経緯もあり、一部ユーザーからは「Pay to Win」を推進しているのではないかと、ショップの運営方針を問題視する声も上がっていた。そのさなかBethesdaは、コスメアイテムのみを販売するというリリース当初の発言を公式に撤回したのだ。
A message on a new Wastelanders release date, Private Worlds, updates to the Atomic Shop and much more for #Fallout76.https://t.co/5pi0tTCt4o pic.twitter.com/KNkjRy6bXX
— Bethesda Game Studios (@BethesdaStudios) October 17, 2019
パッケージゲームで、お金をさらに払う者が有利になる
これまで述べてきたBethesdaのおこないは、コミュニティとの約束を反故にしてきたと同時に、多くのユーザーに強い不信感を植え付けてきたと言えるであろう。こうした流れのなか、「ゲームプレイを優位に運べる有料コンテンツ」を提供するメンバーシップが発表されたことにより、今回大規模な反発を招いてしまったというわけである。火種はredditコミュニティにとどまらず、動画配信者にもおよぶ事態となった。
YouTube上には「Fallout 1st」の批判動画が多数投稿されており、著名YouTuberのJim Sterling氏は、月額課金の値段設定を疑問視。本編購入時にすでに60ドル近く払っているにもかかわらず、全てのコンテンツを享受するのに課金が必要となるのはおかしいと、Bethesdaの方針に対して失望をあらわにしている。また辛口ゲームレビュワーで知られるAngryJoe氏は、いまだにバグまみれの作品に年額100ドルを費やす価値はないと、メンバーシップを痛烈に批判している。事実redditでは、特典のひとつであるスクラップボックスに収納したアイテムが全て消えたとの報告もあがっている。
公式フォーラム上にも批判の声が続々と投稿されている。特典に含まれるスクラップボックスやサバイバルテントは、明らかに課金者がゲームプレイを有利に運ぶことが可能な要素であり、サービス加入者と非加入者とのあいだに不公平が生じると危惧するユーザーの声から、延期した「Wastelanders」に費やすための利益確保に走っているのではないかと疑うユーザーの声まで、否定的な意見が多数。
もとより、将来的に追加されるコンテンツは“すべて”無料だと、『Fallout 76』の発売前に開発者の口から語られていた。しかし月額12.99ドル、年額99.99ドルという決して低くはない料金でメンバーシップが販売されたこと、そして特典内にプライベートワールドやスクラップボックスなど、特にコミュニティからの要望が多かったコンテンツが含まれていることから、過去の発言との整合性に欠けるとして、多くのユーザーは怒りをあらわにしているのだろう。そこに重大なバグなど、今まで問題視されてきた部分が被さることで、批判に拍車が掛かっているのかもしれない。
あらゆる方面から非難の声が飛び交うなか、「Fallout 1st」を珍妙な形で批判するユーザーも出現している。愉快犯が「Fallout 1st」概要ページのドメイン(http://falloutfirst.com/)を取得し、記載内容を書き換えた風刺サイトを公開したのだ。「Fallout 1st」は「Fallout FUCK YOU 1st」に名称を変え、プライベートワールドの説明欄では「メンバーシップを購入したバカだけがワールドを作成できます」と一部記述が変更されるなど、詳しい内容は割愛するが、ページ全体に渡り過激な文章に置き換えられている。そしてメンバーシップのプラン説明欄には「1か月分のお金を無駄遣いもしくは36%の割引のために毎年現金を燃やすことができます」と記載されるなど、「Fallout 1st」を猛烈に揶揄するページとなっている。
ここまでさまざまな「Fallout 1st」に対する批判を取り上げてきた。発表から1日が経った今でも依然として公式Twitter上では芳しくない反応が多く寄せられていたりと、あらゆるところからネガティブな意見が上がっている状況だ。『Fallout New Vegas』を手がけたObsidian Entertainmentがちょうどオープンワールドゲーム『The Outer Worlds』を発売したこともあり、NPCも存在し課金要素のない、それでいて『Fallout』シリーズのDNAを汲む『The Outer Worlds』と『Fallout 76』を比較する動きもしばしば散見される。海外メディアGame Revolutionなども『Fallout 76』を枕に『The Outer Worlds』の魅力を語っている。
多くのユーザーが待ち望んでいたコンテンツを課金形式で実現し、結果的にユーザーとの約束を裏切る形となってしまった、というのが今回の事態の顛末である。公式はこうしたユーザーの声にまだ反応を示していない。Bethesdaがどのような方針を採るにせよ、こうした反発はあらかじめ予想されていただろう。いずれにせよ、損なったユーザーの信頼を取り戻すまでにはしばらく時間がかかりそうだ。
一方で『Fallout 76』においては、現在も精力的にパッチが配布されており、今後も新要素の追加や新たなイベントの実施などが控えている。決して『Fallout 76』という作品自体が終わったわけではないと付け加えておこう。今後Bethesdaには、ユーザーの意見をさらに真摯に受け止める姿勢が強く求められそうだ。