難解サバイバルホラー『Pathologic 2』難易度を下げる機能を発表するも非推奨と強調。「難易度を下げたいという誘惑に打ち勝ってほしい」

Steamで配信中の難解サバイバルホラー『Pathologic 2』に難易度スライダーが近日実装される。だが『Pathologic 2』開発陣としては「本作を体験してもらえないよりはマシ」という温度感であり、同機能の利用は非推奨。「難易度を下げたいという誘惑に打ち勝ってほしい」と語っている。

ゲームスタジオIce-Pick Lodgeは5月27日、『Pathologic 2』に難易度スライダーを導入することを発表した。2~3週間のうちにアップデートで実装するとのこと。同作は5月24日に発売されたばかりのサバイバルホラーゲーム。「2」というナンバリングがついているものの、2005年に発売されロシアを中心にカルト的人気を誇った『Pathologic』のリメイク/リイマジニング企画である。

 

苦痛を前提としたニッチなゲーム

『Pathologic 2』の舞台となるのは、「Sand Plague」と呼ばれる疫病の蔓延によって、残り12日で破滅を迎える運命にある町。ゲーム内時間の経過により状況が絶えず悪化し続ける中、まるで意思を持つかのように広まっていく疫病と戦い、食料や薬品の確保のため町中を探索。空腹や疲労といった自身のパラメーターを管理しつつ、住民たちを救うべく奔走する。

ダークで退廃的、「David Lynch的」とも評される奇怪な物語と世界観を特徴としており、プレイヤーを喜ばせることを目的とはしていない。最初のうちは町を救うという使命を掲げていたとしても、気が付けば生き延びるだけで必死になる。そして遊び続けるのが嫌になってくる。それらはオリジナル版『Pathologic』から受け継いだ本作の根幹部分であるが、現代基準では「難しすぎる」と捉えたプレイヤーも少なくなかったようだ。

ゲームという媒体は、さまざまな種類の体験を届けることができると開発陣は信じており、充実した時間を過ごしてもらう上では、必ずしも心地よいゲーム体験をつくる必要はないと語っている。事実『Pathologic 2』は、プレイヤーにストレスを与え、神経をすり減らす過酷さや、決して歓迎的ではない暗く寒々しい世界観を売りとしている。そして開発陣は、そうした暗さや憂鬱さを表面的な表現に終わらせるのではなく、物語やゲームプレイなどから多角的に描くことを目標としている。物語だけでなくゲームプレイを通じても憂鬱さを感じてもらう。開発陣の狙った表現をプレイヤーに伝える上では、難易度も不可欠な要素なのだ。

Ice-Pick LodgeのCEO Nikolay Dybowski氏はかつてインタビューにて「主人公にとっての最大の敵は疫病ですが、プレイヤーにとっての最大の敵はゲーム自身です」と語っていた(PCGamesN)。また海外メディアのPCGamerは本作の難易度について、「説明することが難しい代物です。プレイヤーを寄せ付けない難解なゲームであるため、ゲームが難しいのか、何をすべきなのか理解できないように意図的に作られているのか、判別できないのです」と評している。

『Pathologic 2』のゲームバランスは、以下3つの点を念頭において調整された。そしてリリース後に寄せられたフィードバックから判断するに、3つ全てを達成できたという。

・常に死に瀕した状態にプレイヤーを置きながらも、その泥沼から自らを引きずり出す方法を残しておく(2~3つ前のセーブファイルに戻すなど)

・生き延びることを優先するため、関心のあるコンテンツを諦めなくてはいけない状況にプレイヤーを追いやる。プレイヤーは常に時間に追われており、最適なプレイスルーは実現できないようになっている。『Pathologic 2』の物語は、その片鱗だけが見えるように作られており、一周するだけでは全体像がつかめないように作ってある。

・明らかに間違っているとプレイヤーが感じる行動をとらせる。たとえば、住民からの評判を自主的にかなぐり捨てたり、他の誰かを救えるかもしれない回復アイテムを使ったりといった具合だ。『Pathologic 2』は多くのゲームにおいて考慮しなくてよい「利己心」を探究する作品なのだ。

 

遊び手の自由も大事

遊び手に楽しんでもらおうとするのが当たり前のメインストリームゲームとは、発想からしてかけ離れている。だが開発陣は「作り手の意図」を大切にする一方で、「遊び手の自由」も重要であると説明している。プレイヤーによって集中力が持続する時間もパターンも違う。そこで、開発者のビジョンを崩さない範囲で難易度を調整できる機能の追加を決めたのだ。ゲームが急激に楽になるとは思わないが、一部のプレイヤーにとっては救いの手となるかもしれない。

また開発陣は、オリジナル版『Pathologic』でもチート無しではクリアできなかったプレイヤーがいたと振り返っている。そうしたプレイヤーは、作り手の考え方に同意しているように見えて、実際には作り手が意図したとおりにはゲームを体験しなかった。ゲームの遊び方は人それぞれ。誰しもがゲームを起動するたびに人生を変えるような革新的な体験を求めているわけではないのだから、チートの利用は理解できる行動であると述べている。作り手として何も届けられないよりは、改変された体験を届けられた方がマシなのだ。

「本作は我慢できるギリギリのプレイ体験を目指しており、そうでなければ本来の効果は発揮できません。人によって限界点が異なることは理解していますが、自分自身のためにゲームを簡単にすることは、できる限りやめてほしいです」。難易度を下げる手段を設けるが、開発陣としては、できる限り使ってほしくないのである。

また難易度スライダーの追加は、プレイヤーに自由を授けると同時に、ゲーム本来の体験を維持するかどうかを決める「責任」を与えることにもなる。「難易度をいつでも下げられるという誘惑に打ち勝ってゲーム本来の難易度でクリアする。それを成し遂げたとき、より鮮明かつ強い達成感を得られるでしょう」。

 

達成感ではなく無力感

redditのユーザーコメントを見ていくと、オリジナル版『Pathologic』を遊んだというプレイヤーたちの意見としては、難易度スライダー追加を許容する声が多い。苦痛や面倒くささ、難易度は本作からは切り離せない要素であるため変更しない方がいいが、開発者のビジョンが崩れない範囲なら大丈夫だろうという声。開発陣が表現しようとしていた内容を正しく受け取れなくなるが、まったく受け取れないよりはマシという声などだ。

なお本作の難しさは、よく難易度の議論で持ち出される『ダークソウル』のようなアクションゲームとしての難しさとは異なる。難しい理由も、難しくした意図も異なる。『Pathologic』においては、ゲームをやりこんだ先に達成感は無い。常に結果が付きまとう行動選択、カツカツの時間制限、厳しいサバイバル、ゲーム全体を覆う不明瞭さからにじみ出る無力感。クリアすること自体ではなく、無力感にたどり着くことが本作のゴールとも言える。

難易度スライダーは非推奨ではあるものの、プレイヤーの自由も尊重したい。そうした葛藤の末の決断だったのだろう。また本作は本来3人の操作キャラクターの視点から構成される物語ながら、そのうち1人のみを実装した段階で正式リリースに踏み切っており、資金が必要な状態にあるとも考えられる。もっと多くのプレイヤーが遊べるようにしないと厳しいという、現実的な問題もあるのかもしれない。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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