ValveもSteamの“好評価”レビュー爆撃の処遇には悩んでいる。『アサシン クリード ユニティ』のレビューは「そのまま」にする
Valveは5月22日、『アサシン クリード ユニティ』にて好評レビューが集中的に投稿された事例を受けて、「肯定的なレビュー荒らし」に対する同社の考えを説明した(Steam Blog)。Ubisoftが今年4月にノートルダム大聖堂再建のため50万ユーロの寄付および『アサシン クリード ユニティ』の無料配布を発表した際、Steam版『アサシン クリード ユニティ』に大量の好評レビューが投じられた。この一件についてValveは、レビュースコアからの除外対応を行わないという結論を出した。
レビュー荒らしの定義
Steamでは時折、ゲームそのものの評価とは関係のない、開発元・販売元に対する抗議の意味を持たせたレビュー爆撃(Review bombing)が起きることがある。最近の事例でいうと、今年2月、ホラーゲーム『還願 Devotion』に中国の習近平主席を侮辱する描写が含まれていることが判明した際、中国ユーザーが同ゲームに低評価レビュー爆撃をおこなった。同月には『メトロ エクソダス』がEpic Gamesストア時限独占になると発表された際、Steam版『メトロ ラストライト』『メトロ2033』に低評価レビューが大量投下された。
最近までレビュー爆撃/レビュー荒らしというのは、多数のユーザーが集中的かつ共通の理由をもとに「ネガティブ」レビューを投稿する現象として捉えられてきた。Valveも以前よりレビュー荒らしの定義を「プレイヤーがゲームのレビュースコアを下げる目的で、短期間に大量のレビューを投稿すること」と定めている。
そうしたレビュー爆撃/レビュー荒らしが続いたこともあり、Valveは今年3月16日、Steamユーザーレビューの再考を掲げ、「トピずれの(論点のずれた)レビュー荒らしを特定し、レビュースコアから除外する」と発表した(関連記事)。4月には『ボーダーランズ3』のEpic Gamesストア時限独占化がアナウンスされた際に、Steamで販売されている『ボーダーランズ』シリーズ作品に大量のネガティブレビューが投下された。このケースにおいてValveは、レビュー荒らし対策として、4000件以上のレビューをレビュースコアから除外している(関連記事)。
トピずれの判断基準は「ゲームレビューとしての有用性」
トピずれに該当するかどうかの基準は「ゲームレビューとしての有用性」。『ボーダーランズ』のケースにおいては、ゲームの中身ではなく、シリーズ新作の時限独占発表という、ゲーム外の要因によりレビュー爆撃が仕掛けられた。販売中の『ボーダーランズ』や『ボーダーランズ2』の購入を検討しているユーザーにとっては有益なレビューではないことから、該当レビューはレビュースコアから除外された。先ほどのレビュー荒らしの定義と合わせると、Valveがレビューからの除外を検討するのは、以下条件を満たす場合である。
・トピずれ(ゲームレビューとしての有用性を軸に判断)
・レビュースコアを下げる目的
・短期間に大量のレビュー
では、トピずれとは捉え得るものの、「レビュースコアを上げる目的」で「短期間に大量のレビュー」が投稿された場合は、レビュー荒らしの解釈を変えてでも何かしらの措置を取るべきなのだろうか。Valveを悩ませたのは、今年4月に発生した『アサシン クリード ユニティ』の逆レビュー爆撃である。
肯定的なレビュー荒らしなのか
Ubisoftは今年4月、フランス・パリのノートルダム大聖堂が火災により損傷したことを受け、その再建のために50万ユーロ(約6320万円)の寄付を発表。同時に18世紀当時のノートルダム大聖堂がゲーム内で再現されている『アサシン クリード ユニティ』のPC版をUplayにて期間限定で無料配布していた。その際、Steamで配信されている同作のユーザーレビューも急激に増え、4月16日には1日で200件ものレビューが投じられた。その多くは好評レビューであった(関連記事)。
このケースにおいては、好評レビューが相次ぐ理由がひとつではなかったため、トピずれかどうかの判断が特に難しかったという事情がある。Ubisoftによる50万ユーロの寄付、ゲームの無料配布、再注目されたノートルダム大聖堂の再現性、単純なアップデートを重ねたことによるゲームの改善。どれが主な原因で、それがトピずれに該当するのか、簡単に白黒つけて判断するのは困難である。Valveは本件について「これがまさに好意を装った肯定的なレビュー荒らしなのかどうか、そしてそれをトピずれと見なすべきかどうかを考えさせられました。」と振り返っている。
Valveは「レビュースコアを下げる目的」でのレビュー大量投稿をレビュー荒らしと定義していることから、定義を変えない限り『アサシン クリード ユニティ』のような好評価レビュー爆撃はレビュー荒らしとはみなせない。この点についてValveは今回の報告にて、2017年にレビュー荒らしの定義を決めた際に「肯定的な内容のレビュー荒らしもあるのではないか、という疑念もありましたが、そういった例はひとつもなかったため、 その件については、様子を見ることにしました。」と説明している。『アサシン クリード ユニティ』のような事例が続けば、レビュー荒らしの定義変更が必要になるかもしれない。「肯定的でも否定的でもない用語に変更した方がよいかもしれませんが、それはコミュニティ次第です」。
また『アサシン クリード ユニティ』のケースは、好評レビューの中身を読まず、ただデータとして見た場合、通常のセールやアップデート実施時に見られる傾向と似ているとも述べられている。つまり目視チェックでないと、普通のレビュー投稿なのか、集団行動としてのレビュー投稿なのか見分けがつかないというわけだ。「多くの人が気づいているとは思いますが、プレイヤー数の急増とユーザーレビューの間には、プレイヤーが増えればレビューの数も増える、というかなり確かな相関関係があります」。
そして今回の件については、「ほとんどのレビューは、新規ユーザーからの一般的なレビューか、以前に購入していて久々に製品に戻って来たプレイヤーのように見えます」「離れてしまった一部のプレイヤー達が戻ってきて、以前よりゲームが楽しくなったことに気づいたようにも見えます」と説明している。そのためレビュー荒らしかどうか明確にすることはできなかったという。
コンテンツではなくコンテクストの変化もレビュースコアに反映すべきか
ゲームの中身は変わっていなくても、ゲームを取り巻くコンテクストが変わったことで、ゲームの人気が変化する場合がある。レビュー荒らしが問題となる際には、そうしたコンテクストの変化をレビュースコアに反映すべきなのか、という観点から検証が進められる。コンテクストの変化を反映することが一般的なSteamユーザーにとって有益な情報となるのか、「ゲームレビューとしての有用性」が最たる基準となる。たとえば開発者の政治的信念はゲーム自体から分離しているが、オンラインゲームにおけるスタッフの解雇といったニュースは、将来の購入者にとって役立つ状況の変化と考えられる。
『アサシン クリード ユニティ』のケースにおいては、ノートルダム大聖堂の損傷により、同聖堂をバーチャル体験できる本作の価値が高まったとプレイヤーが感じているとも捉えうるし、単純にUbisoftが再建のために寄付したことに好感を抱いているだけかもしれない。「ここでどうすべきかは、私たちにも明確ではありません。 これは、以前の定義に従えば、実際のレビュー荒らしではないように思いますが、それは単に私たちの定義が間違っているだけかもしれません。 しかし、それをレビュー荒らしだと定義したとしても、それがトピずれなのかどうかは明確ではありません」。
結論としてValveは、「そのままにしておくことにしました」と述べている。何をトピずれとして除外すべきかは判断が難しく、上述したようにValve自身もはっきりとは決められない。結局のところケースバイケースで判断することになる。今回のケースでは、対象期間中のレビュー件数がそこまで膨大ではなく、仮にレビュースコアからの除外対応をしたとしても、総合スコアは1.3%の減少にしかならない。この微減ではSteamストア上での表示はほとんど変わらないため、Valveがレビューの除外対応を行なっても行わなくても、ゲームが影響を受けることはないと説明している。どのような結論を下しても影響が及ばないという事実は、「そのままにしておく」という結論で落ち着かせる上での判断材料になっているのだろう。
なおValveは、「レビュースコアの変化によってSteamストア内での表示に影響が出ない」理由について、以下のとおり補足している。ユーザーだけでなく、デベロッパーにとっても気にかけておきたい情報だろう。
「ストア内には、ゲームをリストに分類する際にレビュースコアを考慮に入れる箇所がいくつかあります。 ゲームは、属しているユーザーレビューバケット(賛否両論、ほぼ好評など)に基づいて「ブースト」を受けます。 実際のブーストの量は、ストア内の他の要素と比較してかなり小さく、賛否両論以上のすべてのレビューバケットでほぼ同じです。 しかし、ゲームの評価が賛否両論から不評のバケットに下落するとすぐに、ブーストが大きく減少します。これは、好評のユーザーレビューが40%未満の時に発生します。 賛否両論のゲームは、ほぼ不評のゲームよりも500%以上のブーストを受けます。 怖い話に思えるかもしれませんが、あくまでもブーストについての話であり、ストア内のその他多くの要因に比べれば影響も小さい上、少数派です-ストア上のタイトルの71.7%は賛否両論以上です。」
「AC:Unityの場合、最近のレビュー表示では、肯定的なレビューが急増しているように見えますが、全体的なレビュースコアから見れば59.7%から61%に変わっただけで、どちらも十分、賛否両論のバケット内です。」