『YIIK: ポストモダンRPG』開発者に、村上春樹の小説盗用疑惑。意図的な参照であり盗用ではないと反論

『YIIK: ポストモダンRPG』の開発者に、村上春樹の小説「アフターダーク」の一節を盗用した疑惑がかけられている。『YIIK』開発者は、物語の設定上「アフターダーク」の引用であると明記するのは不自然な箇所であるため、村上春樹の名は記載していないと説明。

Ackk Studiosが開発するポストモダンRPG『YIIK:ポストモダンRPG』の会話文に、小説家である村上春樹氏著「アフターダーク」の一文を盗用したと思わしき部分があるとして海外メディアを中心に取りざたされている。

『YIIK:ポストモダンRPG』(以下、YIIK)は今年の1月17日にSteam向け、1月31日には国内PS4/Nintendo Switch向けにリリースされた、サイケデリックな雰囲気漂うRPG。ある日、大学生の主人公Alexは、エレベーターから突然姿を消す女性を目撃する。女性が失踪した真相を突き止めるべく、仲間とともに謎に満ちた旅へと挑むといったストーリー。任天堂が発売する『MOTHER』と村上春樹氏から色濃く影響を受けており、武器であるレコード、カメラ、楽器などを手にし、コマンドバトルをベースとした戦闘を繰り広げるユニークな作品となっている。(関連記事)。

一方、『YIIK』に影響を与えた村上春樹氏は文学界の著名な小説家。平易な文章と個性際立つ世界観、考察の余地を残す先鋭的なストーリーは国内外から熱烈な支持を集め、熱狂的なファンを指す“ハルキスト”という俗称が誕生するほど。なかでも「ノルウェイの森」は上下巻あわせて1000万部を売るベストセラーとなり、今なお、日本人作家のなかでノーベル文学賞最有力候補とみなされている。

「アフターダーク」

なお、今回、盗用されたと思わしき文章が記載されている作品「アフターダーク」のストーリーは、深夜のファミレスで食事をしていた少女“マリ”が、姉である“エリ”の知り合いだという青年“高橋”と出会い、ラブホテルで人助けをすることになるといった内容。深夜の都会という一種の“異界”が描かれた作品となる。

今回の盗用の件はRedditユーザーであるmalphasia氏の以下投稿によって明るみに出た。

"can i copy your homework" "sure just change a few things so it's not obvious"
by inTwoBestFriendsPlay

投稿には、問題となっているゲーム内の会話シーンと小説「アフターダーク」の該当箇所の画像が添付されている。そして比較画像から、両者の文章が“ほぼ”同じであることがわかる。まったく同じ文章ではなく、たとえば「アフターダーク」にて“night bird”と記載されている箇所は、『YIIK』では“dawn bird”と表現されている(どちらも意味は一緒)など、わずかに異なる点もある。redditスレッドには、いくつかの単語を変えただけの明らかなコピーであることを揶揄したジョークとして、「君の宿題コピーしていい?」「いいよ、バレないように文章を少し変えてね」という一文が添えられている。

海外メディアKotakuがこの件に関してAckk Gamesに問い合わせたところ、意図的に「アフターダーク」の文章を使用しているとの回答があったようだ。これは『YIIK』の制作にあたって、「アフターダーク」から強く影響を受けたため、村上春樹氏に対して敬意を表すひとつの形として文章を使用したとのことだ。

また、村上春樹氏の名がゲーム内やサイト内のクレジットに表記されていない理由についても説明している。該当シーンにおいては、「アフターダーク」を読んだことのある主人公Alexの潜在意識が現実世界に浸透しつつあり、「アフターダーク」の“語り手”のような存在として「Proto Woman」というキャラクターが表出。キャラクター自身には「アフターダーク」から文章を抜粋しているという認識がないため、同作からの引用であるとは記載されていないとのことだ。

『YIIK』はリリース直後から別件で議論の的になった過去がある。たとえば、エレベーターから失踪した女性の真相を追うというストーリーのプロットは実際にロサンゼルスで起きた事件「エリサ・ラム」事件を反映しているとして、“人の死と行方不明になったアジア人の女性を拝むことで利益を得ている”といった趣旨の批判に晒された。これに対し開発者のひとりであるAndrew Allanson氏は「気にしなかった」と発言。また、Allanson氏は、本作の評価が芳しくないことを受けて「ビデオゲームは芸術だと思っていたが、あまりにも多くのゲーマーはキャラクターになりきることに慣れてしまっている。つまりゲームは芸術ではなく子ども向けのおもちゃであり、示唆に富むテーマや刺激の強いテーマは悪いことだと考えられている。」と少々過激な発言が目立ち、批判の的となることがあった(Niche Gamer)。

今回の一件でまた“批判の的”となってしまった『YIIK』。Ackk Gamesが主張する“キャラクターには文章を引用している認識がないから引用や盗用には該当しない”といった考え方は、多くの人が納得できるかどうか、甚だ疑問が浮かぶところである。盗用とオマージュの線引きというのは非常に難しい問題だが、今回のように文字などの形として似すぎていた場合、その正当性を問われるのは当然のことであろう。

Nobuya Sato
Nobuya Sato

最近Apexにハマり始めた人。幾度となく倒されながら高ランク帯を目指す。でも疲れる時もあるよね。その時はソロ専用ゲームをちょっとプレイして寝ます。

記事本文: 375