Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏は4月25日、同社が運営するEpic Gamesストアに関して、競合相手とするValveのSteamについてTwitterにてコメントした。その発言内容は、「もしSteamが、永続的かつ無条件に収益の88パーセントを開発元・販売元に渡すことを約束するならば、Epic Gamesストアは(パートナーへの責任を果たしつつ)すぐにでもゲームの独占販売を取りやめ、さらにEpic GamesタイトルをSteamにて販売するでしょう」というものだ。
If Steam committed to a permanent 88% revenue share for all developers and publishers without major strings attached, Epic would hastily organize a retreat from exclusives (while honoring our partner commitments) and consider putting our own games on Steam.
— Tim Sweeney (@TimSweeneyEpic) April 25, 2019
これは、Epic Gamesストアが独占タイトルの提供によってその足場固めをしていることについて、PCゲーマーから多くの批判がEpic Gamesに寄せられている状況があるため、この方針を変更する考えはないかというTwitterユーザーからの問いに答える中での発言である。
その質問に対してSweeney氏は、販売したゲームの収益配分においてストア側が30パーセントを持っていくのは、PCゲームの開発者やパブリッシャー、またこのビジネスに関わるすべての人の生活にとって1番の問題であるという考えを示している。この30パーセントというのはSteamが採用している収益配分で、一方のEpic Gamesストアは収益の12パーセントを受け取り、残る88パーセントをメーカーに渡している。
Sweeney氏は、メーカーが抱えるこの問題を解決するためのアプローチとして、独占タイトルを確保する方針は継続すると発言。独占タイトルによってEpic Gamesストアが成長し、さらにより多くのゲームが集まってくれば、潤うメーカーも増えるという考えなのだろう。そこで別のTwitterユーザーが、もしValveも12パーセントあるいはそれ以下の収益配分に改めれば問題は解決されるのではないか、Epic Gamesストアが独占タイトルを囲い込む必要はなくなるのではないかと尋ね、これに対してSweeney氏は冒頭の発言をするに至ったという流れだ。なお同氏のいう“無条件に”とは、扱うゲームに対してほかのストアよりも有利にするよう求めたり、クロスプログレッションなどの相互運用を妨げないということだそうだ。
Here's a breakdown of $100 revenue earned on Steam for an Indonesian developer. Bank fees for international wire transfers in Indonesia are relatively fixed amount. The first image is if the dev is eligible for tax treaty, the second one is without tax treaty pic.twitter.com/pCnZb2Sqad
— Kris Antoni – Toge Productions (@kerissakti) April 25, 2019
ここでSweeny氏が言及した“問題”に関連して、インドネシアに拠点を置くインディースタジオToge ProductionsのCEO Kris Antoni氏が、Steamにて100ドルのゲームを1本販売したと仮定した際の収益の内訳を例示している。それによると、まずValveが30パーセント分の30ドルを受け取り、残るは70ドル。ここから源泉所得税や付加価値税、送金手数料などが引かれ、実際に開発者の手元に残るのは30ドルになるという。居住国が租税条約を締結していなければさらに減る(税金などは状況によって変動)。また、パブリッシャーを介して販売した場合は、そちらの取り分も引かなければならない。Antoni氏は、Epic GamesストアがSteamよりも18パーセント多い収益配分をメーカーに割り当てていることは、インディースタジオにとって多くの意味を持つと述べており、Sweeny氏の問題意識を支持する開発者もいるようだ。
一方で、Sweeney氏への最初の問いの中では、Epic Gamesストアは独占タイトルよりも顧客価値やコミュニティに基づいた成長を目指す方がより良いのではないかとも指摘されていたが、Sweeney氏はこの点については特に言及しなかった。Steamとの比較において、Epic Gamesストアはユーザーレビューやクラウドセーブなど多くの機能が不足した状態にあり、ゲームが独占販売されるとそれでも利用せざるを得なくなるため、反消費者的だというゲーマーの不満に繋がっている面がある。
Epic Gamesストアは、ロードマップに基づいて機能を追加していく計画となっており、長期的に見ればそうした不満は解消されていくのかもしれない。『ボーダーランズ3』をEpic Gamesストアに時限独占提供するGearbox SoftwareのCEO Randy Pitchford氏も、同作が発売される9月までには機能が充実していることを期待する発言をしている(関連記事)。ただ、その間にも多くのゲームがリリースされ、中にはEpic Gamesストア独占となるものがあるだろう。短・中期的には批判の声に耐えながら運営していくことになりそうだ。
Congratulations to Saber Interactive on selling over 250,000 units of World War Z so far on the Epic Games store!
WWZ, Satisfactory, Anno 1800, Metro Exodus, Tom Clancy's The Division 2 and so many more games made this a record weekend for Epic Games store. https://t.co/ZDo7wjmB5W
— Epic Games Store (@EpicGames) April 23, 2019
*Epic Gamesストア独占タイトルのひとつ『World War Z』は初週25万本を販売。開発元は予想を大きく上回る売れ行きだったとコメントしている(関連記事)。
さて、ValveがSteamの収益配分をEpic Gamesストアと同等にする可能性についてはなんとも言えない状況である。Valveは昨年12月に、Steamにおけるゲームの収益が1000万ドルに達すればValveの取り分を25パーセントに引き下げ、5000万ドルなら20パーセントまで引き下げる改革をおこなったばかり。その直後にEpic Gamesストアがローンチし、収益配分についての議論が交わされることが多くなったが、これまでValveはこれといった反応を示していない。
Valveが収益の30パーセントを受け取ることを擁護する意見としては、多くのユーザーとストア機能の管理コストや、メーカーに発行しているゲームのコードからは収益を得ていないことなどが聞かれる。コードの発行については、Epic Gamesストアも非独占タイトルに関してはすでに無償でおこなっており、独占タイトルについても将来導入するとのこと。一方の管理コストについては頷ける部分があるが、前述したようにEpic Gamesストアも機能を充実させていく。いずれそれが果たされた時(あるいはそれまでに)、Valveは収益配分の見直しに迫られるのかどうか注目されそうだ。