『フォートナイト』のダンスエモートについて、ラッパー2 MillyがEpic Gamesに対し著作権侵害で提訴。ダンスの著作権は認められるのか
『フォートナイト バトルロイヤル』で使用されているダンスエモート「スワイプしよう(Swipe It)」について、元ネタとされているMilly Rockダンスを発案したラッパー2 Millyが『フォートナイト』の販売元Epic Gamesに対し、著作権侵害の訴えを起こした。海外メディアのKotakuやGame Informerが報じている。
「スワイプしよう」は『フォートナイト』シーズン5の有料アイテム「バトルパス」を購入しゲームをプレイすることで入手できたダンスエモート。特徴的なダンスであることもあり、その類似性から世間一般的には2 MillyのMilly Rockダンスが元ネタであると認識されている。そしてこのたび2 Millyが法律事務所Pierce Bainbridgeを通して、Epic Gamesを相手取った訴状を正式に提出。自身が創作したダンスが、有料の商品としてゲーム内で売り出されていることを受けて、著作権侵害の訴えに踏み切った。著作権侵害以外にも、著名人の氏名・肖像が持つ商業的価値をコントロールするパブリシティ権の侵害も主張している。具体的な侵害内容としては、「2 Millyが『フォートナイト』で自身のダンスが利用されることを承認した」という誤った印象を世間に広めたことを提示している。これらの訴えから、2 MillyならびにPierce BainbridgeはEpic Gamesに対し損害賠償およびダンスエモートの削除を求めている。
2 MillyのMilly Rockは、2014年に公開された以下の動画をきっかけに広がりはじめたもの。その後は複数のアーティストが自身の曲の歌詞で言及したり、パフォーマンスの一部で取り上げたりと、バイラルヒットとして広まっていった。
「スワイプしよう」の元ネタがMilly Rockであることは、今年7月に同ダンスエモートが『フォートナイト』に実装された当初から指摘されており、2 Milly自身、事前連絡・許可なくダンスを使用したことに不満を示していた。『フォートナイト』で販売されているダンスエモートの多くには元ネタがあり、例えば「ハイプ」エモートはラッパーBlocBoy JBのShoot Dance、「ダブ」エモートはヒップホップトリオMigosの「Look At My Dab」ミュージックビデオ、「きれい好き」はSnoop Doggの「Drop It Like It’s Hot」が元ネタになっていると認識されている。だが元ネタになったアーティストについてはゲーム内でクレジットされないため、ゲーム内で自身のダンスを使用されるケースの多いヒップホップ業界のアーティストからは批判的な声があがっている。Chance The Rapperは、アーティストが収益をあげられるように、そして元ネタがわかるように、ダンスと楽曲をセットで使用してほしいと主張。2 Millyも、誰かの創作物を使って大金を稼ぐのであれば、創作者にも取り分を支払うべきだと述べている。
Fortnite should put the actual rap songs behind the dances that make so much money as Emotes. Black creatives created and popularized these dances but never monetized them. Imagine the money people are spending on these Emotes being shared with the artists that made them
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2018
上の「Voice of Color by Insider」の動画では、主に知的財産権を専門的に扱っている弁護士のShanti Sadtler Conway氏が、米国の著作権法上、特定のダンスを著作権保護できない理由について説明している。米国の著作権法上、複数のダンスステップを組み合わせた振り付けは保護対象に成り得ても、ダンスムーブ単体として保護することはできない。Conway氏はたとえ話として、ひとつひとつのダンスムーブは文章における単語のようなもので、小説家が特定の単語に対し著作権を主張できないように、ダンスムーブ単体での著作権適用はできないと解説している。
とはいえ、オリジナルを創作した側としては、事前連絡や許可なく酷似したダンスを有料販売することを快く受け入れるとは限らない。ゲーム内でのアイテム販売という形式を取る場合、映像作品やライブパフォーマンスでの再現やオマージュとは異なり、直接的にマネタイズとつながるからだ。たとえば「Scrubs」というドラマ内で披露された「Poison」ダンスも、『フォートナイト』で似たものが使用されている。このケースについてドラマで「Poison」ダンスを披露したTurk役の俳優Donald Faisonは、『フォートナイト』で使用されたダンスエモートについて一切の利益を受け取っていないとコメント。11月に米国ロサンゼルスで開催されたVulture Festivalでは、「Scrubs」キャスト陣の再集結イベントが開かれ、そこで観客から「Poison」ダンスをしてほしいとの質問が寄せられた際にFaison氏は、「見たかったら『フォートナイト』をプレイすればいいよ。あいつらダンスを盗みやがったからな」とやや怒りを覗かせながら回答している。ちなみに同ダンスは、番組撮影中にFaison氏が即興でつくったものとのことだ。
有名なダンスムーブを有料アイテムとして販売することは、『World of Warcraft』『Destiny』など複数のタイトルで確認されてきたもの。ただ『フォートナイト』の場合は、稀に見る爆発的なヒットと膨大な売上により業界内外から注目を集めており、他タイトルよりもダンスエモートの使用が目に付きやい(採用しているダンスエモートの数自体も多い)。先述したように、米国にてダンスムーブ単体に関する著作権の主張が認められる可能性は低いと考えられるが、もし今回の訴えが部分的にでも認められるのであれば、その影響は『フォートナイト』にとどまらないだろう。
※12月6日からは『フォートナイト』シーズン7が開幕。上は新しいバトルパスの紹介動画