『スマブラ SP』のリークは結局デタラメだった。本物であると大きく騒がれたフランス発のリーク騒動はどこ吹く風、桜井氏がサプライズを演出

昨日11月1日、「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL Direct 2018.11.1」が配信された。『スマブラ』最新作がスペシャルであることがあらためてわかる内容であった。そしてまた、これまでのリークがデタラメであることも証明されることになった。

昨日11月1日、「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL Direct 2018.11.1」が配信された。『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL(以下、スマブラ SP)』に『ストリートファイター』シリーズのケンや『ポケットモンスター』シリーズのガオガエン、そして早期購入特典としてパックンフラワーの参戦が発表されるなど、盛り沢山の内容だった。DLCにてさらなるファイターを追加していく計画も発表された。ファイターは発売時点では今発表されているものがすべてで、DLCのファイターもまだ開発には取り掛かっていないとディレクターである桜井政博氏は語った。つまり、現在開発されているファイターはすべて公開されたこととなる。

それはすなわち、過去取りざたされたリークの真偽をはっきりさせるという意味を持つ側面もある。『スマブラ SP』は期待の新作であり、「参戦ファイター」という予想しやすい項目が存在することもあってか、しばしば噂の的になる。個人の参戦希望を述べることや予想を立てて盛り上がるという楽しみ方が存在する一方で、「リークである」と題して人々の注目を集めようとする厄介なユーザーも存在するわけだ。発売が近づくにつれて注目度があがり、その量は増えるばかり。しかしながら、今回の公式発表を終えたことで、これまで有力視されていたリークが偽りであることが発覚した。

 

騒動の始まりは、ぼやけた画像から

今作において、もっともインターネット上を騒がせた噂は、フランス発の写真だ。とあるユーザーが匿名で、Snapchatにて撮影された2枚の『スマブラ SP』のイラストを映した動画とそのスクリーンショット画像を投稿したところから騒動は始まった。はっきりとした経緯は不明であるが、このぼやけた絵はDiscordなどで共有されたのち、最終的に4chanに貼り付けられた。イラストはぼけているものの、未だ公式には出ていない「ファイターの存在しない全体絵」が投稿されたことが関心を引いた。さらに、ファイターの結集している絵がこれまで公開されたイラストと異なる点が、注目を集めたのだ。『スマブラ SP』の集合イラストにはところどころに空きがあり、そこを参戦ファイターが埋めていくというのがひとつの様式になりつつある。流出した(とされる)イラストでは、その“空き部分”にキャラクターが写っているように見える。拡大し、色やシルエットから浮かび上がった参戦キャラクターは、以下のようになる。

・シャドウ(ソニック・ザ・ヘッジホッグ)
・バンジョー&カズーイ(バンジョーとカズーイの大冒険)
・ケン(ストリートファイター)
・ロビン(黄金の太陽)
・マッハライダー(マッハライダー)
・ジーノ(スーパーマリオRPG)
・コーラスメン(リズム天国)

こうしたキャラクターが参戦するとリークされたというのが、この事件のメイントピックだ。この情報だけを羅列すると、よくある妄想の域をでないのだが、事態は思ったよりもややこしかった。調査が進むうちに、この匿名のユーザーの写真にうつった情報から、画像の投稿主である“彼”の名前が判明し、たちまちLinkedInのプロフィールが発見される。そのプロフィールから彼がACP-PLVというフランスのマーケティング会社に勤めていることが発覚した。そして、ACP-PLVの公式ホームページには、取引先としてバンダイナムコエンターテインメントのロゴが記載されている。バンダイナムコエンターテインメントといえば、『スマブラ SP』の開発に携わる会社のひとつ。同作のヨーロッパのマーケティングに携わっていると考えるのは、不自然ではない。つまり、『スマブラ SP』のマーケティングに関わる会社の従業員が、不用意にリークをしてしまったという筋書きのストーリーが生まれたわけだ。信憑性を高める情報としては、当該写真に今年12月に公開される映画「グリンチ」の宣材画像が映っており、この画像がマーケティング会社から流出された、信憑性の高いものであるという見方が強まった。それゆえに、これらの一連の騒動はGrinch Leakと名付けられている。

 

人間を巻き込んだシナリオ

Image Credit : ResetEra

その後、『スマブラ SP』の写真を投稿した疑惑の人物が、逃げるようにLinkedInのプロフィールを削除。さらには、このリーク疑惑を受け、PLVの関係者であるMaria氏はFacebookにてフランス語で騒動に言及した 。氏は、噂を掻き立てるメディアはGoogleに頼るのをやめてほしいと一刀両断し、(リーク画像を投稿した)従業員は2016年11月で退社しており、LinkedInプロフィールはその時期から更新していないだけであるとコメント。さらにバンダイナムコエンターテインメントついては、ナムコとは過去に付き合いがあったものの、今はないとも反論。『スマブラ SP』の宣伝には携わっておらず、会社が秘密保持契約を守らないかのような報道をするのはやめてほしいと懇願した。はっきりと今回の騒動と無関係であることを言明した形であるが、一方でリークを示唆するイラストを映した動画が削除されたことを受け、「リークが真実だからこそ、これほど必死に弁明しているのだろう」という見方をするユーザーやメディアも存在した。PLV社が無関係ならば“リークのシナリオ”はほころびが生まれ、いくらか信憑性を失うことになる。ただ、訴訟問題を危惧しているかのようなMaria氏の深刻な抗議が、騒動の真実味を高めたという解釈もできるわけだ。

『スマブラ SP』においては、これまでRedditや4chanなど、数々のフォーラムにて無数の噂がばらまかれてきた。こうした情報の多くは、文字情報もしくは一枚の画像を貼り付けただけの情報量の乏しい“自称リーク”であるが、今回の騒動は人や会社を巻き込んだ、“本物”であることを匂わせるようなさまざまな関連性が存在する。次第にコミュニティは、リークを信じる派とリークはデマであると否定する派に分かれて議論が交わされるようになった(Kotaku)。リークが本物であると信じる根拠としては、一連の騒動に加えて、ロンドンで開催されたComic Conのブースに「グリンチ」のパンフレットが存在したことがRedditユーザーによって報告されたことも根拠としている。あらためて、『スマブラ SP』と「グリンチ」の結びつきが強いとし、前出の画像の信憑性は高いと主張する。デマ派の言い分としては、ファイターの写っていない集合イラストの背景が既存の画像とやや雰囲気が異なるということや、『スマブラ SP』の参戦ファイターを部分的に言い当ててきたVergeben氏がこの噂を否定したことを反論の材料として提示。その他参戦枠や選定の部分で、疑問の余地があるということが挙げられた。

 

サプライズを提供

しかしながら、11月1日のダイレクト放映を受けて、最終的にフランス発のリークは根も葉もない噂であったことが判明したわけだ。ケンが参戦するという部分はあたっていたが、リークされた集合絵のケンの位置と実際の集合絵のケンの位置は異なっている。ケンの参戦の噂はこれまでに幾度か存在していたものの、そもそもリュウのダッシュファイターとしてケンが参戦するというのは、予想しやすい事柄だと言わざるを得ない。ガオガエン、そしてサプライズであったパックンフラワーの参戦を言い当てられていないリークは、“たまたま当たった”という域を出ないものであるだろう。また、先日任天堂が投稿したTwitterの映像に映った芽のアイコンから『黄金の太陽』のロビンの参戦を予想したユーザーも存在したが、結局それも事実ではなかった。最終的に桜井氏はダイレクトにて、パックンフラワーという誰も予想できない爆弾を最後に投じた。リーク騒動はどこ吹く風、痛快ともいえる華麗なるサプライズを用意し、ダイレクトは締めくくられた。

結局リークがデマであることが発覚した一方で、このGrinch Leakについては謎に包まれたままだ。誰がなんのためにこれほど“真実味のあるシナリオ”を用意したのか。LinkedInがバレるところまでも仕込まれていたのか。コミュニティでは、一連の騒動は『スマブラ』シリーズにおける、もっとも巧妙なガセ情報とも評されている。『鉄拳』シリーズを手がけるバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏は、『鉄拳』シリーズにおいて、意図的にガセ情報をまくことで情報伝達ルートを把握するなど、情報漏えいを防ぐためにさまざまな試みをしていると話す。もしかすると今回も、任天堂とバンダイナムコエンターテインメントによる“意図的な釣り”がおこなわれていたのかもしれない。

近年では『Call of Duty』や『アサシン クリード』、『バトルフィールド』シリーズなど大型タイトルは、新作が発表される前にリークされることがもっぱらで、“サプライズ”を隠し続けることが難しくなってきている。任天堂と桜井氏が最後まで『スマブラ SP』におけるサプライズを守り通した裏には、並々ならぬ努力があったことは間違いないだろう。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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