ゲーム開発者達が“労働環境の改善”を訴える #AsAGamesWorker タグが、海外Twitterで反響を呼ぶ。一連の解雇騒動を受けて声をあげる

ここ1年で、さまざまなゲーム会社がレイオフをおこなった。直近ではTelltale Gamesが200人以上の解雇をおこなっている。こうした解雇を含め、労働環境の悪化に危機を抱いたゲーム開発者たちが #AsAGamesWorker と呼ばれるタグで声をあげ始め、反響を読んでいる。

今年9月、『The Walking Dead』などのアドベンチャーゲームを手がけるTelltale Gamesが、パートナーへの義務を果たすためのスタッフ25名以外の全従業員を解雇した。公表はされていないが、同社の規模からして250人近くが職を失ったと見られている。また同月には、カナダにあるカプコンの開発スタジオCapcom Game Studio Vancouverでも大規模な整理解雇が実施。158名のスタッフが解雇され、同スタジオは2019年1月をもって閉鎖される(関連記事)。

業界紙GamesIndustry.bizによると、この1年で1000人以上のゲーム開発者が職を失ったという(一時的なものも含む)。昨年10月には、『Dead Space』シリーズの開発元として知られるEA傘下のVisceral Gamesが閉鎖(関連記事)。11月には前出のTelltale Gamesがレイオフを実施。当時、全従業員のおよそ4分の1にあたる90名のスタッフが解雇された。同月には、『Torchlight』シリーズで知られるRunic Gamesの閉鎖や、また同スタジオと同じくPerfect World傘下にあるMotigaでの大規模なレイオフもあった(関連記事)。今年に入ってからは、Cliff Bleszinski氏率いるBoss Key Productionsの閉鎖や(関連記事)、『マフィア III』を手がけたHanger 13でのレイオフ、一昨年一旦閉鎖された『DRIVECLUB』の開発元Evolution Studiosの、引受先となったCodemastersで制作した『ONRUSH』のリリース後に実施されたレイオフなどが大きく報じられた。

スタジオの閉鎖やレイオフは非常に残念なニュースではあるが、この業界においては珍しい出来事ではないことも残念ながら事実。ただ、先月のTelltale Gamesの一件では、事前に予告されることなく突然解雇されたことから、元従業員による集団訴訟に発展している(関連記事)。こうした動きを受けてか、SNS上ではゲーム開発者らが「#AsAGamesWorker」というハッシュタグを使い、ゲーム業界の労働環境について声を上げ始めているのでいくつか紹介したい。

発端となったのは、WB Games Montrealに勤めるゲームデザイナーのOsama Dorias氏の発言だ。同氏は10月3日、「ゲーム業界で働く者としては(As a games worker)、株主やクライアント、経営、世間体、慣習、企業文化、その他諸々よりも、まずゲーム開発者が幸せであるよう取り組んでくれる業界で働きたい」とツイート。これにほかの開発者らも「#AsAGamesWorker」を用いて呼応した。

2Kや米国任天堂でソーシャルメディアマネジャーを勤め、現在はフリーで活躍するJared Rea氏も、従業員に対して敬意を持って接する業界であってほしいとコメント。そして、それは将来にわたって才能ある人材を受け入れることができる、持続性のあるビジネスモデルにもつながるはずだと述べている。

https://twitter.com/emilybuckshot/status/1047222960807849985

Telltale Gamesでナラティブデザイナーを務めたEmily Grace Buck氏は、週末を含め毎日夜9時まで働き、ゲームの完成後は、会社に対するゲーマーからのクレームなどに個人的に対応しなければならないような業界は望まないと述べ、会社のリーダーとなる人は、リーダーとしての訓練をまず受けるべきだとする。またゲーマーに対しては、ゲームは才能溢れる開発者たちが、作品への愛だけでなく生活をもかけて手がけたものであることを理解してほしいとしている。

同じくTelltale GamesやHanger 13などでQAエンジニアとして勤めたTravis Goodwin氏は、業界はQA(品質管理)をスキルの必要な職種であると認め、能力に応じた報酬を支払ってほしいとコメント。ステップアップするための足掛けであったり、携わる人を消耗品として見られるなど、QAの仕事は“開発者”として扱われていないと感じているようだ。

inXile Entertainmentで『Wasteland 3』のプロデューサーを務めるBrissia Jimenez氏は、性別(あるいは性自認)や人種などによって、クリエイティブな仕事から除外される例が以前の職場ではあったとし、誰もが努力に見合ったポジションに就ける業界であってほしいと発言。Riot Gamesなどで働き、現在はZyngaにてシニアプロデューサーを務めるTami Sigmund氏もゲーム開発者の性別について述べている。彼女は12年のキャリアを持つが、その中で一緒に仕事をした女性はたったひとりだそうで、特にエンジニアに関して、もっと女性が活躍できるよう望んでいる。
【UPDATE 2018/10/4 10:20】
Brissia Jimenez氏の発言が、「以前の職場環境」についての意見であることがわかるように修正しました。

業界に多様性や受容性を求める声は、ほかにGuerrilla GamesのシニアシステムデザイナーSteven Lumpkin氏や、Creative Assemblyなどでテクニカルアーティストとして活躍したJodie Azhar氏など数多く見られる。

https://twitter.com/disco_jill/status/1047208686341562368

Ubisoftなどを渡り歩き、Eidos-Montréalのリードライターとして『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』に携わったJill Murray氏は年齢について意見している。34歳でゲーム業界に転職したMurray氏は、現在業界の平均年齢よりも上だという。しかし、この業界では29歳をひとつの区切りとする一種の慣習があるようで、その歳を迎えるデザイナーが頭を抱えているのを多く見てきたという。そのためMurray氏は、年齢を重ねても確実にゲーム開発に携わっていける道筋を持つ業界であってほしいとしている。

NASAと協力して『Earthlight』を開発しているOpaque SpaceのゲームデザイナーJennifer Scheurle氏は、ゲーム開発者も労働組合を持つに値するのではないかとコメント。職場からハラスメントをなくし、また2〜3年おきに職場を変えなければならないような普通ではない環境から保護されるべきだとする。さらに将来的には、ゲーム開発とはどのような仕事なのかファンに理解してもらえる透明性を持ち、また多様性と責任、リスペクトのあるコミュニティを構築できる業界であってほしいと述べている。

ここで紹介したゲーム開発者の「#AsAGamesWorker」の声は、必ずしも彼ら彼女らが現在所属している会社への不満を表明しているわけではなく、あくまでゲーム業界を良くしようという提言であるが、かねてから鬱積していたものが一気に噴出した印象だ。ゲーム業界関係者という特定のハッシュタグとしては、かなりの量の声が投稿されている。意見は、労働環境におけるさまざまな部分に向けられているなか、多様性や受容性に関する意見が特に多く見られた。

また業界を広い括りで捉え、消費者であるゲーマーに関するコメントも少なくない。SNSが普及し、ファンの声が開発者個人に直接届けられることが多くなったためだろうか。その中で、自分たちがどのような仕事をしているのか、うまく伝わっていないと感じているようだ。Creative AssemblyのナラティブデザイナーPete Stewart氏も、ただファンに楽しんでもらえる良いゲームを作ることを望んでおり、ゲーム業界で働く者としてはいつか理解してもらえたら良いなとコメントしている。本稿で紹介した「#AsAGamesWorker」の声はごく一部で、今も続々と投稿されているようだ。興味のある方はこのハッシュタグで検索してみてはいかがだろうか。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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