任天堂の「マリオ」作品を題材にした二次創作キャラ「クッパ姫」がTwitterにて空前絶後の人気に。マレーシアユーザーの“発想の転換”から流行は始まった

キーワード「クッパ姫」が、9月23日から日本のTwitterのトレンドを独占している。トレンドの最上位をキープし続けており、その勢いは衰えるどころか強まるばかり。そんな熱狂的な「クッパ姫」現象は、なぜ起こったのだろうか?時系列的にその謎を紐解いていこう。

キーワード「クッパ姫」が、9月23日から日本のTwitterのトレンドを独占している。トレンドの最上位をキープし続けており、その勢いは衰えるどころか強まるばかり。すでに100万ツイートを超えており、2018年のTwitterにおける一大トレンドのひとつともいえるヒットを飛ばしている。さらには、クッパ姫から派生した「キングテレサ姫」もトレンドに出現。まさに狂想曲ともいえる状態になる。クッパ姫のツイートについては、角の生えたかわいらしい女性がセットで投稿されているが、その正体やルーツはそれほど認知されていないのではないだろうか。あらためて、そのあらましをたどっていきたい。

9月24日19時時点での経過。とにかく盛り上がりまくっている Image Credit : trend24

クッパ姫とは、任天堂の『スーパーマリオ』シリーズに登場する宿敵クッパをピーチ化させた“二次創作キャラクター”だ。任天堂はこれまでの作品で、クッパ姫というキャラクターを登場させておらず、あくまでファンが作り出した非公式キャラクターであることを留意したい。ではなぜこのタイミングで、二次創作キャラクターが爆発的に人気になり始めたのか?この不思議なクッパ姫というフィーバーを語る上では、9月14日まで時計の針を戻す必要があるだろう。

 

スーパークラウンから始まった

そもそもの発端は、任天堂が9月14日に「Nintendo Direct 2018.9.14」を通じて『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』を発表したことから始まっている。同作は、Wii Uで発売された横スクロールアクションゲーム『New スーパーマリオブラザーズ U』に、新要素を導入しNintendo Switchへと移植するタイトル。今作の新要素として、新たなにキャラクターのトッテンとキノピコが使用可能になった。注目すべきは、キノピコの存在だ。キノピコがスーパークラウンを取得し、キノピーチと呼ばれる“人型”のキャラに変身する。

キノピーチは、2段ジャンプに加え、空中に浮くことができたり、落ちても一度だけ自動で戻ってくることができたりと、多機能なキャラクターである。ゲームプレイという観点でみると、プレイの幅を広げるキャラクターである。しかしファンは、キノコ族のキノピコがスーパークラウンを取得することで、人間のような容姿を持つキノピーチへと変化するという設定に注目したのだ。これまで数多くの『スーパーマリオ』シリーズがリリースされており、さまざまなキャラクターが変身をしてきたが、種族自体を大きく変える設定は世界中のファンに衝撃を与えたのだ。詳しくは、弊誌記事を参考にしてほしい。

この種族を変化させる現象について、キノコ族の遺伝子やピーチの遺伝子が起因しているとの見方が強かった。しかし一方で、種族が変化するのは、遺伝子ではなく取得するアイテムである「スーパークラウン」に特別な力があるのではないかと考える人々もいたわけだ。マレーシアに住むhaniwa氏は、同様にこのスーパークラウンの設定に注目。氏は、スーパークラウンはいずれかのキャラクターをピーチ姫のような容姿にさせるアイテムであると捉えた。そして9月19日に、とある画像を投稿。それがこの狂想曲の引き金ともいえるアイデアだった。

haniwa氏の描いたイラストの冒頭では、ピーチ姫に求婚して振られるマリオとクッパが描かれている。この一幕は『スーパーマリオ オデッセイ』の“とあるシーン”からの引用である。そのうち、クッパがスーパークラウンをとることで、ピーチ姫のような容姿へと変化。ピーチ姫から求愛を断られたふたりのうち、クッパがスーパークラウンをとることで、ピーチ化するという思い切った発想なのだ。遺伝子に集まっていた注目を、アイテムにむけることで生み出した、ある種の発想の転換である。過去にもクッパ姫という設定を提唱してきたユーザーはいたが、今回のトレンド入りについてはこの投稿がきっかけだろう。これが「Princess Bowser(クッパ姫)」、別名「Bowsette/Bowzette/Powser」が流行し始めたあらましである。
【UPDATE 2018/9/24 23:30】
細かい表記を調整しました。

氏がこのイラストを投稿したのは、9月19日。このツイートが投稿されたのち、海外のイラストレーターなどがクッパ姫の絵を描き、ある程度人気を博していたものの、国内ではコアなファン以外はその存在を認識していなかった(参考リンク)。本格的に人気に火がつき始めたのは、9月21日に入ってからだ。Twitterユーザー犽氏がクッパ姫をさらに可愛らしく描くイラストを投稿し、多くのRTを獲得したのち、haniwa氏は第二弾を投稿。今度は他の作品の悪役キャラにまじったクッパ姫が、「あいつ痩せた?」と噂されている一幕である。こうして、9月22日からクッパ姫を描く国内のイラストレーターが急増し、23日の夕方から爆発的な人気を呼ぶ。そして今に至る。Pixivのイラストが22日から急増したという背景を考えても、9月22日が本格的に日本で人気になり始めた日であると、考えて良さそうだ。

https://twitter.com/kuroko_14/status/1043278324078796800

 

みんなもともとクッパが好きだった?

クッパ姫が流行した理由は、星の数だけあるだろう。もともと敵キャラクターであるクッパであるが、最後は結局痛い目にあって終わるというのが定番であり、ある意味不遇ともいえるキャラクターだ。海外では、ワルイージが人気を博しており、同キャラを『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』へ参戦させてという署名に4万人以上のユーザーが同意している。『スーパーマリオ』キャラクターにおいては、不遇キャラが一定の支持を得ているという背景がある。

そもそも、クッパは毎回ピーチ姫をさらうものの、完全な悪という位置づけではない。悪役でありながら、時折愛らしさを垣間見せるキャラクターである。ふるくは『スーパーマリオRPG』に代表されるように、シリーズ作品によっては仲間になったり、プレイヤーを助けたりすることもある。『マリオ&ルイージRPG3!!!』では、主役級キャラクターとして活躍し、正義感のある一面を見せるなど、魅力的な一面が描かれることも多い。そんな勝ち気でありながら不遇。そして馴染み深いというクッパが、かわいらしい女性として描かれたことにより、人気を博したという流れであると認識できる。

*そんなクッパの活躍を描く『マリオ&ルイージRPG3!!!』は、12月に『マリオ&ルイージRPG3 DX』としてリメイクされ発売される

もちろん、描かれるイラストが魅力的であったり、流行だから乗るというものであったり、意外性であったり、流行している理由はひとつではないと考えられる。ただ、公式設定の発想を転換したイラストひとつが、ここまでSNSを席巻しているのは、興味深い現象だといえる。日本のゲームの設定を使ったマレーシア発の二次創作は、日本を人気の渦に巻き込んだのち、今度はNiche GamerDestructoidなど海外メディアに取り上げられ始め、日本と海外の相乗効果を生みヒートアップしている。海外でのクッパ姫人気は、これから“目覚め始める”海外メディアに取り上げられ、“第二波”が生まれることが予想できる。

なおフィーバーを引き起こした当人であるhaniwa氏は9月23日に、もともと78人だったフォロワーが100倍である7800人になったことを報告。日本でTwitterのトレンドの上位にランキングに入っていることもあわせて、「嬉しいが少し怖い」とその心境をつづっている。その後フォロワーは増え続け、現在では約400倍である3万人に到達しようとしている。単なる二次創作のイラストが、ここまでの熱狂を生み出すと考えると、喜びと同時に恐怖心を抱くのも当然だろう。氏は、クッパ姫は自分のものではないので好きに書いてほしいと謙虚な姿勢を保ちつつも、そこまで頻繁にイラストを投稿するわけではないので、フォローする場合には期待しないでほしいともこぼしている。2018年のTwitterを代表する現象になりつつある、衰えることのないクッパ姫フィーバーは、どこまでヒートアップし続けるのだろうか。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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