Steamのインディーゲームが「仮想通貨の強制マイニング」疑惑により削除される。マーケット取引と組み合わせ収益化を図る巧妙な手口

Steamで公開されていたインディーゲームが、プレイヤーのPCを使って仮想通貨の強制マイニングを行っていた疑いによりSteamストアから削除された。長時間プレイするとマーケット取引価値のあるアイテムを入手できるというインセンティブをプレイヤーに与え、長時間の不正マイニングを可能にするという仕組みだ。

Steamで公開されていた『Abstractism』というインディーゲームが、ユーザーのPCに仮想通貨のマイニングソフトを忍び込ませ強制マイニング(Cryptojacking)を行っていたとの疑いにより、Steamから削除された。Valveが海外メディアKotakuに寄せたコメントによると、同作には不正なコードが含まれており、また荒らし行為および消費者を騙すことが目的と思わしきゲーム内アイテムを提供していたことから削除処分が下されている。

『Abstractism』は2018年3月に0.49ドルで販売が開始された、ミニマルデザインの2Dアクションゲーム。ストアページのユーザーレビュー欄では、ゲームと合わせてTrojanウィルスとマルウェアがインストールされたとの報告が相次いでいた。その様子を海外メディアEurogamerが報じている。こうした状況を受けYouTuberのSidAlpha氏が調査を進め、同作がプレイヤーのPCにマイニングソフトをインストールしている可能性が高いとの検証結果を伝えた。マイニングソフトをインストールしてしまうと、PCのパフォーマンス悪化、消費電力の増加、また場合によっては感染拡大のリスクを負うことになる。

本作のユーザーからは、以前よりゲーム起動中のCPU/GPU使用量が異様に高いことが指摘されていた。開発者のOkalo Unionは、CPU/GPUに負荷がかかっているのはグラフィック設定を「高」にして遊んでいるからだとユーザーに回答している。だが以下の画像からも分かる通り、本作は高スペックを要求するようなゲームではなく、マイニングに関連した負荷であると考えられている。こうしたミニマルなデザインを採用したのは、ゲームによる負荷を最小限に抑え、マイニング作業に最大限のリソースを割くためだろうか。

『Abstractism』

また本作は今年7月に「Steamアイテムドロップ」システムを実装している。プレイ時間が長ければ長いほどレアアイテムの獲得率が上がり、毎週金曜日にゲームを起動することでドロップの週間上限がリセットされるという仕様であった。これはゲームを起動し続けてもらうことで採掘時間を伸ばそうという魂胆なのではないかと、先述したSidAlpha氏は指摘している。そして毎週金曜日固定でソフトウェアを起動してもらうことで、仮想通貨の取引計算結果を収集し、新しいハッシュを送り込む時間を確保できる。本作のユーザーからは膨大なネットワークアクティビティが確認できたとの報告もあり、裏でブロックチェーンをダウンロードしていたと推測されている。

開発者は以前、『Abstractism』を使って仮想通貨モネロのマイニングを行っているとのコメントを投稿したが、のちに削除された。Image Credit: SidAlpha

また『Abstractism』は仮想通貨の強制マイニングだけでなく、他タイトルのアイテムに見せかけた取引可能アイテムを配信していた嫌疑もかけられている。具体的には、『Team Fortress 2』のアイテムに似せた「Killstreak Australium Rocket Launcher」というアイテムを提供していたと指摘されている本物の「Killstreak Australium Rocket Launcher」は、Steamコミュニティマーケットで高額取引されているものだ。同様の事例としては、『Climber』というタイトルが『Dota 2』を模倣したマーケット取引アイテムを配信していたとしてSteamからのゲーム削除処分が下されている(PCGamer)。

『Abstractism』はほかにも、「Gay Box」「Gay Key」「Genius(小島秀夫監督の写真)」といったジョーク系アイテムを、Steamコミュニティマーケットで取引できるアイテムとして大量に配信していた。つまり、高額で売り払える偽アイテムや、マーケットで需要がありそうなジョークアイテムを入手できるというインセンティブを与えることで、プレイヤーに長時間ゲームを起動してもらい、その間に仮想通貨の強制マイニングを行うという仕組みになっている。ゲームを起動しているだけでアイテムが増えていくため、botによる取引アイテムのファーミング目的としても利用してもらいやすい。ついでにマーケット取引手数料も稼げる。

Steamでは現在、既成アセットを組み合わせただけの「アセットフリップ」と呼ばれる低品質ゲームや、ゲームそのものではなくトレーディングカード取引・実績解除を目的としたゲームが量産されている。今回『Abstractism』が編み出したのは、それらの一歩先を行く、巧妙さ・悪質さが増した収益化モデルと言える。

『Team Fortress 2』のコミュニティサイト「backpack TF」では、偽アイテムによる詐欺被害報告があがっている。Image Credit: PoorAsianBoy

Steamを運営するValveは2018年6月、同プラットフォームでは原則として“すべてのゲーム”を受容していく方針であることを発表した(関連記事)。それまでポルノコンテンツへの急進的な規制と撤回を続けていたことや、低品質ゲームの乱立が問題視されつつあった中、自由化の方針を強める決意表明を出したのだ。

Valveは例外措置として違法行為やTroll(荒らし)行為については禁じるほか、ケース・バイ・ケースでそれぞれの問題に対処していくと明言。リリース前に不適切なコンテンツなどを含んだゲームがあればフィルタリングなどをするとし、完全な無法地帯にはしないという意思を明確にしている。

だが今回の『Abstractism』の事例は、ユーザーが不利益を被るようなタイトルが配信されることを未然に防ぐことは難しいことを示している。本作がSteamから削除されたのは、SidAlpha氏の動画により人々の注目が集まってからだ。Valveは上述した決意表明において、それぞれのユーザーが嫌いなコンテンツが表示されないようにするオプションの充実化を今後の取り組みとして掲げていた。安心して利用できるゲーム配信プラットフォームを目指すには、ユーザー向けのオプション充実化とは別途、今回のような事例が再発しないよう、ゲームの承認プロセスの見直しが求められるだろう。「強制マイニングゲーム」の乱立という事態に陥らないことを願うばかりだ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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