複雑化するゲームのレーティング問題。1回の審査で世界で使える「IARC」はデジタルゲームのレーティングの“答え”になりえるか?

ゲームのレーティングといえば、国内でいえばCERO、欧州でいえばPEGI、北米でいえばESRBなど管轄組織がそれぞれ分かれており、さらにデジタルゲーム向けの規定も存在し始め複雑化の一途をたどっている。一方で、こうしたレーティングを統一化する動きも出てきているようだ。

主に北米で販売されるゲームの対象年齢などを審査している団体ESRB(Entertainment Software Rating Board)は、増加が続く比較的小規模なダウンロード専用ゲームのために、2011年からアンケート方式でのレーティング審査制度を導入している。これは、ゲームの販売元が自主的に設問に回答すれば、自動的に対象年齢区分などを取得できる簡便な仕組みで、無料で提供されている。しかし今年5月、ESRBがこの審査方式を6月にも終了すると報じられ、その恩恵を受けてきたインディー開発者に衝撃が走った(GamesIndustry.biz)。

ESRBのレーティング審査料金は、そのゲームにかかった開発費によって決定され、25万ドルを境に4000ドル(約44万円)あるいは800ドル(約9万円)だとされている(Engadget)。800ドルであっても、小規模な開発者チームにとっては少なくない額だろう。無料の審査方式が導入されたのはそうした負担を減らすためでもあったが、今回の報道は、インディー開発者を多方面で支援するVlambeerのRami Ismail氏が、これからリリースする予定のゲームがあるなら無料の内に審査を受けるんだと呼びかけるほど、そのインパクトは大きかったようだ。

しかし結論から言うと、無料でESRBレーティングを取得する手段はこれからも提供される。ただESRBによると、同団体自身が現在提供している無料審査は、6月中かどうかは決定していないものの、いずれ終了することは事実だという。では、その後はどのようにして無料でレーティングを取得できるのかというと、ESRBが利用を促している「IARC(International Age Rating Coalition)」を通じて取得することになる。IARCは2013年に設立された、ダウンロード専用ゲーム・アプリのみを審査対象にするレーティング団体で、ESRBと同じく無料の簡便な審査方式を採用している。そして、IARCがほかのレーティング団体と異なるもっとも大きな特徴は、ひとつの国・地域に属していないことだ。

アメリカであればESRBが、欧州にはPEGI(Pan European Game Information)が存在し、たとえばESRBレーティングをもってフランスでゲームを販売することはできない。しかし、IARCで一度レーティングを取得すれば、アメリカでもフランスでもゲームをリリースできる。これはIARCが、ESRBやPEGIなど世界各国・地域のレーティング団体が加盟することで成り立っているからだ。その名にCoalition(連合)とあるのはそのためである。現在ESRBとPEGIのほか、オーストラリア・ドイツ・ブラジル・韓国のレーティング団体が加盟しており、IARCでレーティングを取得すれば、それぞれの基準に照らして各団体のレーティングに変換し、自動的に取得できる仕組みとなっている。自らの無料審査を終了するESRBが、今後も無料でESRBレーティングを取得できるとしているのは、この仕組みを指しているのだ。

1回の審査で世界中でリリース

IARCには、レーティング団体だけではなくプラットフォームホルダーも加盟している。現時点では任天堂・マイクロソフト・Google・Oculusの4社が加盟し、ニンテンドーeショップやMicrosoft Storeといったそれぞれのデジタルストアにて、IARCレーティング(および変換された加盟各団体のレーティング)を取得したゲーム・アプリを販売することが可能となっている。先に述べたように、日本のCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)は現時点ではIARCには加盟していないが、一方マイクロソフトは加盟している。そのため、たとえばXbox One向けのダウンロード専用ゲームは、CEROレーティングを取得することなく、IARCレーティングにて日本で販売できるのである。

具体例を見てみよう。下に掲載した画像は、11 bit studiosが発売したアクションRPG『Moonlighter』の、Xbox One版の日本・アメリカ・フランス各ストアでの様子で、日本では「IARC 7+」アメリカでは「ESRB E10+」フランスでは「PEGI 7」とレーティングされていることが確認できる。今まではそれぞれのレーティング団体に申請し、有料あるいは無料で審査を受けていたのが、IARCにて1回審査を受ければこのようにESRB・PEGIレーティングに変換され、また日本ではIARCレーティングのまま発売できる。

今回11 bit studiosにIARCを利用した感想をうかがうと、無料かつ簡便な審査1回で主要マーケットをすべてカバーできることのメリットを強く感じている旨を語ってくれた。さらに、高額で複雑なレーティング審査制度を設けている場合、小規模なインディースタジオであれば、その地域での発売を見送る判断がなされることもあるに違いないとも述べている。また、同じくIARCを利用して発売されたアドベンチャーゲーム『Shape of the World』の販売元Plug In Digitalにも話をうかがったところ、Xbox One版が先行して国内発売されたことについて、CEROレーティングを取得する必要がなかったことが助けになったとコメントしていた。

近年は小規模なメーカーが自ら世界中でゲームをリリースできるようになったが、それは各国・地域によって異なる複雑なレーティング審査に向き合うことも意味する。そうしたなか現れたIARCの仕組みは、メーカーにとって負担を減らす大きなメリットとなっているようだ。

 

国内ではマイクロソフトが先行採用

IARCには任天堂やマイクロソフトも加盟していると述べたが、実際にIARCレーティングのゲームを取り扱うかどうかは地域によって判断が異なる。任天堂は日本では従来どおりCEROレーティングの取得を必須としているため、国内ニンテンドーeショップにIARCレーティングのゲームが並ぶことはない。任天堂の開発者向けサイトでも、海外ではIARCの利用を促しているが、国内では言及していない。一方のマイクロソフトについては上述した通りだが、日本マイクロソフトに確認したところ、まずWindows用ゲームを対象に2015年からIARCレーティングを取得したタイトルの取り扱いを段階的に開始し、2017年からはXbox One向けのダウンロード専用ゲームについても認めるようにしたとのことである。

『Moonlighter』や『Shape of the World』のXbox One版が海外と同時発売となり、PS4版などの国内発売が遅れているのは、日本マイクロソフトのみがIARCを採用していることが大きい(それだけが理由ではないが)。そうなると、IARCはメーカーだけでなくゲーマー目線で見ても恩恵のある仕組みであるように感じられる。もし、任天堂やソニーも日本でIARCを採用すれば、すべてのプラットフォームで海外との同時発売が期待できるだろう。日本ではローカライズが求められるといった問題も残るが、IARCが各国でのリリースのハードルを下げるひとつの要素になっていることは間違いなく、より多くの海外タイトルが国内発売されることにも繋がるかもしれない。

IARCの国内での立ち位置

ただ日本のコンソールにおいては、CEROの審査を受けていないゲームが販売されるのは異例のことである。ここで気になるのは、消費者がゲームの対象年齢や表現内容を事前に確認し、安心して購入できるというレーティング制度の目的を、IARCレーティングは日本においても果たせているのかということだ。繰り返しになるがCEROはIARCには加盟していないため、IARCレーティングは日本の基準に照らした内容にはなっていないと考えられる。極端なことを言うと、たとえばCEROであれば18歳以上対象と評価される内容のゲームが、それ以下の対象年齢として国内ストアに並ぶ可能性もあるのではないか。IARCに加盟しているレーティング団体の管轄内であれば、その団体が評価の監視をおこなう仕組みになっているが、日本では現状それは期待できない。

この点について日本マイクロソフトにうかがったところ、もし不適切と疑われるコンテンツが配信された場合、IARCシステムにはエンドユーザーがその旨報告できる機能が備わっているため、この機能を使ってマイクロソフトのストアチームが責任をもって配信を中止するなどの措置を取るとの回答だった。ユーザーの報告を受けて対処するというのは、従来からあるレーティングにおいてもおこなわれていることではある。ただ、国内でコンセンサスを得ていない基準で審査を受けたゲームが、まずストアで販売されることが前提となっているのは、もし何か問題が起きた場合に業界内外にどのような影響を及ぼすのか、やや不安の残る状態だと言えるかもしれない。

CEROのIARC加盟の可能性は

こうした状態を解消するためには、CEROがIARCに加盟し、IARCレーティングを取得すれば対応するCEROレーティングも取得できる状況にするのがひとつの方法だろう。では、CEROはIARCへの加盟についてはどのように考えているのだろうか。CERO事務局にうかがったところ、IARCとはその発足以来緊密に情報交換と意見交換をおこなっているという。そして、IARCに加盟をする場合の課題点の整理、ゲーム業界との意見調整をおこなってきているが、現時点で決定しているものはないとのことである。

ではIARCやESRBのように、ダウンロード専用ゲームを対象にした、CERO独自の無料かつ簡便な審査制度を国内外に提供する可能性はあるのだろうか。依然CEROへの個別の申請は必要になるが、レーティング制度の意義を理解するスタジオにはこちらを利用してもらえるかもしれない。これに対するCEROの回答は、審査を受託したゲームについては、すべて審査員による審査をおこなっており、そういった制度は設けていないとのことだった。レーティング制度の成り立ちや運用は各国・地域で事情が異なるため、審査制度の追加・変更は慎重であるべきだが、いずれにせよCEROがIARCに加盟するかどうかは現時点では不透明というのが現状である。

IARCには、ソニー(PlayStation Store)も加盟する方向で話が進んでいることが昨年発表されている。冒頭のESRBが無料審査の提供を終了するという話は、おそらくソニーの加盟を待ち、コンソールメーカー3社の足並みが揃ってからになるのだろう。現時点ではPS4向けのゲームではIARCレーティングは使用できないため、無料審査の終了を懸念する開発者もおり、それに対してESRBは心配する必要はないと回答している。

日本に関して言うと、ソニーがIARCに加盟した後、日本マイクロソフトのように国内PlayStation StoreでもIARCレーティングを採用するのかどうかが注目される。CEROがIARC未加盟の現状では、ソニーも任天堂のように見送る判断も十分に考えられるだろう。環境の整備にはまだ少し時間がかかるのかもしれないが、IARCの仕組みはメーカーにとって非常に画期的で、またある面ではゲーマーにとっても有益だと言え、その普及に期待したいところである。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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