まともにゲームを紹介しない狂気のE3発表会再び。皮肉だらけのDevolver Digitalクレイジーカンファレンスまとめ

Devolver Digitalは6月11日、「E3 2018」の開催に合わせてプレスカンファレンス「Big Fancy Press Conference 2018」を実施した。他社のように真面目にゲームを紹介するのではなく、E3というイベントやゲーム業界そのものを皮肉る風刺映像作品とも言える。

Devolver Digitalは6月11日、「E3 2018」の開催に合わせてプレスカンファレンス「Big Fancy Press Conference 2018」を実施した。2017年のE3にて視聴者に衝撃を与えた、四肢切断あり流血ありのクレイジーな発表会の第2弾だ。他社のように真面目にゲームを紹介するのではなく、E3というイベントやゲーム業界そのものを皮肉る風刺映像作品とも言える。ただ、全くの未知数であった2017年とは異なり、手の内が知れ渡った2年目は視聴者の期待に応えることが難しくなる。果たしてDevolverは、人気コンテンツの続編にありがちな2作目のジンクスを克服できたのだろうか。早速中身を見ていこう(昨年のまとめ記事はこちら)。

大量のスモークと大きな声援に包まれながら登壇したのは、Devolver DigitalのCEO Cinco Miller氏(偽物)。やたらとヒップな口調と全身を使った大げさなジェスチャーによる、若くてクールな経営者アピールが続く。メーカーの重役が無理に若ぶることで視聴者との温度差が生じてしまうという、目を覆いたくなるような一幕。E3のような大型イベントで一度は目撃したことがあるのではないだろうか。ちなみにカンファレンスは昨年と同じく、2015年に亡くなった(ことにされている)Iron GalaxyのCPO Dave Lang氏のメモリアル・コンベンション・センターで開催されている(架空のイベント会場)。昨年は遺影だけの出演だったが、今年はLang氏本人が撮影に参加している。故人扱いしても気を悪くしない寛容な方のようだ。

※存命です

バトルロイヤル参入?

Cinco氏はまず、「最先端」「企業理念を貫く」といった輝かしいフレーズや「プレイヤーベースに対するリンケージ方法論の集中的適用」といった凄そうだが何を言っているのかイマイチわからない言葉の羅列により観客の興味を引く。そして会場が温まってきたところで、Devolver Digitalがバトルロイヤル市場に進出することを発表した。バトルロイヤルこそがゲーム業界の未来だと自信満々に語るCinco氏。だが、いつの間にか背後に忍び寄っていたスーツ姿の女性に首の骨を折られ、あえなく絶命する。これには観客も大興奮。「黙れ、惨めな人間のゴミめ!」という暴言とともに現れたのは他でもない、昨年のカンファレンスで一躍Devolver Digitalの顔になったNina Struthers女史だ(女優Mahria Zook)。頭部が破裂して倒れるというショッキングな退場シーンが記憶に残っているが、どうやら無事だったようだ。

Cringe CEO死す

「このナンセンスなショーを始めようじゃない」。初っ端からしびれるほどの貫禄を見せつけるStruthers女史。彼女はまず昨年のカンファレンスに言及し、ネット上で「なんだこのジョークは」「プロ意識に欠ける」「まともなパブリッシャーじゃない」といった辛辣な言葉で叩かれていたことを明かした。今年はそうしたフィードバックを受けて、ゲーマーのみんながE3のカンファレンスに求めている要素をしっかり詰め込んできたとのこと。

それはつまり、凡庸な台詞から気をそらすための過度にド派手なグラフィックや、みんなが見当違いな親近感を寄せている有名人のゲスト出演といったものだ。これぞ2018年のマーケティング。客席からは盛大な拍手。あと忘れてはいけないのが、どう考えても事前に撮影された映像なのに、あたかもリアルタイムでキャラクターを動かしているかのようにコントローラーを操作する開発者。これもまた、人々がE3に求めている演出だという。客席の女性も思わず頷く。

2015年のThe Game AwardsにてTrending Gamer部門を制したGreg Miller氏がゲスト出演……と思いきや、気まずそうに去っていった

クソゲーだけど仕事だから宣伝します

だが、人々が求めるようなカンファレンスに仕上げるには、これだけでは足りない。Devolver Digitalに寄せられた「ゴミのようなフィードバック」の中で一番多かったのは、新作発表が少なすぎるという意見だ。実際、2017年のカンファレンスは事前に「新作発表なし」と告知された通り、トレイラーが流れたのは当時発表済みの『RUINER』と『Serious Sam’s Bogus Detour』の2タイトルのみ。これではカンファレンスとして不十分だというのが大方の意見であった。

そんなわけで、今年は複数のトレイラーが用意されている。複数といっても3タイトルだけ。昨年とそこまで変わらない。まず披露されたのは、スーパーマックス・オープンワールド・サバイバル・シミュレーションゲーム『SCUM』の最新トレイラー。今夏Steamでの早期アクセス販売が予定されている期待作だ。「買ってみてはいかがでしょう、きっと良い作品ですよ。まぁ、私はこんなクソゲーを遊んだりはしないので本当のところはわかりませんが」。なかなか棘のある言葉だが、悪意はないはずだ。トレイラーを流す際に「ゴミを流せ」と呆れ気味に指示を出していたのは、きっと気のせいだろう。

リアリティ番組形式のサバイバルゲーム『SCUM』。プレイヤーは孤島に送り込まれた死刑囚の1人として他プレイヤーと命がけのバトルに挑む

ルートボックスと仮想通貨を組み合わせた画期的発明

続いて、Devolver Digitalが発明した最先端テクノロジー「ルートボックスコイン」が発表された。これは最近話題のルートボックスと仮想通貨のいいとこ取りを目指した新商品である。「ルートボックスはこの一年で何度も記事の見出しを飾るようになりました。そしてマヌケな消費者であるあなたたちは、特に後悔することもなく、この侮辱的なマネタイズモデルに金をつぎ込んできました」。また時を同じくして台頭した仮想通貨は、何が起きているのかよくわかっていない自称・金融エキスパートたちを量産し、世界経済の急所に大打撃を食らわせた。Struthers女史はそう語る。

何が手に入るのかわからないのにポイポイと金を払い続けてしまうルートボックスと、自称専門家ですら何が起きているのかわからないのに金儲けできてしまう仮想通貨。「ルートボックスコイン」は両者を組み合わせた究極のマネタイズマシンなのだ。この見事なアイデアには、客席にいる重役っぽい男性陣も思わず苦笑い。「私たちDevolver Digitalは、全く関心のない物事について自信満々に語ることで、情弱共から金をむしり取るのが大好きなのです」。

悪い顔してます
こりゃ参った

セキュリティが厳しすぎて持ち主ですら価格を把握できない、規制皆無、法的責務無しという夢のような商品だ。開封もマイニングもできず、Devolver Digitalから現金払いで購入するしかない。巷ではルートボックスが賭博に値するか否か議論されているが、「ルートボックスコイン」は賭博というよりもはや詐欺だ。騙される喜びが炸裂したのか、客席の男性がシャツを脱ぎ始める始末である。ちなみに「ルートボックスコイン」を購入すると物理的通貨が郵送されてくるという。

「ルートボックスコイン」はDevolver Digitalのオンラインストアで実際に販売されている。本稿執筆時点では1枚150ドルとバカ高い。驚くことに完売目前だという

続いて『My Friend Pedro』の最新トレイラーが公開された(関連記事)。ユーモラスなGIF画像の数々により話題となった作品だ。と、ここでGIFの正しい発音が「ギフ」なのか「ジフ」なのかでStruthers女史と観客が口論に。指摘してきたのは、『My Friend Pedro』のトレードマークであるバナナを頬張りながらGIFに関するウンチクを垂れてくる中年男性。この招かれざる論客はすぐさま火炎放射器により焼殺される。

逆らうものは灰にする

クラシックミニブームに乗っかる

Struthers女史曰く、最近のゲーム業界では古いレガシーハードウェアのミニチュア版に大量のクラシック作品を詰め込み、高値で出荷するビジネスが流行っているという。思い当たる節はあるだろう。20年前の作品をとんでもないプレミアム価格で売り出し、ノスタルジアのあまりウルっときたゲーマーたちが喜んで買っていく。Devolver Digitalとしてはとても理解できないトレンドであるが、金儲けの機会を逃すわけにはいかない。そこで発表されたのが「Devolver Digital Entertainment System Classic」。同社のクラシックタイトルが25作品収録されている。

助手のマーガレット登場

ところが、登壇したゲストが「これ、ドリームキャストだよ」とあっさり正体を見破ってしまう。しかもゲーム機の中に入っていたのはXboxタイトルの『メタル ウルフ カオス』……というかマーカーでタイトルを殴り書きしただけの空CD-ROMであった。迂闊にも真相を暴いてしまった青年は、助手マーガレットの手によりこっ酷く罰された。

日本語だしカタカナ変だし、ツッコミどころ満載

ちなみにフロム・ソフトウェアが2004年に発売した『メタル ウルフ カオス』のリマスター版『Metal Wolf Chaos XD』がリリースされるというのは、ジョークではなく本当の話である(関連記事)。海外ではDevolver Digitalが、国内ではフロム・ソフトウェアが販売を担当して2018年内にリリースされる。Struthers女史の言葉を借りれば「メック、爆発、過度にドラマチックな声優の演技」によりゼロ年代以降の米国の政治事情を変えた伝説の作品である。海外でもカルト的人気を誇る1作であり、思わぬ発表に興奮しすぎたのか観客の1人が爆発してしまった。

Ninaは二度死ぬ

最後の最後に大きなアナウンスを持ってくるという定番の構成により、「Big Fancy Press Conference 2018」は興奮冷めやらぬうちに幕を閉じる……かと思われた。だがスタッフロールが流れ始めたその時、画面に奇妙なノイズが走る。今年の「Xbox E3 Briefing」でも似たような光景を目にしたはず。グリッチ演出を使ったサプライズだ。続いてNinaの名を呼ぶ眼帯・黒マント姿の男が客席で立ち上がる。そう、昨年のカンファレンスで発表された「Devolver Digital Screen Play」(画面に向かって札束を投げるだけで入金が完了する斬新なシステム)のせいで片腕を失った、あの「金を突っ込んで痛い目に合ったゲーマー」だ。彼が復讐にやってきたのだ。

昨年のE3にて、金を突っ込んで痛い目に合ったゲーマー
復讐の時

無くした片腕の代わりに装着したガトリングガンを乱射し、タランティーノ映画ばりのド派手な銃撃シーンが流れる。昨年は頭部破裂により倒れたStruthers女史。今年はガトリングガンで蜂の巣となり、最後に謎の遺言を残して息を引き取っていった。ここで、今までセリフの無い脇役と思われていた助手マーガレットが駆けつけ「心配しないで、彼らなら何でも直してくれる」とStruthers女史を看取る。

思えば、一度脳味噌ごと頭を無くしたStruthers女史が五体満足な状態で今年のカンファレンスに登壇していたこと自体違和感があった。異様な雰囲気を漂わせる彼女は、もしかすると最初から人間ではなかったのかもしれない。映像の最後では、彼女が全身義体化手術を受けている様子を、被験体となったStruthers女史の視点から眺めることになる。某映画作品を彷彿とさせる展開だ。続編を匂わせながら終わる、マーベル映画的なエンディングでもある。

Devolver Digitalのフェイク・カンファレンスが1年目の衝撃を超えることは、初めから不可能に近いタスクであった。鮮烈なデビューを飾った2017年ほどのインパクトを残すことは極めて難しい。また風刺の対象であろう大手パブリッシャーがルートボックスに対し慎重な態度を見せつつあるように、ネタの一部は鮮度落ちしている。とはいえ続き物を意識した台本構成からは、持ち球がバレている中でも、なんとか工夫を凝らすことで視聴者を楽しませようというエンターテイナー精神を感じ取れた。狂気のDevolverショーがこの先どうエスカレートしていくのか、2019年のE3が楽しみである。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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