Valveは、Steamにて美少女ゲーム(一部例外)を発売する開発者に対して“ポルノコンテンツの削除”を要請するメールを送っていたが、このメールについてデベロッパーに謝罪し、内容を無視するように求めたことが判明した。Valveは先日、複数のデベロッパーに「数週間に作品のポルノコンテンツを削除しなければ、ストアから削除する」との勧告メールを送っていたが、このメールを撤回し、改めてそれぞれの作品の審査をおこなうと伝えているのだ。
We have been informed that content in Re;Lord 1 must be censored by the end of this month or the game will be removed from Steam. We are going to engage in talks with Valve but at the same time make adjustments as requested. https://t.co/ZhG2TnBJcP
— Sekai Project (@sekaiproject) May 18, 2018
事の発端は、Steamにて美少女ゲームパズルゲーム『HuniePop』を配信するHuniePotが、Valveから前述の「ポルノコンテンツの削除を要請するメール」を受け取ったことを公表したことから始まった(関連記事)。そのメールの内容にて、Valveは『HuniePop』がポルノコンテンツを含んでおり規約に違反していると告げ、数週間以内にコンテンツの修正を行わねばストアから削除するというものだった。メール内容はこの一文のみで、ゲームのどの部分がポルノコンテンツとして明かされていなかったという。次第に『Mutiny!!』開発者や『Galaxy Girls』開発者も同様の報告を受けたと報告。ビジュアルノベルだけでなく、脱衣シューティングゲーム『DEEP SPACE WAIFU』も警告対象であったという。
警告を受けたというゲームおよび開発者は、以下のとおり(一部抜粋):
該当タイトル/開発元/販売元
・『HuniePop』/HuniePot/HuniePot
・『Mutiny!!』/Lupiesoft/Mangagamer
・『KarmaSutra』/Top Hat Studios/Super Hippo Games
・『Tropical Liquor』/Tentacle Games/Sekai Project
・『Kindred Spirits on the Roof』/Liar-Soft/Mangagamer
・『Battle Girls』『Galaxy Girls』/Dharker Studio/Dharker Studio
・『Roommates』/Winter Wolves/Winter Wolves
・『Sakura Sadist』/Winged Cloud/Winged Cloud
・『DEEP SPACE WAIFU』/Neko Climax Studios/Hammerfist Studios
・『Coming Out on Top(非美少女ゲーム)』/Obscurasoft/Obscurasoft
・『Forest Fortress』/Flaming Firefly/Flaming Firefly
・『VRカノジョ』/ILLUSION/ILLUSION
曖昧すぎた規約と違反
どの作品も、発売後時間が経過しており、コンテンツの追加もおこなっていないものばかり。順当に考えれば、既存のルールに違反したものが今発覚したのではなく、Valveの設定した「新たな規約」に違反とした形だろう。ところが、以前のものを含めて、この規約が開発者側にはっきりと開示されていないことが問題となっている。昨年6月に開始された新たな配信サービスであるSteam Directには、「ポルノグラフィ」「年齢制限が適切に分類されていない成人向けの内容」という規約が存在しているが、なにをポルノとするのかは依然として曖昧である。かつ、このSteam Directの規約が既存タイトルにも適応されるかははっきりしていなかったという。さらに、美少女ゲームのパブリッシャーであるMangagamerのスタッフはValveスタッフから「ecchi コンテンツは問題ない」と聞かされていたとし、にも関わらずこうした騒動が発生した。
そして今回の通告では、前述したように、どの部分が違反しているのかが告げられなかった。ルールが曖昧であるにも関わらず、数週間以内の削除を告げるという強引な手法をとったValveには、開発者だけでなくメディアやコミュニティからValveに対する批判が展開されている。Kotakuは「Valveの一貫性のない施策」と懐疑的な記事をあげRock,Paper,Shotgunもまた「Valveの一貫性は皆無」と厳しく批判。両メディアともに以前にValveは18禁美少女ゲーム『屋上の百合霊さん』の無修正版の配信を認可していたことをあげ、首をかしげている(同作も今回通知を受けている)。HuniePotは「Anime Titty Holocaust(アニメおっぱいホロコースト)」であると批判を展開し、「waifuholocaust(嫁ホロコースト)」という過激なハッシュタグを付け、それに呼応するように多くのユーザーがValveの決断を批難している。
一見すると、Valveの突然かつ強引な施策が目立つが、物事は思ったよりもややこしい。忠告を受けたデベロッパーは、いずれも“外部パッチ”を採用したタイトルであったのだ。外部パッチとは、Steamにて配信されている美少女ゲームに適用する、外部サイトで配られているパッチ。これらを使うことで、当該美少女ゲームの“より過激な性表現”が解禁される。ようするに、正規の道では審査は通らないがゆえ用意された、抜け道とも言える手段だ。前述したようにMangaGamerのスタッフは、Valveスタッフがこの行為の容認するコメントを受け取っていたほか、HuniePotもまた半ば容認ともとれるコメントを受け取っている。しかし一方で、抜け道を使い過激な性描写を解禁させていたデベロッパーに対して警告が通知されたという文脈では、Valveの決断を支持する人もいるわけだ。
一時は、今回の警告には「2Dの乳首描写の有無」が深く関係しているのではないかという指摘もあったが、のちにリストアップされた『DEEP SPACE WAIFU』を代表に乳頭の描写が確認できないタイトルも複数存在し、やはり外部パッチが今回の問題に深く関わっている様相が呈してきた。ただし、外部パッチを導入している作品のすべてが警告を受けているわけではなく、基準は曖昧なままである。
前言撤回、再調査へ
国内外の反発が高まる中、今月19日にValveはメールを送った開発者に対し新たなメッセージを送った。その内容とは、前回送った「ポルノコンテンツの削除」に関するメールが招いた混乱について謝罪し、その内容を無視してほしいと告げる旨のものであるという。ただし、これらの審査はあくまで再調査という形であり、ゲームの表現が容認されたわけではないようだ。各デベロッパーは話し合いに応じたValveに感謝を示しつつも、予断は許さない状況であると依然として警戒心を強めている。
Lupiesoft has also just received word from Valve that Mutiny!! is being re-reviewed for content, and that the 2 week deadline is off.
We'll update everyone as any more information comes our way.
— Lupiesoft (@Lupiesoft) May 19, 2018
これを機に各デベロッパーは、アダルト表現が容認された海外向け作品プラットフォームNutakuやFAKKUへの進出を検討し始めているようだ。HuniePotはすでにFAKKUでゲームをリリースし、「選択肢はあるにこしたことはない」とマルチプラットフォーム路線を続けていくとしている。itch.ioの幹部であるSpencer Hayes氏やNutakuの公式アカウントは、ぜひうちでのリリースを検討してくれと営業活動をおこなってもいる。とはいえ、Nutakuでもゲームをリリースしている『Mutiny!!』の開発者は同作の収益は8割がSteamから入っていることを明かしており、デベロッパーにとっては外せない選択肢であるのも確かなようだ。
昨年よりSteam Directの解禁と同時にポルノをセールスポイントとする作品が急増。ギリギリを狙う作品も多く、Valveは『House Party』や『Strangers in a Strange Land』といった“モロ”なポルノゲームに対し変更を勧告してきた。そのほか、10月には開発者らにSteam内コミュニティにて外部パッチの情報を共有することを禁じていた(関連記事)。遡ればこれまでの言動や方針とは矛盾が見えるものの、プラットフォームの成長に伴ってか、近年においては規制や削除の方向で動いているのは間違いない。ValveとSteamの美少女ゲーム開発者をめぐる攻防は、一体どのような結末を迎えるのだろうか。
【UPDATE 2018/5/21 19:30】
弊誌が、今回Valveから警告を受けたMangaGamerに問い合わせをしたところ、MangaGamerに携わる日本アニメコンテンツ株式会社の広報が回答を寄せている。Steamタイトルにおいてはそれぞれのさじ加減でエッチな作品の販売・全年齢化を行っており、各社のさじ加減で性的表現について調整を進めているという。氏は、一度審査が通った作品が具体的な理由もなく、販売停止の警告を受けるのは落ち着かないともこぼしている。また数ヶ月前には全年齢化した『その花びらにくちづけを ミカエルの乙女たち』を発売後にValveに取り下げられ、その後まったく取り合ってもらえなかったという経験もしているようだ。各社とも動揺を見せているだけに、少なくとも今後Valveが一貫したルールを設けることは急務となりそうだ。