アメリカのロサンゼルスに拠点を置くアプリ会社Jam Cityは、『ハリー・ポッター：ホグワーツの謎』をiOS/Android向けにリリースした。本作はWarner Bros. Interactive Entertainmentと提携し開発されたタイトルで、人気ファンタジー作品「ハリー・ポッター」をテーマとした作品となっている。
ゲームジャンルとしてはRPGとなっており、プレイヤーは謎の失踪を遂げた兄を持つ生徒としてホグワーツ魔法魔術学校に入学。ホグワーツでは「グリフィンドール」「ハッフルパフ」「レイブンクロー」「スリザリン」といった各寮を選んで入寮し、友人と交友関係を深めたり、呪文習得や授業を受けたり、スネイプに邪険にされたりしながら青春の生活を送っていく。ゲーム中は行動や選択肢によってステータスが変動することもあり、うまく自キャラクターを成長させていくことを目指す。イベントをこなすと章が終わり、一年生から順次進級していく。
『ハリー・ポッター：ホグワーツの謎』では自由に学校を歩き回ることができ、緻密に再現されたホグワーツ、愛らしくアニメーションするおなじみのキャラクターなど、ファンサービスにあふれた作品である。しかし一方で、このアプリをめぐっての課金要素が賛否両論を呼んでいる。IGNやEurogamerといった海外メディアがこの課金についての批判を繰り広げている。
本作は基本無料アプリであるが、ゲーム内課金形式を採用している。具体的には「エネルギー」という名のスタミナシステムが導入されており、ゲームを進行させる行動を起こすことでエネルギーが消費される。自然回復のほかに、課金することで手に入る「ダイヤ（ゲーム内での微々たる量が入手可）」でこのエネルギーが回復するという形だ。エネルギーの初期値は24となっており、放っておけばおよそ4分に1エネルギーが回復する（Newsweek）。エネルギーの上限は徐々に増えていくが、序盤は100分程度で満タンまで回復すると考えればいいだろう。結論からいえば、このエネルギーは、消費は早く回復は遅い。ゲームを進行させればあっという間にスタミナは消費され、次に進めるために待つことを要する。
この仕様自体は多くのアプリに採用されている珍しいものではないのだが、タップにより一瞬でスタミナが消費するというゲームプレイの手軽さもあり、消費と回復のバランスがうまく釣り合っていない側面もある。また物語の進行が要となっている作品であるだけに、物語の進行が途切れ途切れになる仕様に不満が出ているようだ。
さらに、本作のクエストにおいては時間制限が存在している。エネルギーがマックスの状態から始まっていれば、エネルギーを使い果たした後回復を待ち、ふたたびエネルギーを使うことでほとんどのクエストはクリアできる。しかしエネルギーが少ない状態で始まれば、エネルギー不足によりクエストが失敗することは少なくない。クエストを失敗しても再挑戦できるほか、ロストするものはあまりないものの、エネルギー切れでクエストが失敗になることの心証はよくない。
心証という面では、多くの人々がこのエネルギーシステムと直面する場面がある。それが「悪魔の罠」のシーンだ。序盤のとある場面で、プレイヤーはツタのようなものに首元を締め上げられ、光を灯す魔法を唱えることで脱出をはかろうとするのだが、要求エネルギー量がかなり多く、ほぼ確実に待つことを強いられる。待っている間、プレイヤーはツタに首を締められた状態のままで、エネルギーが足りない状態で解放しようとするとダイヤの購入を促される。制限時間は8時間と長いので、こちらのクエストを失敗することはそうないと思われるが、緊迫のシーンであるにも関わらず課金が催促され、課金しなければエネルギー回復を待つことになる展開には、国内外で不満が噴出している。
I see I'm not the only person to have screenshotted Harry Potter: Hogwarts Mystery's "pay up or continue to be strangled" moment
(thx, @ShaunJonTheDon @purrsneakitty) Any more? pic.twitter.com/ITvAHsN6CD— Tom Phillips (@tomphillipsEG) April 30, 2018
課金形態としては、ゲームが進行すると、エネルギーとは別に次のクエストに挑むのに数時間の待機を要されることもある。こちらもダイヤで時短することが可能。そのほか、プレイヤーの髪型や身につける衣服などの一部はゲーム内マネーやダイヤによって購入する、いわゆるコスメシステムを導入している。IGNはredditやTwitterユーザーの批判を引用し、エネルギーを中心とした課金システムに疑問を呈しており、Eurogamerは同作の大ファンとしながらエネルギー消費のバランス設定を強く批判している。くわえて、「ハリー・ポッター」は世界的人気IPであり、子供も親しむゲームだ。こうした作品において随所にて課金誘導をおこなうゲーム性も疑問視されている。
ただし、本作においてはランダム性のある要素は存在するものの、ルートボックスに匹敵するシステムは導入されていない。スタミナシステムとコスメシステムによるアイテム課金を狙いとしている。課金をしなければ進行が遅くなるものの、進めないポイントはまだ確認されていない。賭博などと関連するルートボックス問題とはまた異なる視点で批判されていることは留意すべきだろう。
1 energy point=1 minute. THANKS
— Àlex ? (@leninesmipadre) May 1, 2018
また、本作は前述したように特定の部分においては完成度が高いという一面もある。翻訳はぎこちないものの、ゲームの進行はテキストだけでなく、凝った演出が展開される。原作キャラクターが忠実に描かれていると言えるかは不明であるが、愛らしく描かれているのは確か。公式Twitterには「エネルギーの仕様を変えろ」という批判が殺到しているように、ゲームが魅力的であるからこそエネルギーという足枷に不満を抱くのだろう。エネルギーの仕様が見直されれば、評価が大きく変わる可能性も存在している。
最近ではベルギーやオランダにおいて、ルートボックス導入タイトルへの規制の具体的な働きかけが始まっている（関連記事）。前述したように、本作においてはスタミナやコスメを柱とした課金形式を採用しているが、それでも多くの批判が集まっている。手法が悪ければ、ルートボックスでなくても批判されることは珍しくない。一連の騒動によりゲーム内課金自体にアレルギーを示すユーザーも少なくなく、ゲーム会社各社はルートボックスの有無に限らず、慎重なマネタイズ手段の導入の検討が必要になるのかもしれない。
