『ゴーストリコン ワイルドランズ』にて『メタルギアソリッド』を仄めかす一幕。サム・フィッシャーが「バンダナを巻いた男」の引退を偲ぶ

『ゴーストリコン ワイルドランズ』では4月10日、最新アップデート「Special Operations 1」によりクロスオーバー・ミッションが追加された。今回のアップデートは「トム・クランシー」ブランド同士のコラボレーション企画として注目を浴びたわけだが、ミッション完了後のカットシーンでは、「トム・クランシー」ではない別のゲームシリーズのキャラクターに言及する一幕が描かれている。

『ゴーストリコン ワイルドランズ』では4月10日、最新アップデート「Special Operations 1」により『スプリンターセル』シリーズとのクロスオーバー・ミッションが追加された(関連記事)。プレイヤーが操作するゴースト部隊が、ボリビアのユニダッド基地に単独潜入した伝説の諜報員サム・フィッシャーと合流し、彼の任務遂行をサポートするという内容だ。潜入・戦闘・護衛の3段階に分かれた緊張感のある特殊ミッションとなっている。

今回のアップデートは「トム・クランシー」ブランド同士のコラボレーション企画として注目を浴びたわけだが、ミッション完了後のカットシーンでは、「トム・クランシー」ではない別のゲームシリーズのキャラクターに言及する一幕が描かれている。

※以下の文章・動画には『ゴーストリコン ワイルドランズ』のクロスオーバー・ミッションに関するネタバレが含まれているため要注意

 

引退したらしいわ

注目したいのは、任務を終えたサム・フィッシャーが、ゴースト部隊の指揮を執っているカレン・ボウマン捜査官と会話するシーンだ。ボウマンが「相変わらず飛び回っているみたいね」と声をかけると、サムは「ああ、他に誰もやらないからな…いや、もう一人いたな、単独潜入好きが…バンダナを巻いている…」と語り始める。それを受け、ボウマンは「引退したらしいわ」と答える。サムは寂しげな顔を見せ、「そうか…」と数秒間沈黙する。

単独潜入好きな、バンダナを巻いた男。おそらく、『メタルギアソリッド』シリーズのキャラクターを示唆しているのだろう。『ゴーストリコン ワイルドランズ』の舞台は2019年のボリビアであり、時系列としては『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』の後となる。2019年の出来事であること、そしてボウマンの「”やっと” 引退した(I heard he finally retired)」という台詞から、ビッグ・ボスではなくソリッド・スネークを指していると考えられる。

仮に「バンダナを巻いた男」がソリッド・スネークだとすると、「トム・クランシー」シリーズと『メタルギアソリッド』シリーズは同一世界の作品ということになるのかもしれない(そう断言できないようにぼかしている可能性もあるだろう)。なお両者が互いの存在を認識していることを示唆する出来事は、今回が初めてではない。『メタルギアソリッド3』のミニゲーム「猿蛇合戦」にて、スネークがサムの名を口にしたことがあるのだ。

君がやらねば誰がやる?

「猿蛇合戦」は『サルゲッチュ3』とのコラボレーション企画。ソリッド・スネークがジャングル内に逃げ込んだピポサルの捕獲ミッションに当たる(『メタルギアソリッド3』の主人公はネイキッド・スネークだが、このミニゲームに限りソリッド・スネークが登場)。長期休暇中に呼び出され、「俺は専門家ではない」と任務を渋るスネークに対し、ロイ・キャンベル司令官が「君しかおらん。君がやらねば誰がやる?」と説得を試みる。そこでスネークの口から出たのが「サムやゲイブに任せたらどうだ」という台詞である。話の流れから、ここでいうサムは『スプリンターセル』のサム・フィッシャー、ゲイブは『サイフォン・フィルター』のゲイブ・ローガンだろう。

あくまでもミニゲーム内でのやりとりなので、正史の出来事ではないのかもしれない。ただ、ステルスアクションゲームを牽引してきたキャラクター達が互いに言及し合うというイースターエッグには、何か込み上げてくるものがある。スネークが「ステルスミッションなんてもう珍しくもない」という台詞を口にした「猿蛇合戦」。このミニゲームが世に出たのは2005年のこと。それから13年が経過した2018年には、「私と君で開拓したジャンルではないか」と話し合っていたキャンベル司令官とソリッド・スネークはもういない。ゲイブ・ローガンも、いつの間にか姿を消してしまった。今回再浮上したサム・フィッシャーも、2013年の『スプリンターセル ブラックリスト』以降、単身で活躍する場は与えられていない。ちなみに、一抹の寂しさを感じる「そうか…」というサムの台詞は、「Then it’s only me…」を訳したもの。「もう俺しか残っていない……」。

俺がサム・フィッシャーだ

彼らの伝説はこれで終わりなのだろうか。AAA級マーケットにおけるステルスアクション・ジャンルの未来を背負えるのは、「もう俺しか残っていない」と呟き、気づけば老兵の域に片足を突っ込んでいたサム・フィッシャーしかいない。そこで気になるのが、『スプリンターセル』シリーズ新作の可能性についてだ。UbisoftのCEO Yves Guillemot氏は『スプリンターセル』を個人的なお気に入りシリーズのひとつとして挙げており、昨年6月には企画を選定している段階であると発言している(公式ブログ)。

またサム・フィッシャーを演じるマイケル・アイアンサイド氏は今月の「Inside Xbox」に登場し、サムの未来について触れている。まずはシリーズに復帰したことについて「俺がサム・フィッシャーだ、役を降りたことはない」と念を押すところからインタビューを開始(前作『スプリンターセル ブラックリスト』ではアイアンサイド氏が降板し、俳優Eric Johnson氏がサム役を演じていた)。そこからサム・フィッシャーというキャラクターへの思い入れ、開発プロセスなどについて語り、最後の「またゲームのキャラクターを演じる予定はありますか?」という問いに対しては、「そうですね、物語が脱線しないかどうか、ストーリーラインがサムというオーガニックな存在の復帰を許容してくれるかどうか、様子を見てみましょう」と明言を避けるような回答を残している。

※該当箇所は50分20秒より

サムが違和感なく戻ってこれるようなストーリーライン。それを構成する役割を部分的に担っているのが、『ゴーストリコン ワイルドランズ』のクロスオーバー・ミッションなのかもしれない。実際、サムが「バンダナを巻いた男」の引退を知らされた後、グリム(『スプリンターセル』のキャラクター)から連絡が入り、「大量破壊兵器が奪われた可能性がある」として呼び出される場面がある。スネークやゲイブと違い、サムには次の任務が待っているのだ。

彼の新しい任務を、我々プレイヤーが見届けられる日が来るのかは分からない。だが「バンダナを巻いた男」の引退を静かに知らせ、サムの口から「他に誰もやらないからな」「もう俺しか残っていない」という台詞を言わせたからには、ステルス・アクションの未来を背負う『スプリンターセル』シリーズの新作に期待したいところ。ロイ・キャンベルの「君がやらねば誰がやる?」という台詞は、今やスネークではなく、サム・フィッシャーに送られるべき言葉に変わった。それは同時に、ステルス・アクションジャンルのファンがUbisoftに投げかけたい言葉でもあるだろう。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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