実家暮らしの無職アラサー男性がゲームの世界で英雄になる『Legendary Gary』配信開始。二つの世界が交差するADV

Evan Roger氏は2月20日、個人開発タイトル『Legendary Gary』を発売した。本作はファンタジーRPGをプレイしているアラサー男性を操作し、現実世界とゲームの世界を行き来しながら、彼が自立した大人になれるよう導いていくアドベンチャーゲームである。

『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のプログラマーを務めたEvan Roger氏は2月20日、個人開発タイトル『Legendary Gary』を発売した。対応プラットフォームはWindows(Steam)で、販売価格は1520円(日本語は非対応)。本作はファンタジーRPGをプレイしているアラサー男性を操作し、現実世界とゲームの世界を行き来しながら、彼が自立した大人になれるよう導いていくアドベンチャーゲームである。

主人公は30歳手前にしてスーパーのアルバイトをクビになった無職のアラサー男性Gary。実家で母親と仲良く暮らしている。長年付き合っている彼女がいるのだが、失業してからは地下室でもっぱらゲーム三昧。外出はほとんどせず、日課と言えば花壇の植物に水をやるくらい。母親はそんなGaryを優しく見守っており「あなたは遅咲きなだけなのよ」と励ましてくれる。恋人であるMeganも「いやいや、あなたもうアラサーでしょ?いい加減花咲かせなさいよ」と至極真っ当な意見をぶつけてくれる。数は少ないものの、Garyのことを気にかけてくれる家族・恋人・友人はちゃんといるのだ。

だけど頼りの母親は歳のせいか言動が怪しくなってきており、愛聴しているPodcastの言葉を鵜呑みにして「世界はもうすぐ終わるの。だからもう、光熱費を払わなくていいのよ」と、電気代・ガス代を滞納し始めた。いやいや払わなきゃだめだよと説得しても、時すでに遅し。「もうPodcastのチャリティに全財産を寄付したの」と、亡くなった父親の死亡保険金を含む貯蓄全てを手放していた。心の支えとなっていた彼女は、長年の夢だったという海軍入隊に向けて準備を進めており、このままでは別れることになってしまう。旧友のDaveはDaveで、「お前の母ちゃんシングルだよな?」「実は昨日お前の母ちゃんと…」といった少し気持ち悪いジョークを飛ばしながらも、どこか思い悩んでいる様子。頼っていた人は揃って離れていくし、とりあえず食費を稼がないと日々の生活もままならない。もういい加減、行動を起こさないといけないようだ。

「今日もお仕事頑張ってね!あと、もうすぐ世界が終わるってことも忘れずに」

そんなGaryの実家の玄関先に、ある日謎の宝箱が置かれていた。中に入っていたのは「Legend of the Spear」というハイ・ファンタジー系RPGのダウンロードコードであった。ゲームの主人公は戦士Winkali。数々の勲功により「Arbolisk」という王国の王宮近衛兵として認められ、王女との結婚が決まっている勇敢な男だ。Garyとは違い一人前の大人である。Winkaliは国王に招かれ晩餐に参加するも、国王を敵視する狂人「Onija」が乱入し、国王と王女がどこかに消えてしまった。彼らを探すべく、Winkaliを優しく見守る老女と、王女そっくりの側近護衛兵と共に冒険に出る。

本作はGaryとして日常生活を送る現実世界パートと、Winkaliとして非日常の冒険に出るゲーム世界パートに分かれている。現実世界パートは、母親や友人との会話中に選択肢を選び進めていくアドベンチャー方式。一方のゲーム世界パートでは、ヘクスタイル上でのターン制バトルをこなしていく。Garyには「モチベーション」というパラメーターが存在し、イライラしたり、喜んだりすると上昇する。罪悪感を覚えたり、悲しい思いをすると逆に減る。意を決して本音を口にするときや、大胆な発言をする際にはモチベーションを消費する。やる気の使いどころによって話の展開が変わっていくのだ。

ゲーム世界の晩餐。ちなみにゲーム内での戦闘に勝つと、現実世界でのモチベーションが上がる

ゲーム世界パートの戦闘はターン制で、スタミナポイントを消費することで攻撃・移動・ブロック・パリィといったアクションを起こす。本作のユニークなところは、行動を決定する前にプレビュー画面で相手が何をするのか事前に確認できること。それを踏まえた上でカウンターすればよい。しかも戦闘中は何度でも選択をやり直せるし、前のターンに巻き戻すこともできる。現実世界パートでの会話はやり直しがきかず、対照的である。

時間を巻き戻しながら、パズルを解くようにして戦うターン制バトル

ゲーム世界の設定やキャラクターの役割は象徴的という範囲を超え、現実世界での出来事とシンクロし始める。現実世界で日課としている花壇の水やりも、植物が育つとゲームの世界で大地の力を授かり、新しいスキルを使用できるようになる。花を咲かせると、それだけ行動の選択肢が増える。また現実世界とゲーム内世界の人物が同じセリフを口にするようになり、例えばゲーム内で登場する王女そっくりの護衛兵Ipoが「私はあなたが思っているような人間じゃないの」というセリフを吐いたかと思えば、現実世界の恋人も全く同じ言葉をGaryにかける。さらには現実世界の出来事が、ゲーム世界のパズルのヒントになっていることも。

生活のため社会復帰するGary。現実世界では上司が直接伝えたくないからとベテラン従業員に解雇通知する羽目になり、ゲーム世界ではとある種族に認めてもらうため老兵をボコボコにすることに。良心が痛む

これから現実世界で起きる出来事を暗示するようなイベントが続き、ついつい夜更かししたくなるGary。けれども睡眠を削ると翌朝モチベーションが下がる。日常生活とゲーム内生活のバランスを考えるのか、ゲーム世界にどっぷり浸かって人間関係を蔑ろにするのか。そしてこの冴えないアラサー男は現実世界でも新しい一歩を踏み出せるのか。気になる方はGaryと一緒にちょっぴり不思議な冒険に出かけてみよう。

緑と紫の毒々しい手書きアニメーションと、「xXsickXx」氏によるシンセポップな歌詞付きサウンドトラックで彩られた世界
Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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