戦争を「一般市民」の目線で描くサバイバルゲーム『This War of Mine』とある軍人の心を動かし、その人生に大きな変化をもたらす

11 bit studiosが2014年に発売した『This War of Mine』は、1990年代に発生したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のサラエボ包囲をモチーフに、一般市民の視点から過酷な戦争を描いたことが評価された。こうした内容に、心を動かされたプレイヤーもいたようだ。

11 bit studiosが2014年に発売した『This War of Mine』は、1990年代に発生したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のサラエボ包囲をモチーフに、一般市民の視点から過酷な戦争を描いたことで非常に高く評価された。プレイヤーは昼間は狙撃手に怯え、夜間は次第に乏しくなる物資に頭を悩ませながら、生き残るためにはどうすべきかという数々の難しい判断に迫られるサバイバルゲームだ。

11 bit studiosは本作の開発当時、このゲームは人々の人生観に影響を与えることになるだろうという、一種の自信のようなものを持っていたようだ。そしていざ発売してみると実際に心を動かされたプレイヤーもいたそうで、11 bit studiosは11月28日、あるプレイヤーから受け取った一通の手紙を公開している。その送り主は『This War of Mine』をプレイしたことで大きな心の変化があったといい、それは同スタジオが想像していた以上のものだったという。

手紙の送り主はニコライという男性で、軍人だった彼は数年前、特殊部隊の狙撃手になると心に決めていたそうだ。その仕事の意義については、「何人かの少年を安全に家まで帰すことができればいい」と捉えていたという。つまり狙撃手として危険を排除して、戦場となった街を出歩く一般市民を守りたいと考えていたのだ。

しかし、現実はそうはいかない。惨劇は避けることはできないし、武器を持たない弱い市民にとってはなおさらだ。たとえ生き残ることができたとしても、戦争は彼らの心に傷を残すだろう。それでも戦場においては、生き残ることができたということだけで幸運なのかもしれないとニコライ氏は語る。ただ、職務についていた時期の彼は、こうした戦場下で市民の身に何が起きるかということには、十分に気が回っていなかったという。ただ、兵士として正義感に燃えていたのだ。そうした中で『This War of Mine』に出会ったニコライ氏は、このゲームについて最初は楽勝でクリアできる軽いインディーゲームだろうと思っていたという。

しかし、実際にプレイしたあとに愕然としたそうだ。自分がどんな行動を取っていたとしても、どれだけ闘ったとしても、キャラクターは飢えや銃撃などあらゆる理由で死んでしまう。重武装した兵士を、3人の子を持つ父親と共に忍び足でやり過ごす際には、「この父親はもう子供たちと会えなくなるかもしれない。もしそうなったら、ただ食料だけを手に家に帰ればいいのか?」そんなことを想像すると、心を動かされたという。

こうしたことがあり、ニコライ氏は軍隊を除隊して、これまで築いてきたすべてを捨ててしまった。その代わり、今は緊急救援活動のオペレーターになろうと考えているそうだ。また、彼はこのゲームのおかげで今の婚約者と出会うこともできたという。地元のゲームイベントで出会った彼女が、この『This War of Mine』をニコライ氏に紹介してくれたそうだ。ニコライ氏は11 bit studiosに対して心からの感謝の意を伝えると共に、彼らの作品は人々の人生を良い方向へ導いているとして今後も作り続けてほしいと述べている。

本作は戦時下に生きる一般市民を描いたことが評価されているが、これが戦争をする側の立場にあったニコライ氏に気付きを生んだようだ。たかがゲームと言えばそうかもしれない。しかし戦場を知る人間だからこそ、本作を通じてリアルな想像力が働いて耐えられなくなったのかもしれない。

『This War of Mine』はPC(Steam)/iOS/Android向けに日本語版が販売中(海外ではPS4/Xbox One版も発売されている)。現在は『This War of Mine: Stories』として追加シナリオを展開中で、第一弾となる「Father’s Promise(父親の約束)」を今月リリースしていた。本作の世界観を舞台に、敵に包囲された街からの脱出を目指す父娘の物語を描いている。追加シナリオは全3種類が計画されており、残りの2つは2018年内に配信予定だ。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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