『Star Wars バトルフロント II』ゲーム内課金を一時停止した背景にディズニーの関与か。クレートの仕組みにも介入の噂
Electronic Arts(以下、EA)は11月17日の『Star Wars バトルフロント II』の発売に合わせて、ゲーム内課金要素を一時的にゲームから取り下げた。本作ではキャラクターを強化できるスターカードなどをクレート(ルートボックス)から入手可能で、そのクレートはゲーム内課金で入手できるクリスタル(もしくはゲーム内クレジット)を消費することで開けることができる。そのため、より多くのお金を払ったプレイヤーがマルチプレイで有利になるPay-to-Winに繋がるとの指摘を受けていた。開発元のDICEは発売前に一定の対策を講じたものの、それでも止まないコミュニティからの批判から最終的に一時停止に追い込まれた形だ。DICEは、不公平を生む可能性のある仕組みだったことを率直に認めて謝罪している(関連記事)。
今回の発表ではコミュニティからの声に耳を傾けた結果であることを強調していたが、その舞台裏では別の大きな力も働いていたのかもしれない。経済紙Wall Street Journalでディズニーなどを担当しているBen Fritz氏は関係者の話として、ディズニーの重役が事前にEAにコンタクトを取っていたと報じている。
Bob Iger did not talk to EA's CEO. But he was upset about the "Star Wars: Battlefront II" microtransaction debacle and another exec, Jimmy Pitaro, expressed Disney's displeasure to EA. https://t.co/Q7L1a9fMoX
— Ben Fritz (@benfritz) November 17, 2017
同紙によると、本作が大きな批判にさらされていたことはディズニー会長兼CEOのRobert Iger氏の耳にも入っていたそうで、担当幹部のJimmy Pitaro氏を通じてEAに懸念を伝えたという。そして、その直後に今回のゲーム内課金の取り下げが発表された。ディズニーは2012年にLucasfilm(ルーカスフィルム)を買収したことから「スター・ウォーズ」の権利を保有しており、本作においては権利者としてEAにライセンスしている立場にある。
ディズニーはもちろん、本作に限らずスター・ウォーズ関連商品には監修などで関わっているはずだが、今回のようなゲームデザインやサービスの部分にまで普段から関与しているのかどうかは分からない。ただ、同社は映画「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の公開を12月15日に控えている。この大事な時期に同じブランドがインターネット上で非難を浴び続けていることは、映画の最新作をプロモーションする上で好ましい状況ではないだろう。報道が事実であれば、トップ直々のお達しということからディズニーは事態を重く見ていたことがうかがえ、EAとしては早急に対応せざるを得なかったのかもしれない。
『Star Wars バトルフロント II』へのディズニーの関与としては別の報道も出てきている。テック系業界誌VentureBeatは本作の開発過程を知る関係者の話として、今回一旦取り下げられたゲーム内課金要素に結びついているクレートの仕様に対して、ディズニーが注文を付けていたと報じている。前述したように、現状クレートからはキャラクターを強化するアイテムが入手できる。しかしDICEは、もともとはキャラクターのコスチュームなどコスメティックアイテムを入手するものとしてクレートをデザインしていたという。
なにかと批判されることの多いルートボックスだが、『Overwatch』などのようにコスメティクス要素に限定することでコミュニティに受け入れられている例もあり、DICEも同様の仕組みを考えていたようだ。しかし、これはディズニーからの要請で実装が見送られ現在の形になったという(強化アイテムが入手できる今の仕様もディズニーの要望だったかどうかは不明)。また、もともとは分隊ベースのチームワークを活かしたゲームプレイがメインだったそうだが、これもディズニーからのリクエストにより変更されたとしている(分隊は一部ゲームモードでは採用されている)。
「ルートボックスを導入するならコスメティクス要素に限定すべき」という意見はルートボックスに関する議論の中でよく目にすることができ、実際に成功例もあることからDICEがそれに倣ったとしても不思議ではない。スター・ウォーズの映画内では、同じキャラクターでも場面によってさまざまな衣装で登場するため、そういったコスチュームに変更できるとなればファンにはたまらない要素だろう。この報道が真実ならば、ディズニーがなぜこの形式を受け入れなかったのかという謎が深まる。
ディズニーとしては、スター・ウォーズの世界観やキャラクターのイメージを守ることが第一であるはず。場面にそぐわない衣装でもプレイできることをディズニーが望まなかった可能性も考えられるが、先日Redditでファンからの質問に答えたDICEは、開発においてはディズニーから多くの自由が与えられているとコメント。同時に、現在は存在しないカスタマイズ要素の導入は優先項目のひとつとして日々検討中だとしていた(関連記事)。本作の発売には間に合わなかったが、キャラクターカスタマイズそのものについてはディズニーは拒否しているわけではないようだ。一方で、前出のWall Street Journalの報道では、キャラクターのアンロックコストの高さが批判されていたことがディズニーにとっての懸念材料のひとつだったとしている(関連記事)。スター・ウォーズのキャラクターを使ったマネタイズ(あるいはそれに準ずる仕組み)には細心の注意を払っていることがうかがえるが、どちらが現在の仕組みを主導したのかはともかく、フランチャイズに傷をつける結果になってしまった。
EA/DICEは今回取り下げたゲーム内課金要素について、コミュニティの意見を聞き、しかるべき変更を施したのちに再開するとしている。ディズニーが本作にどのように関与したのかは、クリスタルの販売再開にあたってゲームがどのように変化するのか、また将来の導入が見込まれるカスタマイズ要素の仕組みからうかがい知ることになるだろう。