米アトラスがエミュレーター開発者の「資金援助サービス」に公開停止要請。背後には『ペルソナ5』をPCで動作させる懸念
PC上でPlayStation 3を動作させるエミュレーターRPCS3の開発者は、Reddit上でアトラスUSAからPatreonページの公開停止要請を受けたと発表した。Patreonはこの要請について「明確にアトラスのIPを侵害していない」とし、要請を却下したという。エミュレーターは、DRMを侵害しない場合にのみ、所持しているゲームタイトルをPC上で動作させるうえでは合法であるが、違法ダウンロードと併用されるケースも多いことから開発者からは歓迎されないことが多い。しかし、米アトラスはエミュレーターについてのみ抗議していたのではなく、その宣伝の方法についても抗議していたようだ。
RPCS3はPS3をPC上で動作させるエミュレーターのなかでも、高い期待が寄せられている。開発途上であるものの、Vulkan APIを採用するなど実機以上の動作の実現を目指して制作されている。問題はRPCS3そのものだけではなく、RPCS3のプロモーションおよび開発資金を募るための資金援助の呼びかけだ。RPCS3の開発者であるNekotekina氏とkd-11氏は個人を支援できるクラウドファンディングサービスPatreonページを開設していた。公式サイトでもこのPatreonページでも『ペルソナ5』の画像が大量に掲載されていたのだ。
というのも、欧米にて4月に発売された『ペルソナ5』はRPCS3で動作することが確認されており、同エミュレーターのひとつの“ウリ”になっていたわけだ。同作の人気をあやかろうとすることを隠しておらず、公式サイトおよびPatreonページにエミュレーターで動作する『ペルソナ5』の画像を大量投稿しており、その点を著作権違反としてPatreonの停止要請がおこなわれたわけだ。アトラスのIPを利用して資金を募っているともいえる行為で、アトラス側が動きを見せたのはもっともだろう。
また米アトラスはPatreonに対する要請が却下された後、「PC向けには『ペルソナ5』は存在しておらず、PC上で遊ぶことを可能にしているエミュレーターがIPを侵害している」「PC上で『ペルソナ5』を動作させるには特定の手順を使いDRMを回避する必要がある」といった複合的な問題を提起している。この主張に対して開発者側は、こうした法律は米国では合法であるものの各国でルールは異なっており、開発者の国では適用されないと反論。エミュレーターを配布する公式Webサイトの場所が米国外であるがゆえに、米国を拠点に置くPatreonを標的にしたのだろうとも述べている。
その後、米アトラスは公式声明を出し、今回の件について説明。「バグや不具合のないベストな体験をするためには、PlayStation 3およびPlayStation 4でタイトルを遊んでほしい」と説明しながらも「今何か発表できることはないものの、PCで遊びたいというユーザーの声は聞いている」とも述べている。さらに「エミュレーターによって遊ばれることが『ペルソナ5』が愛されている証拠だと感じている」としながらも、「不正な形で入手およびプレイされる場合には、会社が開発する能力を失うおそれもある」と呼びかけている。フランチャイズへの愛を感じながらも、アトラスの指定する手順で遊んでほしいと呼びかけており、警告というよりはエミュレーターで遊ぶユーザーのモラルに訴えかける声明であるといえる。
*YouTubeのRPCS3のチャンネルでもっとも再生されている『ペルソナ5』の動作報告
エミュレーターの開発者は「RPCS3は、オープンソースであるので進化し続ける」と述べつつ「違法な目的で利用することは決して推奨していない、安全なものである」と強調する。一方で、安全のためという名目で、開発者は最終的に公式サイトおよびPatreonから『ペルソナ5』の画像はすべて削除されている。
前述したようにエミュレーターは多くの国で合法でありつつも、違法行為の土台となる側面もあり、警戒心を抱く関係者は少なくない。一方で、エミュレーター自体に違法性があるとはいえず、その点を問題提起するメーカーはほとんどいなかった。今回米アトラスは、著作権違反を呼び水にエミュレーターという未開の領域に踏み込んでいったわけだ。今回の試みは、Patreonの公開停止という結果にはつながらなかったものの、海外コミュニティに大きく取り上げられ議論の的になっている。
開発者が語るように、オープンソースで開発されているエミュレーター自体をなくすことはほぼ不可能だろう。かといって企業側がエミュレーターを全面的に肯定することも難しい。企業としては苦心する問題のひとつであることが予想できるが、Redditでとにかく多く寄せられている声である「PC版のリリース」を代表にユーザーに新たなオプションを提示することが、ひとつの解決策になるのかもしれない。