Xbox 360向け「Xbox LIVE インディーズ ゲーム」今月29日にサービス終了。誰もがゲームを作れた自由なプラットフォーム
マイクロソフトは9月29日、Xbox 360向けに展開している「Xbox LIVE Indie Games(Xbox LIVE インディーズ ゲーム)」のサービスを終了する。同社は2015年に終了を予告し、昨年にはゲームの新規受け付けを停止していた。現在はまだゲームの購入や体験版のダウンロードが可能だが、今月29日にはストアが閉鎖されすべて販売終了となる。なお、ゲームの再ダウンロードはストア閉鎖後も可能である。
Xbox LIVE Indie Games は、もともと「Xbox LIVE Community Games」として2008年のGame Developers Conferenceでゲーム開発者向けに発表された。マイクロソフトが提供していたゲーム開発環境XNA Game Studioを使用することでXbox 360向けのゲームを開発することができ、XNA Creators Clubメンバーシップを購入すればXbox LIVE上で作品を公開および販売することが可能となるプログラムだ。マイクロソフトはクローズドベータテストをおこなったのち、同年11月に Xbox LIVE Indie Games(以下、XBLIG) に名称を変更して正式ローンチした。
Xbox 360においては、当時すでに「Xbox LIVE Arcade(以下、XBLA)」という小規模なゲームをダウンロード販売するプラットフォームが存在していた。そちらはマイクロソフトと契約してパブリッシャーライセンスを取得した法人が参加できるもので、開発したゲームに対してはマイクロソフトによる認証プロセスや各国・地域のレーティングの取得、各種手続き費用などが必要となり、個人または小規模なデベロッパーが参入するにはハードルが高かった。そこで、誰もが参加できる自由な作品発表の場として新たに用意されたのがXBLIG だ。認証やレーティングの代わりには「ピアレビュー」という仕組みが導入され、XNA Creators Clubの会員同士で提出されたゲームのコンテンツを精査することとした。
XBLIG向けにリリースされたゲームは、2008年11月3日に発売された『Fruit Attack』から、最後の作品となった2016年10月25日発売の『Solaroids: Prologue』まで3404本にのぼる(日本で販売されていないものも含む)。単純計算して、1日に1本以上のペースでリリースされていたことになる。上述したとおり有料会員(18歳以上)であれば誰でも自らのゲームをリリースできたため、ゲーム開発を始めたばかりだと思われるクリエイターのゲームから、業界のベテランによる作品までまさに玉石混交だった。規定によりゲームのデータサイズの上限や設定できる価格が低く抑えられていたため、XBLA向けのゲームよりもさらに小規模な作品がほとんどだが、光るアイデアで高評価を得たゲームや、売り上げに恵まれた作品も生まれた。
国内外の開発者が集ったカオスなタイトル群
ここからは具体的な作品を見ていこう。取り上げるべきゲームは山ほどあるのだが、キリがないのでごく一部を紹介すると、まずXBLIGローンチ時期の作品として注目したいのはMommy’s Best Gamesの横スクロールアクション『Weapon of Choice』だ。同スタジオはInsomniac Gamesなどで活躍したNathan Fouts氏の個人スタジオで、同作以降にも『Shoot 1UP』や『Explosionade』などをXBLIG向けにリリースしている。Fouts氏は『Serious Sam』のスピンオフ作品を手がけるなど、現在も精力的に活動中だ。
『ソルト アンド サンクチュアリ』で知られるSka StudiosもXBLIG向けにいくつかゲームをリリースしている。中でもツインスティック・シューティングの『I MAED A GAM3 W1TH Z0MB1ES!!!1』は当時のトップセラーとなり、2000万円以上の利益をスタジオにもたらしたという。同スタジオはその後XBLA向けの『The Dishwasher』シリーズや『Charlie Murder』で確固たる地位を築いたが、のちに実験的な作品をXBLIGでリリースするなど、プラットフォームの特性を上手く利用していた。
Milkstone StudiosもXBLIGにおいて存在感を示したスタジオのひとつだ。最近では『White Noise 2』や『Ziggurat』などで知られる同スタジオだが、XBLIGでは『White Noise』や『Little Racers』など約20タイトルもの作品をリリースした。その中には『Avatar Farm Online』など、Xbox 360のアバターを利用したゲームも数多くある。アバターはユーザーの分身となるキャラクターを作れるXbox 360の標準機能だが、開発者はゲームのキャラクターとして使うことができたためXBLIG向けのゲームでは広く利用されることとなった。
DigitalDNA Gamesもアバターを使ったゲームを数多く発売したが、中でも有名なのが『CastleMiner』および続編の『CastleMiner Z』だ。いわゆる『Minecraft(マインクラフト)』のクローンゲームだが、共に100万本を超えるセールスを達成し、『CastleMiner Z』はXBLIGでもっとも売れたゲームとして知られている。XBLIGではほかにも『Minecraft』風ゲームが数多く制作され、『FortressCraft』や『Total Miner: Forge』なども100万本にせまるヒット作となった。他社の著作権を侵害していたり、マイクロソフトが定める禁止表現を含んでいない限りどのようなゲームでもリリースできたため、有名ゲームや流行りに乗っかった「??風」のゲームがさまざま存在したこともXBLIGの特徴だった。
XBLIGで発売されたゲームの中には、のちにSteam向けに移植され高く評価されたものも数多くある。手足やパンツの中のモノがぶらんぶらんしているマッチョな漢たちを積み上げる『Mount Your Friends』や、2つのボタンだけで左右から迫ってくる敵を華麗になぎ倒す『One Finger Death Punch』、大量に襲いくるブタを血祭りにあげるサバイバルFPS『Blood and Bacon』、ユーザーの音楽ファイルを読み込むことでステージを生成する全方位シューティング『Beat Hazard』などはSteamレビューで「圧倒的に好評」を得ており、弊誌読者の中にもプレイしたことがあるという方はいるのではないだろうか。なお、本稿で紹介しているほかのゲームの多くもSteamで発売されている。
もちろん日本の開発者もXBLIGに参入していた。いくつか作品を挙げると、まず『ダウンタウン激凸ドッジボール!』は「くにおくん」シリーズの開発スタッフが手がけた『熱血高校ドッジボール部』のスピンオフ的な作品だ。ベテランゲーム作曲家として知られる古代祐三氏が代表を務めるエインシャントは、姫を守りながらモンスターと戦う『まもって騎士』を発売。そのほかモンスターが住むアパートを経営しながら襲ってくる冒険者を撃退する『メゾン・ド・魔王』や、ステージを360度回転させて局面を打開する横スクロールシューティング『REVOLVER360』、部屋のパーツを組み合わせて間取り図を作っては消していくパズルゲーム『MADRISM』、16人まで参加できるオンライン対応麻雀ゲーム『麻雀 三六荘』など、数多くの国産ゲームがリリースされた。
一定の役目を果たし、次の世代へ
個人でもコンソール向けにゲームをリリースできるとあって、XBLIGは多くの開発者を惹き付けてさまざまなゲームが発売された。ただ、前述したような大きな成功を収めたゲームも存在するものの、参入ハードルが低いが故にクオリティのばらつきが大きかったためか、全体的に見ればXbox 360ユーザーのXBLIGへの関心度はあまり高まらないままだった。XBLIGの理念として未熟なゲームが存在すること自体は問題ないのだが、結果的に開発者らはSteamなどに活動の場所を移していった。人が減ったXBLIGではおのずとピアレビュアーも減り、自身のゲームのピアレビューへの協力をSNS上で呼びかける開発者も見られるようになった。
マイクロソフト自身も2013年にXbox Oneを発売し(日本では2014年発売)、インディー開発者向けの新たな自主販売プログラム「ID@Xbox」を開始。今年からは、認証プロセスが簡略化された「Xbox Live クリエイター プログラム」も始動している。またXNAが2014年に開発終了し、コンソールも開発者へのサポートも次の世代へと移ったことで、XBLIGは終息することとなった。
商業的な成功を夢見る場所としては十分ではなかったかもしれないが、開発者のステップアップの場として、あるいは自由な遊び場としては一定の役割を果たしたと言えるのではないだろうか。プレイする側としても、特にコンソールゲーマーにとってはそういった作品に触れられる機会はそれまでにあまりなく、XBLIGは興味深いプラットフォームだった。
冒頭で述べたように、9月29日をもってXBLIGのストアは閉鎖となる。XBLIGではすべてのゲームに無料体験版が存在するので、いまの内にまとめてチェックして、気に入ったものは確保しておいてはいかがだろうか(マイクロソフトが紹介する「今月のオススメ」も参考になる)。Xbox 360上ではダッシュボードからXBLIGハブが削除されてしまっているため(個別に検索すればゲームは表示される)、Webストアをブラウズするといい。クオリティの高い良作から駆け出しインディーの習作、そして理解に苦しむ迷作まで、さまざまな発見があることだろう。