Steamレビューが「抗議の場所」として利用される。ゲーム内容とは無関係の部分でゲームの評価が大きく揺らぐ
ユーザーの投稿によってゲームの評価を決めていくSteamレビューは、単なるゲームの評価を決めるだけにおさまらない役割を担っているようだ。Valveが運営するプラットフォームSteamのレビュー欄は強い影響力を持っており、「抗議の場所」として利用されるようになってきている。開発者に対する不満を示す“ストライキ”を敢行するのに最適な場所になりつつあるのだ。抗議の種類は多種多様であるが、その原動力の多くは「怒り」であることは間違いない。
たとえばもっとも最近のケースとしては、YouTuberであるPewDiePie氏を取り巻く騒動があげられる。ゲーム実況者としても有名なPewDiePie氏はブラックジョークや皮肉を好み、もともと問題行動や発言を繰り返していたことで知られる。氏は先日配信中に人種差別発言をし、そうした言動に不快感を示した『Firewatch』の開発元CampoSantoが、氏の『Firewatch』のプレイ動画を著作権侵害として公開停止を要請。PewDiePie氏はプレイ動画を公開停止し謝罪した。
ここで話が終わるとYouTuberとゲーム開発者のトラブルなのだが、その後CampoSantoの対応に怒ったPewDiePie氏のファンたちがSteamレビューへと突撃。不評レビューが多く投稿されている。一方でCampoSantoの対応を支持するユーザーは好評レビューを投下し、つばぜり合いが発生している。こうしたレビューは、多少はゲームの感想と紐付けて投稿されているが、PewDiePie氏をめぐる騒動の戦場をと化していることは否めない。PewDiePie氏の言動がSteamレビューに影響を及ぼすのは今回が初めてはなく、『Bear Simulator』でも同様の騒動が発生していた。『Firewatch』はすでに2万件以上のレビューが投稿されているタイトルであるので、評価は大きくは変化していない。
もっとも規模の大きな抗議となると、やはり『Grand Theft Auto V(以下、GTA V)』問題に言及しなければいけない。今年の6月にTake-Two Interactiveが、『GTA V』などで利用できる人気Modツール集「OpenIV」の公開停止を要請した際には、2万件以上の不評レビューが投稿されるほど波紋を呼んだ。最終的には、「OpenIV」はふたたび公開されるいう結末となった。Take-Two Interactiveほどのメガパブリッシャーですら、Steamレビューの影響を無視できないことが判明した一幕であった。
『Football Manager 2017』においては、中国語をめぐる中国ユーザーと開発者の対立により多数の不評レビューが投稿されている。最終的に中国語は実装されたが、今もなおSteamレビューステータスは「賛否両論」だ。特定下の環境でクラッシュする問題などゲームのパフォーマンスにも問題を抱えているが、大量の中国ユーザーの不評レビューは消されておらず、その爪痕の影響は小さくない。ほかにもParadox Interactiveがタイトルの値上げをおこなった際にも、抗議のレビューが寄せられていた。
こうした抗議は流れとして、まずredditやSteamフォーラムで問題が共有される。そして顕在化したところ、抗議としてSteamレビューが投稿されるわけだ。現在Steamレビューは、ゲームをプレイした人にしかレビューが投稿できず、「レビューステータス」はSteamで購入したユーザーの評価のみで構成されている。抗議活動をするユーザーは、相応の対価を払って投稿していることになる。
事例を見ていくと、あらためてSteamレビューの影響力の大きさを感じさせられる。Steamでは大幅にタイトルが増え続けている。こうした状況下では「評価」が他タイトルと差別化する重要な手段になる。「評価」が開発者としては決して無視できないステータスであることには間違いない。ユーザーにとってもSteamレビューは格好の主張の場だ。ゲームを所持もしくは購入していれば、容易に投稿できるうえに、開発者側はレビューステータスの関係でこうした声を無視できない。SNSで愚痴をもらすより、個人でメールを送るより、よほど効果的であるわけだ。Steamレビューは、これまでは個々のユーザーからまばらに発信されていた「点の抗議」を「線の抗議」にできる特別な場所なのだ。
一方で、Valveが目指しているであろう、「ゲームの正しい評価を反映させる場所」としての機能は、徐々に失われているようにも感じられる。『Firewatch』や『GTA V』を代表に、抗議活動の対象とされているタイトルのほとんどは、ユーザーからの評価が非常に高い。騒動を知らないユーザーは、抗議のフィルターがかかった作品の評価を見ることになり、ゲーム内容の評価を知ることが出来ない。レビュー自体の意義が失われ、本末転倒になってきていると言わざるをえない。気になるゲームのレビューを見てみると、ゲーム外のことが原因でレビュー欄が荒れており、ゲームの評価がわからないままストアを閉じてしまったという経験をしたことがある人は、少なくないだろう。
Steamレビューでは、各レビューが「参考になる」かどうかの投票項目を設置しており、多くの賛同を得ている「参考になる」レビューは表示されやすくなるシステムを採用している。ほかのWebサイトと同様に、レビューに対するレビューをすることで、より優れた意見を目立たせようとしているわけだ。PewDiePie氏をめぐるレビューではこうした意見は「参考になる」に投じられていないものの、『Football Manager 17』では中国語が実装されていないと糾弾されるレビューに「参考になる」の票が投じられている。つまり抗議者の母数が大きれば、同じ意見のレビューが表示されやすくなり、それがユーザーの主な声となってしまう。くわえて、もし抗議のレビューが「参考にならない」と投じられたとしても、最終的にはSteamレビューの「ステータス(圧倒的に好評、賛否両論など)」にその抗議の声は反映される。ステータスは非常に重要なので、参考にならないから表示されなかったとしても、影響は充分にある。ゲームレビューを検閲してフィルタリングすることも困難なので、ユーザーの抗議はシステムでは御しきれていないのだ。
Steamレビューにおける抗議は、「購入していれば誰でも手軽に意見でき、影響力を持つ」という民主的な機能を果たしているという点では、唯一無二ともいえる手段になりつつある。その一方でゲームの評価を歪ませるトラブルメーカーとしての側面を持つ。抗議といえば、Change.orgによる署名活動も利用されることは多いとはいえ、絶対的な代替手段もない。Steamレビューが、ユーザーの生の声を届ける優れた場所であるかぎり、Steamストアでは抗議の声が響き渡り続けるだろう。
【UPDATE 2017/9/13 21:30】
マイクロトランザクションに関連する記述を一部修正しました。