ゲームライターはゲームがうまくあるべきか?とある記者の“ヘタクソ”なゲームプレイが議論を生む
海外メディアVentureBeatで記事を執筆する記者Dean Takahashi氏のゲームプレイ映像が話題を呼んでいる。Takahashi氏は25年以上業界で記事を執筆し続ける大ベテラン。ゲームを主戦場としているものの、ほかのテクノロジー分野にも精通しており、正確な情報を伝えながらも時に切り込んでいく力量には定評がある。業界大手メディアの主力記者であるがゆえに、信頼を委ねる読者も多い。そのTakahashi氏がGamescom 2017で『Cuphead』をプレイする動画が公開されているのであるが、氏の不器用なゲームプレイが議論を生んでいる。
地獄の26分間
映像を見てもらうとわかるが、氏は冒頭のチュートリアルの場面で詰まっている。ジャンプとダッシュを併用して次の足場に渡るシーンでは、25回もの失敗を重ねてようやく突破している。チュートリアルをクリアし、マップから新たなステージに入ると、とにかく要領を得ない動きで死体を量産。似たようなシーンでHPを減らし、敵の攻撃には後手に回りミスを繰り返すその姿は、思わず目を覆いたくなるほどだ。もちろん、イベント会場のような騒々しい環境でゲームプレイに専念するのも容易ではないが、それにしても同じようなミスを重ねすぎではないかと突っ込みたくもなる。
そのあまりのどんくささからか、動画には460以上の「グッド」に対して10倍以上である4800以上の「バッド」がついている。コメント欄では「最近では、ゲームをプレイしたことのない人々を(記者として)雇うんだな。」「プレイヤーは本物の人間なのか、それとも自己学習型の人工ニューラルネットワークかなにか?」「こんなやつらが“プロフェッショナル”の肩書でゲームレビューをするのか?考え直せよ!」といった批判が寄せられている。YouTubeだけでなくさまざまなSNSでこの動画は話題になり、同業者のライターであるIan Miles Cheong氏は同動画に対し「見ているのが痛ましい。こんなプレイをする人にゲームについて語る権利はあると思うか?」とTwitter上で発言し、この話題はさらに波紋を広げている。
Game journalists are incredibly bad at video games. It’s painful to watch this. How do they think they're qualified to write about games? pic.twitter.com/KbsGIBvQtD
— Ian Miles Cheong (@stillgray) September 2, 2017
Takahashi氏は動画内のVentureBeatの記事内および動画のタイトルで「最終的に1面をクリアできなかった、とても恥ずかしいゲームプレイ」と認めていながら、Twitter上ではゲームジャーナリスト失格の烙印を押すユーザーに対して「ゲームをプレイするとわかってくれると思う。」とその難しさを説いている。『Cuphead』は難易度が高いタイトルであると前評判があり、実際にプレイしないとその手強さはわからないというのが氏の言い分だろう。
メディアおよびライターの「腕」が話題になったことは今回が初めてではない。昨年Polygonが新生『DOOM』のプレイ映像を公開した際には、敵をうまく狙いきれず距離感も把握できていない、ジャンル初心者ともいえる不器用なゲームプレイを公開し、批判を浴びた。Polygonはその後、同動画の評価欄を隠しコメント欄を閉じたことも非難された。Takahashi氏は、動画のタイトルを、批判を受けてから「短時間ゲームプレイ」から「恥ずべきゲームプレイ」に変更したと指摘を受けているものの、Polygonよりはいくらか誠実な態度を貫いているといえる。
問題は“腕前”だけじゃない
この問題は大きくふたつの問題をはらんでいる。ひとつめは、ゲーム業界にてゲームを報じる立場の人間が、これほどゲームプレイが下手なのは恥ずべきことだという意見だ。動画のコメント欄を見ても、業界である種の専門家である人間がゲームが下手であるということは、普段からゲームをプレイしていない証といった趣旨の糾弾が目立つ。ゲームが下手であるということは普段ゲームをしないのだろうという解釈が生まれているわけだ。Takahashi氏がゲームを語る資格はないと批判されるのは、こうした想いがあるのだろう。
そしてふたつめの理由は、単純にゲームの情報を伝えきれていないという意見だ。今回の『Cuphead』もPolygonの『DOOM』もユーザーの期待を背負う作品であり、発売前の注目映像であるわけだ。どんなゲームであるのか、購入に値するゲームなのかを確認する映像で、鈍くさく同じ場所で詰まるゲームプレイが展開されると、求めている情報が思うように得られない歯がゆさが生まれる。どうせ見るならば、より情報量の多い映像が見たいというのが正直なところだろう。ゲームジャーナリストの資格に付随する課題と、ヘタクソであることにより映像および情報の質に問題を抱えるという2点があわさり、今回の批判は展開されているのだろう。
ゲームは、上手い下手という概念は基準を明確には定めにくく、人によってゲームジャンルの得手不得手もある以上は、結論は出しづらい。ただ、発売前の話題作をプレイして公開したうえで、プレイヤーの腕という“パーソナル”な部分に注目が集まってしまったのは、誰にとっても幸せな展開にならなかったのは間違いない。開発元であるStudio MDHRは26分もの映像で十分な情報を公開できなかったうえに「難しすぎる」という烙印を押され、Takahashi氏は映像が公開されてからTwitterで「ゲームジャーナリスト失格」というリプライを受け続けている。ゲームの腕がすべてを決めるわけではないものの、公開する映像では最低限の腕前を持った記者がプレイするべきだろう。そしてなにより、ユーザーが「ゲーム」に集中できるように紹介をするというのが、ゲームの情報を伝える人間に課せられた義務なのかもしれない。