『We Happy Few』が『No Man’s Sky』と同じ轍を踏まないよう大事にした透明性と、期待に追いつくための規模拡大

当初は小さなインディータイトルとして開発が進められていた同作が、いかにしてAAA級と同じ60ドルの大型タイトルへと進化を遂げたのか、海外メディアEngadgetとのインタビューに応じたスタジオ創設者Guillaume Provost氏が語っている。

先日『We Happy Few』の正式リリース日(2018年4月13日)およびパブリッシャーGearbox Publishingとの提携を発表したCompulsion Games(以下、Compulsion)。当初は小さなインディータイトルとして開発が進められていた同作が、いかにしてAAA級と同じ60ドルの大型タイトルへと進化を遂げたのか、海外メディアEngadgetとのインタビューに応じたスタジオ創設者Guillaume Provost氏が語っている。

本作は、戦争に敗れ衰退した英国の街「ウェリントン・ウェルズ」を舞台に、精神を高揚させる麻薬「ジョイ」に支配された、偽りの幸福からの逃走を図る1人称視点のサバイバルアドベンチャーゲームである。開発初期のビルドが「PAX East 2015」で公開されたころから、1960年代風のディストピア描写により注目を浴びていたが、もともとはストーリーがほとんど存在しない、ローグライトなサバイバルゲームとして開発が進められていた。しかしながらファンからのフィードバックが多かったのは、サバイバル要素ではなく世界観やストーリーの部分。彼らの求めるナラティブ・ヘビーなゲームを実現するため、2015年6月にKickstarterキャンペーンにて出資を募り、初期目標の25万ドルを大きく上回る33万4754ドルを集めることに成功した。

翌年の「E3 2016」では、ゲームの冒頭シーンが公開され大きく注目を浴びた『We Happy Few』。だがCompulsionのリリース日発表文によると、この冒頭シーンが人々に与えた『BioShock』を想起させるような印象(Compulsion自身、同作と比較される運命にあることを認めている)と、実際のゲームの中身には大きなギャップがあり、早期アクセス版をプレイしたユーザの一部を落胆させてしまったという。ここで開発規模のさらなる拡大を必要とした彼らは、Ubisoft、Square Enix、Warner Bros. といった大手企業出身のベテランスタッフを雇用し、当初7人であった開発メンバーは40人にまで増えたという。Provost氏によると、「月あたりの開発費はKickstarterキャンペーンで募った総額を上回る」とのことだ。

要するにCompulsionは、自身のPR活動により上がっていった期待のハードルを乗り越えるために、規模拡大を繰り返してきたのだ。30ドルから60ドルへの価格上昇はその結果であり、期待に応えられるとの自信のあらわれでもある。期待されるというのは嬉しいことであるが、過剰な期待は不安にもつながる。たとえばProvost氏は、インタビューにて『No Man’s Sky』の事例に言及している。『No Man’s Sky』といえば、インディースタジオの作品ながら大きな期待に支えられ、60ドルのフルプライス(特典版は150ドル)で発売された、そして多くのプレイヤーを失望させた2016年の話題作である。Provost氏によると「あの年、『No Man’s Sky』のローンチ後の反応を見てから、ゲームに対する期待を抑えようと慎重になった」という。

『We Happy Few』のコレクターズセット149.99ドル。早期アクセス版を購入済みのプレイヤーでも買いやすいよう、ゲーム本体とは別売りにしたという

透明性が重要だと感じたCompulsionは、ゲームの中身を知ってもらえるよう、週次で公式ブログを更新しており、動画でも開発の進捗状況を報告している。またSteamおよびXbox Oneの早期アクセス・プログラムを利用することで、どのようなゲームなのか、実際に触れて確かめてもらうことが可能となった。そしてコミュニティからのフィードバックを踏まえたアップデートにより、プレイヤーが実際に求めているゲームに近づきつつある。サバイバル要素のオン/オフ設定追加、ファストトラベルの実装、UI/AIの刷新などはその一例だ(関連記事)。

もちろん、60ドルでのリテール販売を可能にしたのは、パブリッシャーGearbox Publishingのおかげだろう。最新のブログ記事によると、パートナーシップの発表後、「Gearboxを猛烈に嫌う人々」を中心に不満の声が挙がったようだ。そうした反応に対しCompulsionは、Gearbox PublishingがGearbox Softwareとは別組織であり、資金提供者ではなく、QAやローカライズ、レーティング作業、マーケティングといった分野でサポートしてくれていると説明しており、不安を払拭しようと努めていることがわかる。デジタル/パッケージ版ともに60ドルで販売される点については、価格に差があると小売店もデジタル版の販売プラットフォームも喜ばないということを理由として挙げている(上述のリリース日発表文参照)。

なお本作の早期アクセス版にはメインストーリーが実装されていない。コンテンツの量だけでいえば、現ビルドの2.5倍になると開発陣が語っていることから、ある程度は想像がつく。。ただ60ドルのAAA級タイトルと肩を並べるだけの、クオリティの高いキャンペーンモードが用意されるのかは、現時点で予測することは難しい。すべては来春の正式リリースにかかっている。

『We Happy Few』の正式リリース日は2018年4月13日。対象プラットフォームはWindows/PlayStation 4/Xbox Oneとなっている(Mac/Linuxは同日、もしくはローンチ後に対応予定)。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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