「プラチナトロフィー最速解除」を売りにした作品がPSストアから削除。問題はゲーム内容ではなく宣伝方法か

「プラチナトロフィー最速解除ゲーム(The World’s Fastest Platinum Trophy Game)」という謳い文句とともに米国PlayStation ストアでリリースされた『★★★★★ 1000 Top Rated』が6月29日、ストアページから削除された。

「プラチナトロフィー最速解除ゲーム(The World’s Fastest Platinum Trophy Game)」という謳い文句とともに米国PlayStation ストアでリリースされた『★★★★★ 1000 Top Rated』が6月29日、ストアページから削除された。本作は6月27日、0.98ドルで配信されはじめたPlayStation 4向けのタイトル。「たった1時間でプラチナトロフィーを解除」というゲーム説明文と、トロフィーを簡単に解除できるという点を猛烈にアピールした以下のトレイラー動画により、北米のトロフィー・ハンターたちから注目を浴びていた。

本作をリリースした「Top Rated」はストアからの取り下げについてFacebook上でコメントしており、「ゲームタイトルの変更」「ストアに掲載するトレイラー映像ではトロフィーに言及しないこと」という2つの再掲載条件をソニーから提示された旨を伝えている。「Top Rated」としては条件に応じるつもりとのことだ。

https://www.youtube.com/watch?v=wSkGPTHydxE

トロフィーの取りやすさばかりが前面に出ている本作。ゲームの中身はというと、壁紙を使ったパネルスライド式のパズルゲームである。パズル開始・完成時にトロフィーが解除され、5つのパズルを解くとプラチナトロフィーをゲットできる。BGMはなく、プレイ中はトロフィーの解除音だけが鳴り響く。ゲームではなくトロフィーを買わせていると言ってしまってよいだろう。このあからさまなトロフィー商法により注目を浴びた本作は、ゲーム批評家のJim Sterling氏を筆頭に複数の有名YouTubeチャンネルで取り上げられている。その多くは本作の存在を問題視するものだ。

「Top Rated」は、これまでPlayStation 4用のテーマ販売を行ってきた開発者である。近々では全米をざわつかせたトレンドワード「Covfefe」を題材にしたテーマを販売している。PS4用テーマの販売を主目的とする彼らのFacebookページでは、「いいね!してくれたらプラチナトロフィーを20分で解除するためのガイドをお見せするよ」と投稿しているように、『★★★★★ 1000 Top Rated』は「Top Rated」の「広告」として機能していると捉える方が現実に即している。

『★★★★★ 1000 Top Rated』

プラチナトロフィーを簡単に解除できるゲームというのは、北米PlayStationストアでは珍しいものではない。トロフィー・ハンターたちの間で有名なタイトルとしては、マヨネーズ瓶をひたすらクリックする『My Name is Mayo』、デートシミュレーター『Mr. Massagy』、パズルアドベンチャー『NUBLA』などが挙げられる。いずれも30分前後でプラチナトロフィーを解除できる作品だ。ただし『★★★★★ 1000 Top Rated』とは違って、プラチナトロフィーの取りやすさを前面に出してはいない。「Top Rated」が述べたストア削除理由が事実なのだとすれば、ソニーが問題視しているのは、あくまで「プラチナトロフィーを解除するためのゲーム」という売り出し方なのであって、プラチナトロフィーが数十分で解除できてしまうことについては不問としているように思える。

マヨネーズ瓶をクリックし続ける『My Name is Mayo』

プラチナトロフィーを数十分で解除できるゲームが注目を浴びる一方で、トロフィー解除に膨大な時間を要する作品も存在する。最近リリースされた作品で言うと、最大8人マルチプレイの『Friday the 13th: The Game』では、8人中1人がランダムでジェイソン役に選ばれる中で「ジェイソンとして1000戦プレイする」「ジェイソンとして1313人のカウンセラーを殺害する」という途方もないトロフィー解除条件がつけられている。1マッチは最大20分。運が悪ければ1000時間以上プレイしないと解除できない。これは極端な例ではあるが、一般的にプラチナトロフィーの解除は時間を要するタスクであり、だからこそ同じプラチナトロフィーをものの数十分で獲得できる『★★★★★ 1000 Top Rated』や『My Name is Mayo』にはニッチな需要がある。

実績の解除自体がゲームの目的と化したゲームというのは、Steamでも顕著になりつつある。幣紙でも取り上げてきたように、Steamには数十分で数百個、数千個単位の実績を解除できるインディー作品がゴロゴロと眠っている(関連記事)。こちらでもやはり、実績数および実績画像には一定の需要がある。今年5月にはトレーディングカードを使った「フェイクゲーム」の収益化にメスが入ったこともあり、実績解除のために「フェイクゲーム」を購入してもらい、実売により収益を確保するケースが増えてもおかしくはないだろう。

ゲームの中で「実績」を探すゲーム『The Quest for Achievements』。Steam実績システムの無秩序さを露わにしている

PC・コンソールともに無法地帯となっている実績・トロフィー機能。販売プラットフォーム側がキュレーションしないかぎり制御することは難しいように思える。いや、「実績・トロフィーを解除しやすいゲーム」にはニッチな需要が存在しているように、そもそも取り締まる対象ではないのかもしれない。Steamのアルゴリズムを狂わせるほど、PlayStationラインナップのクオリティを著しく下げるほどに乱立しないかぎりは、深刻な問題とは見られないだろう。

『★★★★★ 1000 Top Rated』に関していえば、名前と宣伝内容を変えてストアに戻ってくるだろうし、すでに注目を浴びたことから一定層から購入される可能性は高い。その知名度を生かして後続作を出せば、さらなる成功をおさめられる。一定数のPlayStationユーザから「プラチナトロフィーには価値がある」と認識されている限り、トロフィー商法は有効なのだ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

記事本文: 1953