ニンテンドースイッチとXbox Oneが交わる時。クロスプラットフォームプレイに関する議論は加速化、PS4への期待の声続く
先日開催されたE3 2017では、さまざまな新作ゲームが披露され、また期待作の続報が発表されるなど例年どおりの盛り上がりを見せた。そのなかでも、業界やゲーマーにとってもっとも興味深いトピックの一つは「クロスプラットフォームプレイ(以下、クロスプレイ)」ではなかっただろうか。
マイクロソフト/Mojangが、『Minecraft』の次期アップデートでクロスプレイを拡大し、Xbox One版とNintendo Switch版のユーザーが共に遊ぶことができると発表した。続いてPsyonixが手がける『Rocket League』のSwitch版が発表され、こちらもXbox One版(とSteam版)とのクロスプレイが可能であることが明らかにされた。コンソールにおいては、任天堂・ソニー・マイクロソフトといったプラットフォームホルダーをまたいだクロスプレイはこれまでほとんど例がなかったため、これらの発表には驚きと歓迎の声が上がった。しかし、そこにPlayStationの名がなかったことが波紋を呼んだ。
そもそもの発端は、昨年マイクロソフトがWindows 10/Xbox Oneタイトルを開発するデベロッパーに、Xbox Live以外のオンラインネットワークへの接続を認めたことにある。マイクロソフトは明確に「ほかのコンソール」に言及し、任天堂やソニーに公開招待状を送ったのだ。その中で採用タイトルとして挙げられた『Rocket League』は、これを境にクロスプレイの旗手的な立場となり、Psyonixは折に触れて対応状況を報告することになる。
相反するポリシーの壁
コンソールにおけるクロスプレイは、PCとの間では着実に広まってきており、特にソニーは早くからオープンな姿勢を示し積極的に対応してきた。では、なぜほかのコンソールとの接続には難色を示すのだろうか。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)ワールドワイド・スタジオ プレジデント吉田修平氏は昨年海外メディアEurogamerとのインタビューの中で、技術的にはクリアできるだろうとしたうえで、プラットフォームのポリシーやビジネス的な問題があると発言している。吉田氏はそれ以上具体的なことには踏み込まなかったが、こういった考えはデベロッパーにも共有しているようで、バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏は『鉄拳 7』にクロスプレイが実装できない状況について、各ハードの運営(経営)とセキュリティポリシーの問題があり、デベロッパーとしてはいかんともしがたいとツイートしている。
そのセキュリティポリシーの部分については、SIEセールス・マーケティング部門の責任者Jim Ryan氏が先日Eurogamerに対して、PlayStation版をプレイする子供たちが自らの目の行き届かない部分、つまりPlayStation Network以外の領域でなんらかの問題に巻き込まれた場合、SIEとして対処することができないと懸念を示している。ゲーム内で起こる問題については、そのゲームを提供しているデベロッパーやパブリッシャーが対処することが基本だが、最終的にはプラットフォームホルダーにも責任が生じてくる可能性があるため、こういった懸念にはうなずける部分がある。
これに対してマイクロソフトのXbox事業責任者Phil Spencer氏はGiant Bombとのインタビューの中で、マイクロソフトとしてだけではなくゲーム業界的な視点に立っても、なぜここで子供たちの安全が取りざたされるのか理解できないと話している。マイクロソフトとしては、開発・販売元の立場として『Minecraft』のプレイヤーを危険に晒した状態で放置することはあり得ないため、そのような懸念にはおよばないという意見だ。
任天堂の柔軟性
ではもう一方の、今回Xbox Oneとのクロスプレイを認めた任天堂はどういった考えなのだろうか。特に『Minecraft』においては、同社はSwitch版のユーザーがXbox Liveアカウントにログインしてプレイすることさえも容認するなど、これまでには考えられなかった対応を見せている。Nintendo of Americaの広報責任者Charlie Scibetta氏は海外メディアGamesBeatとのインタビューの中で、任天堂はパートナーとの関係において、これまでより柔軟に取り組み、より多くのユーザーを呼び込むよう努めているとしている。今回発表された『Rocket League』についても、同作をSwitchでリリースするためにPsyonixと柔軟性をもって取り組んだ結果であり、ユーザーがクロスプレイを望むなら、任天堂としてはぜひ実現させましょうという立場だ、と述べている。ちなみにPsyonixの副社長Jeremy Dunham氏は海外メディアEngadgetに対して、クロスプレイを任天堂に提案したところ、その日のうちに色よい返事が得られたと明かしている。Scibetta氏は、Jim Ryan氏らの懸念に直接答えたわけではないので、ポリシーやビジネスの観点で任天堂がどのような立場を取っているのか具体的な発言はなかった。年齢層の低いユーザーを比較的多く抱えているとされる任天堂プラットフォームにおいて、同じような懸念が内部で俎上に上がらなかったわけではないだろうが、結果的に問題ないと判断したものと思われる。
ところで、これまでにSwitch/Xbox Oneのクロスプレイが正式に発表されたタイトルは『Minecraft』と『Rocket League』のみである。『Minecraft』の売り上げ本数は1億本を優に越えており、『Rocket League』も3000万本を越えるなど、共に巨大なユーザーベースを誇る。ゲーム業界の中でもある意味特別な存在にある両タイトルだが、それが故に両機種間のクロスプレイが特例として認められたのかというと、そうでもないようだ。E3 2017が開催される前週に、『Gunscape』のSwitch版の発売を予定しているBlowfish Studiosが、すでに発売中のXbox One版とのクロスプレイについて、条件付きながら承認を得ることができたと明かしている(PS4版については認めてもらえないとも)。公式な数字ではないが、SteamSpyによると同作のSteam版のユーザー数は約40万人。PS4/Xbox One版のユーザー数は分からないが、多く見積もっても3機種合わせて100万人といったところだろう。決して少ない数字ではないが、マイクロソフトも任天堂も規模の大小に関わらずクロスプレイを受け入れていることが伺える。ちなみにBlowfish Studiosは、昨年5月の段階では任天堂からは拒否されたとしている。当時はまだSwitchが正式に発表される前で、NXというコードネームで呼ばれていた時期だ。正式発表前だから拒否したのか、それとも方針転換したのかは分からないが興味深いエピソードである。
一見オープンになったように見えるマイクロソフトも当然ながら独自のポリシーをもっており、それが原因でクロスプレイが実現していないタイトルもある。スクウェア・エニックスのプロデューサー吉田直樹氏は、『ファイナルファンタジーXIV』のXbox One版実現に向けてマイクロソフトと交渉を重ねていることをかねてから公言しているが、MMORPGである同作において、吉田氏はクロスプラットフォームを前提に交渉に臨んでいるそうだ。今月おこなわれたKotakuとのインタビューに対して吉田氏は、仮にプレイヤー数の規模が縮小していったとしても責任を持ってサービスを提供し続けなければならないと語る。しかし、もしパッチの実装方法などオンライン周りの規約に変更が加えられると安定して運営できなくなる可能性があるため、マイクロソフトに対しては共に責任を果たしていく用意があるか確約を求めているという。これは現在検討中のSwitch版における任天堂との交渉の中でも同じく求めているそうだが、どちらも未だ合意には至っていない。
クロスプレイに向き合う開発者たち
E3 2017以降、ゲーマーの間ではPlayStationプラットフォームを含めたクロスプレイの実現を望む声が日増しに多くなってきており、それに呼応するようにデベロッパーからも声が上がり始めている。PsyonixのJeremy Dunham氏はIGNの取材に対して、クロスプレイはゲーム業界が成長し続けていくためには必要なものだと語っている。またEpic Gamesの創設者であり、ゲーム業界の問題に対して率直な意見を言うことで知られるTim Sweeney氏も、すべてのプラットフォームがクロスプレイを受け入れるべきで、それによって誰もが利益を享受できると述べている。
Excellent news from @PsyonixStudios and Nintendo! All platforms should embrace cross-play; it benefits everyone. https://t.co/Dfmi7WYHgd
— Tim Sweeney (@TimSweeneyEpic) June 21, 2017
もちろん、ゲームによってはクロスプレイに向かないものもあるだろう。Boss Key ProductionsのCliff Bleszinski氏はクロスプレイは“馬鹿げている”として、PC/PS4『Lawbreakers』ではサポートしないと明言している。これはマウスとゲームパッドの操作性の違いを念頭に置いた発言で、特にエイミングにおいてマウスが有利であるのは誰もが認めるところだろう。同様の理由で、マイクロソフトも『Halo Wars 2』ではサポートしていない。そのほかには開発の手間を挙げる声もある。『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』のSteam版とPS4/PS3版とのクロスプレイを求める声に対してアークシステムワークスのShini氏はSteamフォーラムにて、デバッグやテストなどに膨大な時間を割くことになり、もし実行していたら同作は2017年を過ぎても発売できていなかっただろうと回答している。結果的にクロスプレイを採用しないにしても、一度は検討する時代になったということは言えそうだ。
山を動かすには“必要だ”が必要
Tim Sweeney氏は、ソニーはEpic Gamesの『Paragon』のPC/PS4間クロスプレイにおいては積極的にサポートしてくれたとし、Switch/Xbox Oneとの接続に難色を示すのはほかの理由もあるはずだともツイートしている。それは前述のポリシーの問題に繋がるのかもしれないが、ビジネス的な観点で見れば、PlayStation 4は今月11日時点で累計6040万台を売り上げており競合プラットフォームを大きく引き離している(Xbox Oneは公式発表されていないが、調査会社SuperDataは今年1月時点で2600万台だと報じている)。オンラインマルチプレイにおいては、ユーザーベースが大きければ大きいほど、マッチングのスピードや品質の向上が見込まれる。デベロッパーやユーザーがクロスプラットフォームを望む大きな理由の一つはそのためだが、単独で(あるいは直接競合しないPCと合わせて)すでに十分に多くのユーザーを抱えるソニーが、自ら進んでその優位性を削ぐ必要はないと判断したとしても不思議ではない。ともすれば、その巨大なユーザーベースの中にいるPlayStationユーザーの一部もまた、クロスプラットフォームの必要性を特に感じていないかもしれない。
いずれにせよ、プラットフォームホルダーをまたいだクロスプレイはまだ発表されたばかりで、実際に稼働するのは少し先の話だ。クロスプレイを望むデベロッパーやゲーマーも、まだまだ様子を伺っているように見える。前出のJim Ryan氏は、将来的にSwitch/Xbox Oneとのクロスプレイに参加する可能性について否定も肯定もしなかったが、どのような対話に対しても門戸を閉じることはないとも語っている。実際にユーザーが体験し、デベロッパーがその利益を実感することになれば、メディアも巻き込んで業界を動かすほどの大きなうねりに発展するかもしれない。