「MMORPGの再生」を目指す大型MMO『Ashes of Creation』Kickstarterにて327万ドル集金達成。期待と疑惑の眼差しを受けながら一歩前進

今月6月3日に『Ashes of Creation』のKickstarterキャンペーンが終了した。初期目標額は75万ドルだったが、その額を4倍以上も上回る約327万ドルの資金を集めた。『Ashes of Creation』は「みんなが愛したMMORPGの再生」をテーマとした作品だ。

今月6月3日に『Ashes of Creation』のKickstarterキャンペーンが終了した。初期目標額は75万ドルだったが、その額を4倍以上も上回る約327万ドルの資金を集めた。『Ashes of Creation』は「みんなが愛したMMORPGの再生」をテーマとした作品だ。スタッフは過去にSony Online Entertainment(現:Daybreak Game Company)に在籍し『EverQuest』シリーズや『Planet Side』シリーズに携わったというベテランを中心に構成されているという。MMORPG不作の時代と言われるなか、突如現れた『Ashes of Creation』は、327万ドルもの資金を集めることに成功した。

もちろん、ただスタッフにネームバリューがあるというだけで327万ドルもの資金が集まるはずもない。まず、本作で採用されるという「ノードシステム」が人々を魅了している。ざっくり言ってしまうと、「ノードシステム」とはゲームを遊ぶプレイヤーの行動によってエリアやフィールドの特色、さらに出現するクエストやNPCなどが大きく変化するというシステムだ。エリアが、文明のある場所として発展するか、自然にあふれた場所になるかは、訪れたプレイヤー次第となる。こうした仕組みにより、同じ地図にある地域でもサーバーが違えば大きく景観が異なるのだ。また「ノードシステム」に限らず、プレイヤーの行動がフィールドやゲーム内の社会情勢に大きく関わってくるのだという。さまざまな点でプレイヤーの行動と世界が相互作用するというのが本作のテーマだ。

ほかにも、あらゆるエリアで自分の住宅を建てられるという「ハウジングシステム」、アイテムを得て販売するだけでなく、輸送することで経済に繁栄をもたらす「キャラバンシステム」など、ここだけでは書ききれないほどの野心的な要素を盛り込む。まさにMMORPGファンにとっては垂涎もののシステムばかりだ。こうしたプロジェクトにありがちな、コンセプトのみあるというものではなく、同作のYouTubeチャンネルにはプレイアブルと思われる美麗な映像が投稿されており、骨組みはしっかりとできているように見える。

一方で、『Ashes of Creation』、厳密にいえば開発チームであるIntrepid Studiosに対して、疑惑の眼差しが向けられている。発端となったのはクリエイティブディレクターであるSteven Sharif氏の経歴だ。Steven Sharif氏は、マルチ商法によって多大な利益を得た資産家であり、かつゲーム開発の経験がないことにより、ビジネスマンとしても開発者としても疑問視されている。Sharif氏はRedditにて、こうした疑惑について部分的に認めながら「15歳の時から栄養ドリンクの事業に携わっていたが、7年前には引退し不動産事業に携わっている」「自分のゲームへの情熱は本物だ」と主張している。

また氏は「『Ashes of Creation』の立ち上げに失敗した場合はKickstarterで得た出資金を全額返金する」といった発言をしたことで、PCGamerの問い合わせを受け、そうした規約を持たないKickstarterに発言を撤回させられた過去を持つ。さらに問題視されているのは、本作の紹介プログラムだ。たとえば、『Ashes of Creation』を知り合いに紹介しコードを入力してもらえることで、Intrepid Bucksと呼ばれる仮想キャッシュを入手できる。このキャッシュを使えばサブスクリプションを無料にしたり、特定のアイテムを入手できたりするという。スマートフォンゲームでも同様の紹介システムは存在するが、サブスクリプションなどに関係するという点で、そうしたシステムよりもリアルマネーとの結びつきが強いといえる。YouTubeなどでは「今熱い『Ashes of Creation』を見逃すな」といった紹介コードの使用を目的とした投稿が数多く投稿されており、問題視されている。発売前であるかかわらず、YouTubeにて動画が10万件以上投稿されているという現状は、盛り上がりだけでは終わらない異様さがある。

また本作の目玉でもあるスタッフの経歴についても懸念されており、LinkedInにて開発メンバーについて調べたredditユーザーが数々の疑問点を指摘している。前述したようにディレクションを担当するSteven Sharif氏はゲーム開発の経験がなく、Shariff氏とタッグを組んでプロジェクトの監修をするJohn Moore氏も業界経験がない。さらに、リードゲームデザイナーであるJeffery Bard氏は6年間SOEに勤めた経歴があるが、主にカスタマーサポートを担当しており、開発経験がほぼない。シニアレベルデザイナーTrystan Snodgrass氏はこれまでノンゲームの仕事をメインとしており、業界の経験が1年未満であることなど、テクニカルディレクターやリード環境アーティストの2人を除けば業界歴が浅かったり、職種が異なっていたりするなど、大型プロジェクトとしてはスタッフのキャリアは心もとない。

確かに、ゲームクリエイターが新たにプロジェクトを立ち上げる際には、職種や業務量などは細かく説明せず、ざっくりと携わった経歴を述べてネームバリューにすることは少なくない。しかし、元SOEスタッフが多く参加していると大々的に宣伝しながら第一線で活躍していた開発者がそう多くないと暴露されたことが、不信感につながっている。

Kickstarterで大きな成功を収めたにもかかわらず、GoogleやTwitterで『Ashes of Creation』と入力すれば、続く検索予想に「hype(誇大宣伝、もしくは興奮しているというスラング)」といったキーワードが出ており、期待と疑惑の両方の眼差しを集めていることを感じさせる。なお、Kickstarterキャンペーンは終了したが、Intrepid Studiosは6月いっぱい、公式サイトにて引き続き出資を募集すると語っている。『Ashes of Creation』は大きな可能性と魅力を感じさせるものの、出資を検討している方には、さまざまな情報を加味したうえでの出資をすすめたい。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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