「あの名作の続編を出して」――新作開発を望むメッセージはどこへ届けるべきなのか

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ゲーマーなら誰しもお気に入りのゲームがあるだろう。そしてそのゲームのファンになればなるほど、その新作や続編をプレイしたいと望むことは自然な流れだ。では、その想いはどこにぶつけるべきだろうか。熱心なファンにとって、そのゲームを手がけた開発者は、もっとも親しみのある存在の一つかもしれない。特に近年はTwitterなどのSNSが広く普及したことにより、ゲームに携わる開発者と直接コミュニケーションを取ることが容易になっている。しかし、彼ら彼女らに要望を送るのは必ずしもベストな方法ではないかもしれない。

長沼英樹氏は、セガの『ジェットセットラジオ』シリーズの作曲家として知られており、ゲーム内容はもとよりサウンドトラックが高く評価された同シリーズにおいては、いわば顔ともいえる存在だ。そして長沼氏のもとには日々、同シリーズの新作や移植を求める声がファンから寄せられる。しかし長沼氏は9年前にセガを離れており、要望を聞くことができる立場にはない。したがって、長沼氏は「ASK SEGA(セガに言ってくれ)」と回答するほかない。では、現場の開発者に要望を伝えればいいのかというと、そうでもない場合がある。

神谷英樹氏はプラチナゲームズのクリエイターで、過去にはカプコンやクローバースタジオに在籍していた。『バイオハザード』シリーズや『ビューティフル ジョー』シリーズ、そして『ベヨネッタ』などを手がけたことで知られ、長沼氏と同様にファンから要望が多く寄せられる開発者の一人だ。しかしカプコンのタイトルだけでなく、現在所属しているプラチナゲームズのタイトルに関しても、氏はファンが望む回答ができないことが多い。『ベヨネッタ』の移植を問われた神谷氏が「Ask Sega」と答えているように、自社が生み出していちから開発した同タイトルであっても、それをどう扱うかという権利はセガが握っているためだ。

『ベヨネッタ』

プラチナゲームズといえば、その『ベヨネッタ』のPC版が先日Steamで発売された。国内で配信されていないものも含めれば、同社がこれまで手がけたタイトルの約半数がSteamでリリースされていることになるが、いずれもセガやスクウェア・エニックス、Activisionなど国内外の大手パブリッシャーがコンソール版に引き続き販売を手がけている(同社はデビュー作の『MADWORLD』から現在まで、すべてのタイトルについてパブリッシャーと組んで開発している)。プラチナゲームズは海外メディアPC Gamerの取材に対して、PC向けに移植することには常に前向きだとしたうえで、「我々がゲームをどのプラットフォームに向けて開発・発売するかはパブリッシャーが決めることで、我々が自ら決めることはできない」とコメントしている(関連記事)。

こういったケースは特に珍しい話ではなく、プラチナゲームズのようなデベロッパーはパブリッシャーから開発資金を得ることで大規模なタイトルを開発することができる。そしてパブリッシャーは大きな投資をする見返りの一つとして、そのタイトルのIP(知的財産権)を要求することが半ば常識となっている。IPを保有することで、そのゲームだけでなく関連商品の展開などに活かすことでさらなる利益を生むことができるわけだ。一方、近年台頭しているインディーゲームではデベロッパーが自ら販売元となることが多いが、パブリッシャーが介在するケースも決して少なくない。しかし多くの場合、そういったパブリッシャーはデベロッパーにIPを要求することはしない。では両者にどういった違いがあるのだろうか。

インディーゲームを扱うパブリッシャーの代表格といえばDevolver Digitalだろう。憧れを持つ開発者も多い

パブリッシャーがデベロッパーに提供するものはさまざまあるが、主だったものでは開発資金、デバッグなどのテストやローカライズ、マーケティングや流通などが挙げられる。その中でも開発資金がパブリッシャーの権利に大きく関わることは想像に難くないだろう。たとえばThunder Lotus Games が現在開発中の『Sundered』では、開発資金はKickstarterなどで自ら調達し、マーケティングはソニーが担っている。こうすることで、デベロッパーは不得意な部分をパブリッシャーに任せて開発に専念でき、一方のパブリッシャーは一定期間独占販売するなどの利益を得ることができる。そして、こういった関係ではIPをやり取りするまでには至らない。いわゆる等価交換にならないからだ。それほどIPが持つ力は大きいし、それを自らコントロールできるということはデベロッパーにとって重要な意味を持つ。ここではソニーを例に挙げたが、インディーゲームを専門に扱うパブリッシャーになると、こういったデベロッパーの権利の尊重を謳うところが多い。一方で、IPを要求する代わりにリスクを取って大きな投資をするパブリッシャーの存在がなければ、たとえばプラチナゲームズが開発してきたようなタイトルは生まれにくいという側面はあるだろう。またそういった機会は、同社ならではのノウハウや強み(同社のプロデューサー稲葉敦志氏は「形のないIP」と表現している)を活かす場のひとつでもある。

少々脱線してしまったが、結局のところ続編や移植などの要望を送るのであれば、そのIPを保有しているところに送るのがもっとも近道だということだ。前出の長沼氏は、親切にもセガへの問い合わせ先を案内している。大きな企業が相手となると、要望を送っても本当にしかるべき所に届いているのか不安な気持ちになってしまうかもしれないが、そういった心配は案外無用のようである。大きな企業であればあるほど、間接的あるいは無関係な場所での声も拾って製品開発に活かしているので、開発者に想いをぶつけることもまったくの無駄というわけではないだろうが。もちろん、要望を聞くことができる立場にある開発者もいるので、そういった方に伝えることもいいだろう。いずれにせよ節度を持って接したい。

余談だが、神谷氏にあまりしつこく聞くと「Blocked」とブロックされてしまう恐れがあるので、くれぐれも節度を持って接しよう。