大手鍵屋G2Aがブラックマーケットの風評を払拭できない理由、提携先が批判を受けて踵を返す事態に

近年、ゲームのプロダクトキーを商品として出品できるマーケットプレイス(広義での通称、鍵屋)が、不正取引によるマネーロンダリングの温床として問題視されていることは、これまで幾度となく取り上げてきた。先日、『Borderlands』シリーズで知られるGearbox Publishing(以下、Gearbox)は、業界最大手のデジタルゲームマーケットG2Aと提携し、最新リマスター作品『Bulletstorm: Full Clip Edition』の数量限定コレクターズエディションを発表した。

近年、ゲームのプロダクトキーを商品として出品できるマーケットプレイス(広義での通称、鍵屋)が、不正取引によるマネーロンダリングの温床として問題視されていることは、これまで幾度となく取り上げてきた。先日、『Borderlands』シリーズで知られるGearbox Publishing(以下、Gearbox)は、業界最大手のデジタルゲームマーケットG2Aと提携し、最新リマスター作品『Bulletstorm: Full Clip Edition』の数量限定コレクターズエディションを発表した。射撃場で実際に9ミリ弾丸を撃ち込んだスチールボックスが特徴で、限定フィギュアや専用マウスパッド、特注のドッグタグが同梱されている。

この決定に対してフォーラムサイトやソーシャルメディアでは、商品の広告塔として影響力を増すゲーム配信者を中心にGearboxへの批判が殺到。一部のYouTuberは、Gearboxがグレービジネスを支持するような方針を見直さない限り、今後同社の製品をボイコットするとまで宣言した。これを受けてGearboxは急遽G2A側に契約続行の条件を提示。承諾できなければ提携を打ち切ると主張する事態に発展している。昨年末には、開発向け支援施策が軌道に乗ったことで風評に改善の兆しが見えはじめたG2Aが、ブラックマーケットという印象を払拭できない背景を紐解いていく。

 

汚名払拭どころかGearboxへ飛び火

鍵屋とは、主にPCゲームのプロダクトキーやダウンロードコードを非公式に販売するサードパーティのマーケットプレイス全般を指す。プロダクトキーの転売行為そのものは、ゲームソフトを利用可能にするライセンスを転売しているという点で、国や地域によって事情は異なるものの一部例外を除いて合法とみなされている。一方で、誰でもゲームキーを出品できるオープンマーケットを設ける一部サイトが、組織的な大規模転売による市場価格の暴落や、盗難クレジットカード情報で不正に入手したプロダクトコードの横流しにより、自社オンラインストアを有するインディーデベロッパーや小規模の販売事業主に壊滅的な打撃を与えてきた一面もある。ゲームキーの転売がマネーロンダリングの温床になった理由や、鍵屋の普及が図らずも詐欺師の為のエコシステムを生み出してしまった経緯は、過去の記事で詳しく解説してきた。

中でも業界最大手のG2A.comは、昨年6月のいわゆる“tinyBuild事件”をきっかけにマーケットプレイスの収益構造に批判が集中し、ペテン師経済を助長するブラックマーケットというレッテルが貼られるようになった。それまでスポンサー契約を結んでいたストリーマーが自らプロモーションを停止する事例が相次ぎ、この機を境にG2Aの評判は地に落ちたといっても過言ではない。これを受けてG2Aは、ゲーム開発者がサードパーティのマーケットプレイスから恩恵を受けられる環境の構築を目指して、新たな施策「G2A Direct」を打ち出した。それまで皆無だったデベロッパーへのロイヤルティを確保したことに加えて、正規出品者の可視化やチャージバック保護や専用データベースへのアクセス権など、幅広いサポートが盛り込まれた。

昨年11月には、7月末にサービスを開始した「G2A Direct」の加入数が4か月間で50社を超えたことが報告され、一連の騒動で失った消費者の信頼を取り戻すきっかけとして、少しずつではあるが風評改善の兆しが見え始めていた。今回、高い知名度を誇る老舗Gearboxと手を結んだことも、もしかしたら失墜したブランドイメージの回復につなげる意図があったのかもしれない。しかし、この蜜月の関係にRedditNeoGAFをはじめ、フォーラムサイトやソーシャルメディアではGearbox側に批判が殺到。老舗ブランドが知名度を餌に、率先してグレービジネスを支持していると受け取られたのだ。

この件について、大物YouTuberの“TotalBiscuit”ことJohn Bain氏は、GearboxがG2Aと絶縁しない限り今後同社のプロモーションには一切関わらないと、自身のTwitterアカウントで宣言。その上で、不正転売から商品を保護する代わりにデベロッパーに自社プログラムに登録させる行為はみかじめ料を求める“ゆすり”と変わらないと、G2Aを痛烈にこき下ろした。今回のパートナー提携でG2Aの悪評が払拭されるばかりか、皮肉にも飛び火したGearboxのイメージダウンにつながってしまったようだ。

 

Gearboxが踵を返した理由

事態を重くみたGearboxは翌日、G2Aへの態度を一変。いまだ消費者の不信を招いている一部の収益構造や、不正転売を阻止するための監視体制をただちに見直さなければ、『Bulletstorm: Full Clip Edition』におけるパートナー契約を解消するとの声明を出した。業界メディアKotakuによると、Gearboxの広報担当者が提示した条件は大きく分けて4つ。まず、購入したゲームキーが盗品でないことを100パーセント保証する有料サービス「G2A Shield」を、30日以内に多くの業界外サイトと同様に無料で提供し、その旨を4月14日までに消費者へ通知すること。次に、信頼に足るデベロッパーおよびパブリッシャーには、不正に転売されているキーを検索して発見次第ただちに削除できるように、ウェブサービスもしくはAPIを90日以内に無料で提供すること。

くわえて、60日以内に前述した不正判別のプロセスにおける非認定業者のアクセス権限を制限するような仕組みを作ること。これは正規のゲーム販売元が不正取引と判別する前に、大量の盗品がG2Aに出回ってしまう事態を防ぐためだという。最後に正規品を売買する消費者に予期せぬ追加料金が発生しないようなシンプルで分かりやすい精算システムを、30日以内に再構築すること。上記すべての変更について、Gearboxは『Bulletstorm』のSteam版が発売される前にG2A側が公式声明を発表するように要求していた。しかし、G2Aはメディアの問い合わせに対してGearbox側と交渉中と説明しながらも、一向に目立った動きを見せることはなかった。業を煮やしたGearboxは先日、宣言どおりG2Aとのパートナーシップを解消すると、KotakuやEurogamerへの声明をとおして発表した。

4月8日のPC版発売までにG2Aの返答なく交渉決裂

Gearbox販売部門を統括するSteve Gibson氏は、「Bulletstorm: Full Clip EditionがPC向けに発売された現在になっても、G2A側に表立った動きはみられません。Gearbox Publishingは予告どおり、消費者やデベロッパーを保護するための要求を飲んで新たな公式声明を出そうとしないマーケットプレイスに対して、直接的なサポートを打ち切ります」とコメント。同日をもってGearboxはG2Aとのパートナー契約の破棄に向けたプロセスを開始したと説明している。これをもって一連の騒動は終結。『Bulletstorm: Full Clip Edition』の数量限定コレクターズエディションは、少なくともG2A経由では販売されないだろう。それでは、何故G2Aはブラックマーケットという烙印を払拭できないのか。そこにはBain氏が“ゆすり”行為と呼んだG2Aならではの保護施策や、にわかに囁かれている認証プロセスの脆弱性がある。

今年2月、G2AはRedditにAMA(Ask Me Anythingの略、“~だけど何か質問ある?”)スレッドを立て、これまで不信を募らせてきた多くのユーザーから質問を受け付けた。その結果スレッドが荒れに荒れたことは想像に難くない。「ゲーム業界にとってどれほど害悪な存在か分からないのか」「G2Aが正規品のみを取り扱う合法企業というのなら、どうして消費者を無料で保護しないのか」「これだけヘイトを集めてAMAが上手くいくなんて誰の発想なんだ」といった辛辣な質問が次々と投げ込まれ、G2Aが何を言おうとサムズダウンに投票されてしまうため、コメントをソートし直さないと回答が見られない状況にまで陥る始末だ。

特筆すべきは、不正転売業者の利用を未然に防ぐG2Aのアカウント認証が完全な“ざる”であることを、リアルタイムで証明してみせたユーザーが現れたことだ。通常、G2Aのマーケットプレイスに出品するためには、運営側による認証プロセスを経る必要がある。しかし、一度でも通過してしまえば次回からの認証はあってないようなものだという。つまり、優良アカウントを装って登録してしまえば、その後はいくらでも盗品を捌けてしまうというわけだ。さらに、このユーザーは出品されたゲームキーに認証マークが付与される前に購入できた事実を示すスクリーンショットを持ち出すことで、現状の脆弱性を晒して見せた。これに対するG2Aの対応は、ただちにシステムの改善を図ることではなく、故意にシステムをバイパスしたことを理由に同ユーザーのアカウントを凍結することだった。ユーザーからさらなる反感を買ったのは言うまでもない。

そもそも「G2A Direct」は、マーケットプレイスの売り上げからインセンティブが得られることから一見良心的な施策には思えるが、裏を返せば安心の対価に胴元が売り上げをピンハネしている悪質な保険のようなシステムとも受け取れる。いかに盗品故買の不正ユーザーに対する監視が強まった現在とて、前述したようにセキュリティの穴をかいくぐって不正転売を繰り返す業者は少なからず存在するだろう。しかし、G2Aに盗品が出品されていることに気付いたとしても、それらをマーケットプレイスから取り除くためには「G2A Direct」に加入して、同社のソリューションにすべてを委ねなければならない。この点がまさに“tinyBuild事件”の争点でもあった。つまるところ、盗品が出品されようがされまいがG2Aが必ず得をする仕組みになっているのだ。消費者向けに提供されている保護プログラム「G2A Shield」にも同じことが言える。これこそがBain氏やGearboxが訴えた“ゆすり”商法の根源であり、G2Aがグレービジネスと呼ばれ続ける最大の理由である。

 

G2Aの反応と騒動の顛末

もちろん、G2Aのサービス内容やビジネスモデルはあくまで合法であり、“tinyBuild事件”以降は特に業界の声に耳を傾けて運営方針を是正してきた。その点は評価されるべきであり、今回の騒動についても正当な言い分がある。G2Aは9日、一連の騒動について公式声明を発表した。Gearboxが一個人の主張に過ぎないYouTuberの煽りを鵜呑みにして、一度はパートナシップを結んだG2Aへの相談もなしに非難声明へと走ったことに対して遺憾の意を示すとともに、同社の追加要求を全面的に拒否。その理由を大きく3点に分けて説明している。

まず、「G2A Shield」をすべてのユーザーへ無料で提供せよという要求について、たとえ同サービスを利用しなかったとしてもすべてのユーザーが保護対象であることに変わりはないと、G2A側は説明。通常、マーケットプレイスで購入したゲームキーに瑕疵があった場合は、購入者が出品者に直接コンタクトを取って解決することが求められる。それでも解決できない場合は、G2Aが対応に乗り出すというわけだ。一方、トランザクション毎もしくはサブスクリプション形式の有料サポート「G2A Shield」を利用すれば、トラブルが起きた際に出品者へ自分で問い合わせることなく、G2Aが商品を100パーセント保証してくれる。つまり、お金を払わなければサポートしないというわけではなく、保険に加入すればトラブルの対応を代行してくれるという仕組みだ。

次に、消費者に予期せぬ追加料金が発生しないようなシンプルで分かりやすい精算システムの再構築という要求については、請求されるすべての費用はサイト上の料金表に表示されている内容であり、事前の断りなく追加費用を請求することは絶対にないと釈明。その上で、商品購入で発生する消費税に関しては購入者が居住する国や地域に依存するため、若干の変動があったとしてもG2Aの管轄外であると説明している。くわえて、その旨は商品を精算する前に必ず消費者に対して知らされている。

最後に、「G2A Direct」に加入していなくとも信頼できるクライアントであれば、不正に転売されているキーを検索して発見次第ただちに削除できるようなウェブサービスもしくはAPIを提供して欲しいとの要求。これに関してG2A側は、自由なマーケットプレイスの維持を理由に断固として拒否している。デベロッパー側としては自社製品はなるべく正規ルートで購入してもらうことで、ゲームソフトの市場価格を一定の範囲内でコントロールしたいというのが本音だろう。G2Aは不正転売を防止する観点でデベロッパー側にマーケットプレイスの監視権限を与えることには同意しているが、合法に入手したキーであってもデベロッパーの都合で出品を取り消されるような事態を懸念しているのだ。

要するに、マーケットプレイスに出品されている商品を自由に削除できる権限をすべてのデベロッパーに与えてしまえば、正規品か盗品かに関わらず出品価格が気に入らないという理由で削除権を行使する企業が現れてしまいかねないというわけだ。そうなればオープン市場における価格競争の原理は崩壊し、ユーザーが自由に取引できるという利点はなくなってしまうだろう。現状では「G2A Direct」に加入して直接契約を交わしたデベロッパーのみに、そうした権利が与えられている。パートナシップを結んでいる以上、前述したような暴挙に出る企業はそうそういないだろうというのが、G2Aの考えである。

このように、オープンマーケットゆえの脆弱性を悪用してマネーロンダリングを繰り返す不正業者が必ず存在する以上、マーケットプレイスを運営するG2A側に安心して取引ができる環境を構築する義務があるのは確かだが、すべての管理権限までオープンにしてしまえばサービス自体の存在意義までも危うくなってしまうという実情がある。これまでの騒動が業界に与えた悪影響や実害を鑑みれば、G2Aに貼られたレッテルを剥がすには大幅な改革が求められて然るべきではあるが、今回のGearbox側の掌返しが偏向解釈に基づいた些か強引な主張であったという印象も否めない。パートナー契約を結ぶことによる一部ファンの反発はある程度予想できたはずだ。G2Aが提携するに足らない企業と判断するのであれば、最初から歩み寄らなければよかったのではないだろうか。

余談になるが、Gearbox PublishingはGearbox Softwareに新設された異なる組織であり、今回の騒動を引き起こした決定は本家Gearbox Softwareとは直接の関係はない。事実、Gearbox SoftwareのCEO Randy Pitchford氏は自身のTwitterアカウントにて、つい先日までG2Aという企業の存在すら知らなかったとコメントしている。Gearbox Publishingを統括するのはあくまでもSteve Gibson氏であり、G2Aとのパートナー契約についても同氏がすべて取り仕切っていたとのことだ。Pitchford氏は一連の騒動について、経験の浅い新事業につき今後の改善を期待したいと、周囲の理解を求めている。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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