『FINAL FANTASY VII』ゲーム最序盤の壱番魔晄炉でレベルを99まで上げる猛者が現わる。きっかけは「やるせなさ」

みなさんはどのようにRPGを楽しんでいるだろうか。おそらくほとんどの人は、オープニングから続く物語という道を、主人公とともに歩んでいく遊び方を選んでいるだろう。しかしこの世には、そういった道をたどらず、独自の遊び方をするプレイヤーがいる。

みなさんはどのようにRPGを楽しんでいるだろうか。おそらくほとんどの人は、オープニングから続く物語という道を、主人公とともに歩んでいく遊び方を選んでいるだろう。しかしこの世には、そういった道をたどらず、独自の遊び方をするプレイヤーがいる。TwitchユーザーCirclMastr氏もそういったプレイヤーのひとりだろう。彼の『FINAL FANTASY VII(以下、FF7)』での目的は、天敵「セフィロス」を倒すことではなく、「壱番魔晄炉」でクラウドとバレットをレベル99まで上げることだった。

始まる前に完結する物語

通常、『FF7』を開始したプレイヤーは、美しいプリレンダムービーを見たのち、列車を降りたクラウドを操作し、仲間のバレットとティファ(この段階ではパーティーメンバーはクラウドとバレットのみ)とともに「壱番魔晄炉」へ向かう。そして「壱番魔晄炉」を爆破することで物語が大きく動きだすわけであるが、CirclMastr氏は、ミッションそっちのけでひたすら敵と戦い続ける。ひたすらに警備兵たちをなぎ倒し続け、2年という歳月を経てクラウドとバレットたちはレベル99となり、目標の達成によって、CirclMastr氏の挑戦は『FF7』の物語が始まる前に完結した。なぜこのような挑戦をしようと思ったのか。AUTOMATON編集部はCirclMastr氏に話をうかがった。

CirclMastr氏は、もともとごく普通に『FF7』を楽しむゲーマーであったという。2012年に、Dick Treeという名のユーザーがゲームフォーラムに「壱番魔晄炉でレベル99を目指す」という目標を掲げて挑戦する日記を書きこんでおり、CirclMastr氏はこのTree氏を応援していたのだという。しかし時間が経つにつれて報告は少なくなり、最終的には氏のプレイを応援するユーザーをまくしたてるような書き込みをし、挑戦は終了した。CirclMastr氏は、挑戦を放棄したTree氏にやるせない気持ちを抱え、また、応援していた人々の失望を希望に変えたいと思ったことから、2015年1月19日からTree氏に代わって挑戦を始めたというわけだ。

CirclMastr氏はさまざまなゲームをプレイしながらも、定期的に『FF7』を遊ぶことは欠かさない。2日に1回はプレイし、約1時間経験値上げに励んだという。敵と出会うための移動と敵と戦う作業をひたすら積み重ね、プレイ時間は525時間にも及んだ。戦闘に入ると15~30ほどの経験値を持った敵が複数現れる。1回の戦闘で得られる最大経験値は98で、平均では80ほどの経験値が入るという。初期レベルを無視し、クラウドをレベル1から99にするために必要な経験値を計算すると、約245万。ざっくりと計算するだけでも3万回の戦闘を重ねる必要がある。なんとも気の遠くなる話だ。こうした背景もあり、一度のプレイで経験値を5000稼ぐといったノルマを自身に課して氏はプレイを続けていた。

クラウドとバレットの名前はDick Tree氏にちなんでいる。

このようなレベル上げの作業を続けるのには不屈の精神が求められる。CirclMastr氏は昨年7月には肩を痛めて手術したのだという。それでも『FF7』のレベル上げだけはひたすらやり続け、着実にゴールへと近付いていった。そして2年にもわたる挑戦のすえ、2017年4月7日に最終的に氏はクラウドとバレットをレベル99にした。その様子を配信していたTwitchのチャットは歓喜に包まれ、静かに、そして熱く氏は喜んだ。ひとりの男が戦いに勝利した瞬間だった。CirclMastr氏は「ばかげているかもしれないが、後悔はない。もう一度やる必要があるならば、喜んでやろう。リメイク版『FF7』でも同じ挑戦をするつもりだ。」と新たな決意を固めている。

途方もない道のりを歩むモチベーションは、Tree氏に対する想いと、コミュニティのためだけだったのかとたずねたところ、「そのとおりだ」と氏は答えた。ただ、CirclMastr氏にとってのコミュニティはゲームフォーラムだけでなく、Twitchでの応援コメントも大きな活力のひとつだったようだ。

Tree氏へのやるせなさが原動力になったという今回の挑戦。インターネット上の書き込みが、人を大きく動かすこともある。希望と同様にネガティブな感情もまた人のエネルギーとなりえるのだ。怒りや苦しみ、憎しみややるせなさが物語に大きく絡んでくる『FF7』を舞台にこうした挑戦が生まれたのは、決して偶然ではないだろう。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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