Ubisoftに限らず、近年のAAA級タイトルではシーズンパスとは別途、ゲーム内での追加購入コンテンツが用意されているケースが多い。2月16日に国内リリースされた剣戟アクション『For Honor』も例外ではない。弊誌レビューでは格闘ゲームの文脈から本作を解きほぐしたが、ゲーム性そのものではなく、そもそものマネタイズ方法に不満を持っているユーザも存在する。
先週各海外メディアで取り上げられたRedditユーザ「bystander007」氏がまさしくそうだ。Reddit上のコメントでは、新たに追加されたエモートが通常の3000または5000スティール(ゲーム内通貨)ではなく7000スティールで販売されていることをはじめ、すべてのコスメティックアイテムを揃えるにはヒーロー1体あたり9万1500スティール、計12体で109万8000スティールという膨大な量のゲーム内通貨を貯めなければならないことが指摘されている。
9万円払うか2年間プレイし続けるか
109万8000スティール貯めることは、実際どれほど大変なのか。まずスティールとは有償または無償で取得できるゲーム内通貨のことである。有償での購入レートは5000スティール=648円。Tier-5の「スティールパック5」であれば1万2960円で15万スティールを取得できる。無償での主な入手方法はマッチ完了と、デイリーオーダー/コントラクトオーダーの達成報酬である。マッチ1回あたりの獲得スティールは10から20ほど。各種オーダーの達成報酬は100から300スティールである。
スティールの用途は、武器のアップグレード 、スカベンジギアパック(装備品ガチャ)、衣装、エモート、エフェクト、エクセキューション、チャンピオンステータス(XPブースト、戦利品・装備品分解時の資材増加などの効果あり)の購入など多岐にわたる。この中で必要経費が不確定な装備品の獲得・強化まわりを除いたコスメアイテムに限って考えても、上述の通りすべて揃えようと思えば途方もない量のスティールを集める必要がある。すべて有償で購入すれば9万円以上、無償で集めるとなれば1日2時間ほどプレイして1200スティールずつ貯めたとしても2年半かかってしまう。DLCで追加されるヒーローのアンロックと、追加コスメアイテムを考慮すると費用・時間はさらに膨れ上がるだろう。
こうした「bystander007」氏の意見に対して、『For Honor』のゲームディレクターDamien Kieken氏がデベロッパー・アップデートにてコメントを残した。該当箇所は下記動画の24分からである。
全コンテンツのアンロックは想定外
Kieken氏いわく「プレイヤーが全コンテンツをアンロックすること。これは我々が意図したゲームデザインではありません。(中略)たとえば『World of Warcraft』で全キャラクターの全アイテムをアンロックしようとは考えないはずです。MOBAでも同じことが言えます」。彼らは事前に「ほとんどのプレイヤーは1体から3体のヒーローに絞ってプレイする」と予測していたという。そして現状のデータを見る限り、予測通りの結果になっているとのこと。この前提に基づいてコスメアイテムの価格を設定しているため、課金制度を利用しないプレイヤーでも、お気に入りのヒーローのコスメアイテムを揃えることは十分に可能だというわけだ。
開発陣が想定しているゲームの進行順序はというと、まずゲームプレイに関わるコンテンツをアンロックし、続いて愛用ヒーローの装備品を揃える。それらが終わったら、エンドゲーム・コンテンツとしてコスメアイテムを少しずつ揃えていく。コスメアイテムは一通りプレイし終えた後のご褒美なのだ。たしかにヒーロー1体のコスメアイテムに限って計算すれば、1日1200スティールのペースでも76日あまりで全コスメアイテムを揃えられる。現実的な数値と言えるだろう。またプレイヤーがモチベーションを保てるよう、定期的にコスメアイテムを追加していくこともプランに入っている。
たしかにMMORPGやMOBAにおいては全キャラクターの関連アイテムをアンロックすることは想定外といえるだろう。だがゲーム内での追加購入モデルを採用しているMMORPGやMOBAの多くは売り切り型の『For Honor』とは違い、F2Pのタイトルである。単純には比較できない。
マイクロトランザクションへの抵抗感
この議論は『For Honor』に限った話ではなく、F2P文化から生まれたマイクロトランザクションを、売り切り型のゲームに持ち込んだ作品全般に言えるものだろう。たとえばゲームジャーナリストのJames Stanton氏(通称、Jim Sterling)は売り切り型のゲームにマイクロトランザクションが存在すること自体が好ましくないという説に立っている(Jimquisition 参考動画リンク)。これはいわゆる「Pay to Win」になっているかを問わず、マイクロトランザクションの存在自体を拒む立場である。
「bystander007」氏も上記と近いスタンスを取っている。すでに対価を支払ったにも関わらず、ゲーム内通貨を追加購入しないと全コンテンツのアンロックが困難であること自体がおかしい。そう唱えている。Kieken氏の「プレイヤーが全コンテンツをアンロックすること。これは我々が意図したゲームデザインではありません」という前提自体に異論を述べているわけだ。アクセス可能かどうかが重要なのであって、実際にプレイヤーが全てのコンテンツを利用するかは別問題なのである。
その一方で、有償ゲーム内通貨が存在するおかげで、ゲームをプレイする時間がなくてもお気に入りのコスメアイテムを揃えられるというポジティブな意見もある。YouTuberのTotalBiscuit氏がこの立場をとっており、「Pay to Win」にならないコスメアイテム限定のマイクロトランザクションであれば歓迎している(TotalBiscuit 参考動画リンク)。売り切り型モデルとマイクロトランザクションの併用を受け入れる姿勢だ。
『For Honor』の場合、コスメアイテムだけでなく装備品の獲得(ガチャ)と強化にもゲーム内通貨のスティールが使用される。小さなアドバンテージかもしれないが、お金をかけた方が高レベル帯の装備品を早く揃えられる。これは「Pay to Win」と呼ばれかねない仕様である。つまるところ、『For Honor』は上述した両方の立場のプレイヤーに嫌われうる危険性をはらんでいるのだ。
プレイヤー人口の減少
とはいえ、ほとんどのプレイヤーはわざわざ声をあげるほどマイクロトランザクションの存在を強く意識していないだろう。良くも悪くも『For Honor』のモデルは現代のゲーム文化に浸透しきっている。ゲーム本編に払った価格分楽しめるのであれば、それでよい。課金制度の心配をするのは、ゲームにのめり込み、カジュアルからハードコア層に移行してからだ。
より多くのプレイヤーにとって由々しき問題となるのは、プレイヤー人口の減少だろう。Steamに限ったデータではあるが、SteamChartsによればSteam版『For Honor』はリリースから1か月で同時接続ユーザ数が50%以上ダウンしており、3月中旬に入ってからは1万人を切るようになっている。2月以降、Ubisoftの『Ghost Recon: Wildlands』をふくめ大作級のタイトルが続いたことも影響していると考えられるが、リリース当初から話題となり、いまだ解決せずにいるP2Pコネクションの問題も忘れてはならない。
Ubisoftの『Tom Clancy’s Rainbow Six Siege』や『Tom Clancy’s The Division』のように、リリース後のアップデートによりプレイヤー人口を持ち直した事例は複数存在する。『For Honor』も今後の運営次第で同じルートを辿れる可能性は十分にある。今回Kieken氏がReddit上の話題をピックアップしたように、プレイヤーとデベロッパー間のコミュニケーションが継続されるのであれば、明るい未来が待っているだろう。