10年前に任天堂で働く夢をネットに書き込んだ青年、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のクレジット画面で発見される
「私の夢は、日本に住んで、任天堂でゲームデザイナーとして働くことです。とても大きな目標ですが、これは私が初めてマリオをプレイした時から抱き続けている夢なのです。」
これはいまから10年前、高校を卒業したばかりのとあるアメリカ人青年がインターネット上の掲示板に記した言葉である。ゲーマーなら幼い頃、彼のように大好きなゲームを作った会社やゲームクリエイターに憧れた方は多いのではないだろうか。そういった意味では、彼は世界中どこにでもいる普通のゲーム好きの青年といえるだろう。しかし高校を卒業して、これからの将来を真剣に考える時期にあった彼にとって、日本に行くことはもう漠然とした夢ではなかった。
彼が書き込んだのは、Translators Cafeという翻訳や通訳を仕事とする人たちの交流の場となっている掲示板だ。ここにはさまざまな言語を操る訳者がおり、その現地で働いた経験を持っている人も多い。日本に行くといっても、ただのゲーマーが京都の任天堂本社の門を叩いたところで採用してくれるはずもない。彼はまず日本で生活し、働きながらゲーム作りや日本語を学ぶにはどうしたらいいか、この掲示板でアドバイスを求めたのだ。
彼が日本にこだわったのは任天堂があること以外にも理由があったようだ。彼は高校時代に二度、日本の同じ学校に交換留学生として来日していたという。その当時の経験は彼にとって素晴らしいものだったそうで、すぐにでもまた日本に行きたいという思いが強かったそうだ。しかしお金もない若者が異国の地で勉強するというのはそう簡単ではない。
彼はまず学生ローンを検討したが、残念ながら日本の学校は適用外だった。また、この掲示板で英語の教師をしてみてはどうかと薦められたが、日本の外国語青年招致事業を通じて英語を教えるには学士号が必要となる。その取得のために4年間をアメリカで費やすというのは、彼の望むところではなかった。掲示板ではそのほかに、インターネットテレビ/ラジオの外国語放送などで、まずアメリカで日本語を学ぶことが提案されていた。このようなやり取りを終えたあと、彼は結局どのような道を選んだのか何の報告もないまま時は過ぎ、なんということのない書き込みのひとつとしてインターネットの片隅に埋もれていった。
今年の3月18日、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をクリアしたRedditユーザーがスタッフロールを眺めていたところ、ふと違和感を感じた。日本のゲームである本作のクレジット画面の序盤に英語の名前が登場したからだ。見ると本作のWildlife Programming(野生動物プログラム)を担当した「Corey Bunnell」という人物だった。もちろん、日本のゲームであっても日本人以外が開発に参加していることはいまでは珍しくはないが、そのRedditユーザーはその名前を検索してみたところ、翻訳や通訳を仕事とする人たちが交流する、とある掲示板がヒットした。Corey Bunnell氏はその掲示板で、任天堂でゲームデザイナーとして働くことを夢見て、日本で働いた経験のある人たちにアドバイスを求めていた。そしていくつかのアドバイスをもらった彼は掲示板から姿を消していた。そう、あれから10年、彼は任天堂で働くという夢を叶えて、しかも同社を代表する超大作に携わっていたのだ。
Bunnell氏は結局あれからどのような道を選んで、任天堂までたどり着いたのだろうか。彼は例の掲示板で、一旦大学に進学してから日本の大学に留学することもひとつのプランだとしていたが、彼は京都市内にある立命館大学映像学部に留学していたようだ。同学部のホームページに、卒業生としてインタビューを受ける2015年の彼の映像が残されている。彼はここでゲームのプログラミングやビジネス関係を学びつつ、京都のゲーム会社でインターンとして働いていたという。そして卒業後は、同じく京都にあるゲーム会社に就職したと語っている。この動画では具体的な社名は口にしていないが、少なくとも後者は任天堂のことだろう。
具体的な目標を掲げ、一歩一歩着実に夢を追いかけていっただけでなく、見事その夢をつかんだ彼には感服するばかりだ。おそらく兄を通じて自分が話題になっていることを知ったであろう彼は、いまどのような気分でいるだろうか。