XSEED Games(Marvelous USAのゲームブランド名)は、PC版『王様物語(英語名: Little King Story)』のパフォーマンス向上のために、Peter “Durante” Thoman氏(以下、Durante氏)をゲストとして招聘したことを、Tumblrにて発表した。
Durante氏は、コンソール機からPCへ移植されたタイトルの技術分析をおこない、時にはModderとしてゲームを改良させてきた実績を持つ。氏は特に日本産ゲームを得意としており、PC版の発売当初、解像度とFPSが固定されるなど多くの点で最適化が不足していた『DARK SOULS』のパフォーマンスを向上させたことで知られている。有名Modderとして活躍していたDurante氏は、ついに企業から呼ばれることとなった。
『王様物語』はもともとマーベラスインタラクティブ(現マーベラスAQL)からWii向けに発売されたストラテジーゲーム。牧場物語の生み親として知られる和田康弘氏、『moon』に携わっていた木村祥朗氏や倉島一幸氏など、豪華スタッフが手がけることで脚光を浴びた。2016年にはSteamなどでHD化をほどこしたPC版が発売されていたが、ゲーム内容こそは高い評価を得ていたものの、カクつきが多発しPCへの最適化不足がSteamレビューにて指摘されていた。この事態を重く見たXSEED Games の副社長であるKen Berry氏は、日本産ゲームのPC移植に強みを持つDurante氏に協力を依頼。Durante氏はPC版『王様物語』の事情に疎く、自分の専門ジャンルではないと感じていたものの、どこが悪いかがある程度把握できていること、Ken氏がソースコードをすぐに渡してくれたことに感銘を受け、仕事を受けることを決断したようだ。
さっそく作業に取りかかったDurante氏は、状況が思ったよりも複雑であったことを知る。そもそも『王様物語』はWiiのために最適化させたカスタムエンジンを使用しており、移植やアップデートなどがまったく考慮されていない仕様であったのだという。Durante氏は一番の課題であった、ゲーム内の処理とフレームレートが同期しない問題と、カクつきの多発の改善に着手。さまざまな分析をおこない、キャッシュの設置や調整、アニメーションのシークエンスを調整していく。すると、FPSが大きく向上し、60FPSでもゲームと同期して動くようになった。
さらにDurante氏は“依頼されていなかった”グラフィックの改善にも着手。オプション設定できなかったアンチエイリアスを実装し、影表現などに修正を加え、ジャギーが多いとされていたグラフィックを滑らかにしてみせた。ほかにもゲームパッド入力が8方向に制限されていたことに窮屈さを感じていた氏は、XInputの方向制御を導入し、コントロール部分でも多くの改良をおこなった。
こうした努力の甲斐あって、最終的にPC版『王様物語』は60FPSでスムーズにプレイできるようになり、グラフィック表現も向上している。Durante氏は多数の改善を実現できたことを誇りに思いつつ、チャンスをくれたX-SEED Gamesに感謝を述べている。Ken氏もパフォーマンスが向上したことに満足感を示しており、アップデートによってrelaunch(再発売)できたと安堵を見せている。
ゲームに新たなコンテンツを追加するModderが企業とコラボレーションしたり、企業からオファーを受けるという事例はこれまであったが、パフォーマンスの向上を得意とするModderが企業のオファーを受けて開発に参加し、改善を成功させたという事例は興味深い。『王様物語』はソースコードが複雑かつ、オリジナルチームが解散状態にあり、こうした複雑な処理を得意とするDurante氏は適任だったといえるだろう。
今回のアップデートはすでに実施されており、「賛否両論」に割れていたSteamレビューの評価は「ほぼ好評」に傾きつつある。依然として不具合が存在していることが指摘されているなどすべてが好評というわけではないが、アップデートが実施された2月3日以降、Steam内の『王様物語』コミュニティは活気を取り戻している。