『Fallout: New Vegas 2』開発中の噂が広まった理由、Obsidianの続投望むファンの期待を煽る疑似餌

先日、一部海外サイトが報じたニュース記事を発端に、2010年のスピンオフ作品『Fallout: New Vegas』を手がけたObsidian Entertainment(以下、Obsidian)が、続編『Fallout: New Vegas 2』に着手しているという根も葉もない噂がフォーラムを中心に広まった。

先日、一部海外サイトが報じたニュース記事を発端に、2010年のスピンオフ作品『Fallout: New Vegas』を手がけたObsidian Entertainment(以下、Obsidian)が、続編『Fallout: New Vegas 2』に着手しているという根も葉もない噂がフォーラムを中心に広まった。しかし、情報提供元は明かされておらず、後日業界メディアによるObsidianへの問い合わせから、開発の事実はなく渦中の報道はデマであることが明らかになった。ここまで風説が流布した背景には、初代『Fallout』の生みの親たちによって結成されたObsidianこそが、本家ルーツの正当な継承者と信じてやまない従来ファンの期待と、いわゆる“釣り見出し”と情報捏造で彼らの好奇心を巧妙に煽る悪質なバイラルメディアの存在がある。

 

内通者という常套句で風説を流布

『Fallout: New Vegas』は、2010年10月にBethesda Softworks(以下、Bethesda)からMicrosoft Windows/PlayStation 3/Xbox 360向けに発売されたオープンワールドのロールプレイングゲーム。Obsidian開発のスピンオフでありながら、本家に劣らぬ高評価を得ているシリーズ屈指の名作だ。先月31日、フォーラムサイトRedditの中で最も多くのゲーマーで賑わうスレッド群に、Obsidianが続編『Fallout: New Vegas 2』を開発しているとのトピックが投稿された。すると噂はたちまち広大なネットの海を駆け巡り、フォーラム内やソーシャルメディアで話題が沸騰。Obsidianの続投を渇望していたファンは歓喜に沸いた。

しかし、一連の情報はすべてフェイク。捏造された嘘のニュースである可能性が極めて高い。最初にスレッドを建てたRedditユーザーが参照した情報元は、世界最大の独立ゲームメディアを自称するFragheroというアメリカのウェブサイトだ。記事によると、身元を明かせない内部の情報提供者がいるとのことで、少なくともObsidianが携わっていることに加えて、今年の「E3 2017」でプロジェクトの存在が正式に発表される可能性を報じている。きわめつけに、いかにも公式と思わせるようなタイトルロゴまでヘッダー画像として貼り付けられていた。その巧妙さゆえにFacebookページに投稿されたニュースリンクは600回以上シェアされ、200件を超えるコメントの中には情報を真に受けているファンも少なくなかった。

実はこのサイト、過去にも『Grand Theft Auto VI』や『The Elder Scrolls VI』といった公式には有りもしないタイトルのリーク情報を、あたかも真実であるかのように報じてきた常習犯である。また、Fragheroは今回の報道に際して、情報の信憑性を証明するために『Red Dead Redemption 2』や『The Last Of Us 2』の存在を事前にリークしていたことを主張しているが、その裏には巧みに既成事実をでっち上げてきた情報操作がある。過去にもゲーム業界における捏造ニュースの蔓延について積極的に取り上げてきた業界メディアKotakuによると、Fragheroは『Red Dead Redemption 2』が正式に発表された後で、タイトルの定まっていなかった過去記事の文章をこっそり編集していたという。その証拠にオリジナルの文面では複数の異なる呼称が使われている。

今回の『Fallout: New Vegas 2』騒動に関しても、当初はObsidianが携わっている点に説得力を持たせる材料として、後に『Pillars of Eternity II: Deadfire』であることが発表された同社のティザーツイートが貼られていた。その後、Obsidianがネタばらしすると、すぐさま後述する『Fallout: New Orleans』の噂に関する昨年のツイートに差し替えられた。『Fallout: New Orleans』と思われていた新作スピンオフの存在が、実は『Fallout: New Vegas 2』であったと強調するためでもある。もちろん、そんなものは少なくとも公式には存在しない。Kotakuの問い合わせに対して、ObsidianのPRマネージャーを務めるMikey Dowling氏は、次のようにコメントしている。「いままで何度も繰り返し発言してきたことですが、Bethesdaが望むなら私たちは喜んでFalloutを再び手がけたいと思っています。ただ今はその時ではありません。現在は弊社では初となる続編、Pillars of Eternity II: Deadfireの開発で手一杯ですから。まあ誰が手がけるにしろ、もしFalloutの新作が発表されたらプレイするのが楽しみですよ!」

 

多くのファンが鵜呑みにした理由

それでは情報元も明かされていない如何にもフェイクで胡散臭い風説が、どうしてフォーラムやソーシャルメディアのトレンドとして席巻するほどに蔓延したのか。そこには、Obsidian発足メンバーのルーツと、彼らが残した“Fallout”の遺伝子に魅せられた従来ファンの熱意がある。昨年1月、『Fallout 4』がシリーズファンから批判される3つの理由を論じた際に、Obsidianに開発を担当して欲しかったと渇望する声が少なくなかった背景を説明したことがある。フランチャイズの知的財産権がInterplay Entertainment(以下、Interplay)から現在のBethesdaへと売却される以前、『Fallout 2』や後に『Fallout 3』となるプロジェクト「Van Buren」は、Interplay傘下の開発チームBlack Isle Studios(以下、Black Isle)が手がけていた。

シリーズ生みの親が再び手がけたスピンオフ作品

その後、Interplayの財政難から「Van Buren」を含めた制作途中のタイトルは全てキャンセルされ、全スタッフのレイオフをもってスタジオは閉鎖。『Fallout』シリーズの未来はBethesdaへ託された。Obsidianは、そんなBlack Isleの元メンバーたちによって結成された開発スタジオなのだ。ちなみに「Van Buren」の設定や登場人物の多くは、その後『Fallout: New Vegas』へ引き継がれている。こうした背景から、古馴染みのファンの中にはObsidianこそが真の意味でのシリーズ生みの親であり、『Fallout: New Vegas』こそが本家にルーツを持つ正当な継承者とする見方もある。そんな中、同作でプロジェクトディレクター兼リードデザイナーを務めたJoshua Sawyer氏は以前、シリーズに再び携わるならアメリカ西海岸を舞台にしたいと、海外メディアのインタビューに答えていた。

その中で、かつて共に働いた同僚のアイデアに言及する形で、『Fallout』の世界観にはルイジアナ州ニューオーリンズが似合いそうだとコメント。このことがきっかけで『Fallout: New Orleans』というフレーズがいつしかコミュニティの間で独り歩きするようになった。そして2015年12月、Sawyer氏が自身のInstagramに意味深な写真を投稿したことで話題に再び火が点いた。単なるルイジアナバージョンのField Notes(アメリカで販売されている手帳ブランド、全50州をモチーフにした「County Fair」エディションが2010年夏期に限定品として登場)を写した投稿に過ぎなかったが、『Fallout: New Orleans』への着手を示唆しているのではないかとの憶測が飛び交い、ファンのコメントが殺到する事態に発展した。

別の例では、『Fallout: New Vegas』でレベルデザインやダイアログの脚本を担当したゲームデザイナーEric Fenstermaker氏が、Twitterで『Fallout: New Orleans』の可能性についてファンから尋ねられ、再びシリーズに携わる心の準備はできていると発言しただけで、メディア各社のヘッドラインを飾ったこともある。それだけObsidianが手がける『Fallout』シリーズをもう一度体験したいと渇望する声が業界内で高まっていたということだ。今回のデマ騒動の発端となったFragheroのように、国内外を問わず一部の悪質なクリックベイト(いわゆる釣り見出しでクリック数を稼ぐことだけを目的にした記事全般を指す)は、そうしたコミュニティ内に沸き立つ期待を事あるごとに煽ってくる。『Grand Theft Auto VI』や『Half Life 3』の噂がどこからともなく浮上した際も、ネットの海は同様のフェイクニュースであふれていた。単なる噂話や風評を鵜呑みにするのではなく、自身の目で確かめ真偽の程を判断する姿勢を大切にしたい。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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