Steamストアにて自作自演のレビューを投稿し、ユーザーまたはValveに告発される事例が相次いでいる。弊誌では先日、動画投稿者と衝突したすえに自作自演をおこない、自身の手がけたゲームが発売から1週間も経たずしてSteamストアから削除された開発者の事例を報じたばかり。Valveが開発者に対し一方的に契約解消を告げるケースは、これまであまり見られなかったが、今年に入って自作自演を理由としたBANが複数報告されている。
新たに報告された事例は複数ある。はじめに、『Platformica』における事例だ。『Platformica』は昨年8月に発売された、空に浮かぶカラフルなパネルを渡っていく3Dアクションゲーム。自作自演が発覚したのは、ユーザーの投稿がきっかけだった。
Steamユーザーr4m3氏は、Steamの『Platformica』コミュニティにてバグの報告をするためにゲームのスクリーンショットを投稿した。それから数日後、r4m3氏は自分が開発者によって当該コミュニティから追放されたことを知る。バグが映ったスクリーンショットをアップしたことで追放されたと予想した氏は、開発者の姿勢に疑問を持ち、『Platformica』の周辺を探っていくことを決意。すると、ポジティブレビューの多くが「90日間以上ログインしていないアカウント」であることに気付く。氏はredditにスレッドを立てネットユーザーとこの事実を共有し検証、賛同したユーザーたちがValveへメールを送っていた。その声が届いたのか、Valveが調査をおこなった結果、開発者が複数のアカウントを使って自作自演していたことが判明した。その直後に開発者であるLunyov Artem Pavlovych氏は自らSteamコミュニティ内で自作自演の事実を認める投稿をしている。
“やあ、コミュニティのみんな。確かに俺は2016年の10月にいくつかの『Platformica』のレビューを書いた。批難されるべきことだろう。俺は2年間にわたって3個のゲームを開発してきたが、一瞬にしてすべてが削除された。相応の報いだろう。(Valveは)いい仕事をしたよ。”
バグ報告をしたユーザーを追放したことで自作自演が判明したという結果はなんとも皮肉なものだ。r4m3氏は『Platformica』をそれなりに気に入ってプレイしていたという事実も、無念さを際立たせる。Pavlovych氏の手がけたゲームはすべてSteamストアから削除からされたが、所持者は現在でもプレイできるとのことだ。
ふたつめの事例は、謎が多い。削除の対象となったのは『大海战 Navy Field IV』。Steamには似た名前の『Navy Field 2 : Conqueror of the Ocean』というタイトルが配信されている。両者の開発スタジオはともに東アジア系であるが、因果関係は明らかになっていない。『大海战 Navy Field IV』はFree to Play形式で配信されていたRTS。Steamspyによると、毎月500人以上プレイするユーザーが存在していたようだ。ゲームは2016年6月にリリースされていたが、2月3日にValveは自作自演を理由に『大海战 Navy Field IV』をストアから削除し、デベロッパーであるKupaiSky Network Maanshanとの契約を打ち切ったことを報告している。
『大海战 Navy Field IV』については、コミュニティで争った形跡もなく、どういった経緯で自作自演が判明したのかは謎のままだ。ただ、コメント欄には今回のValveの判断を喜ぶ中国ユーザーが目立つ。おそらくであるが、中国のコミュニティ内においてなんらかの事件が発生していたのかもしれない。
また、ややケースは異なるが、『サイレントヒル』を目指して開発されているホラーゲーム『Husk』ではパブリッシャーのスタッフが自作自演をおこなっていたことが判明している。『Husk』のパブリッシングを担当するIMGN.PROのスタッフが、Steamストアにてユーザーを装って称賛のレビューを投稿していた。その手法は、普段使用しているアカウントのユーザー名を変更して投稿していたというだけのお粗末なものだ。ゲーム自体の評価もよいと言えず、好意的な反応をしていたのは自作自演の投稿のみだったので、すぐにユーザーの目にとまり、Steamコミュニティ内で批難を受けた。すぐさまIMGN.PROは自作自演をしたことを認め「デベロッパーは無関係で、私ひとりでやったことです。恥ずべきことです。本当に間違っていました。」と平謝りしている。前述の2タイトルとは異なり、自作自演は1件のみであり、複数アカウントによるなりすましではなかったからか、こちらのタイトルはSteamストアから削除されていない。
IMGN.PROは『SPINTIRES』や『Kholat』をリリースした新進気鋭のパブリッシャーだ。『Husk』もまた期待を集めるタイトルであり、2月の「Humble Monthly」のラインナップに名を連ねていることから、話題作であることがわかるだろう。そうした期待の新作に携わる人間が、Steamストアで自作自演をおこなったという事実は、衝撃が大きい。自作自演をおこなっている開発者は、決して無名の個人開発者だけではないのだ。
このように、2017年内に入り、開発者が自作自演をし、告発される事件が頻発している。彼らはSteamストアで自作自演レビューをおこなっている開発者の氷山の一角に過ぎないという可能性が考えられる。Steamには星の数ほどのゲームが存在しており、ひとつひとつのレビューを検証していくのは困難だ。手順を見るに、おそらくValveはユーザーから多く問い合わせがある疑惑を検証しているのだろう。尻尾を見せてユーザーに気付かれるようなことをしなければ、処罰されないと考えてもおかしくはない。
そういった意味では、Valveが本格的に調査を始めたことは朗報といえる。自作自演をすると処罰される恐れがあるとわかるだけでも、こうした事件が発生することを抑制できるだろう。ValveはSteamレビューを、ユーザーにとって信頼できる場所にするためにさまざまな手段を使い改善を進めている。こうした一連の事件が、よい影響を与えることを祈りたい。