『Yandere Simulator』は、「Senpai」を“病的”に愛する「Yandere-chan(以下、Yandereちゃん)」を操作するオープンワールドステルスゲームだ。主人公がヤンデレというコンセプトや、Senpaiに近付く女の子たちをほかの生徒に気付かれずに始末していくというバイオレンスな内容がたびたび話題を呼んだ。
『Yandere Simulator』は開発当初からアルファ版が無料で公開されており、弊誌でも何度か開発状況を紹介したが、執筆した時点ではプロトタイプとも呼べない状態にあった。すでに長期開発ともいえる域に突入している『Yandere Simulator』は、今どのような状態にあるのだろうか。
殺害手段は無限大
『Yandere Simulator』の開発を手がけるYandere devは開発当初、『Hitman』シリーズを目指すと発言していたことを覚えているだろうか。この発言は期待を集める反面、冷ややかな反応も多かった。しかし、この『Yandere Simulator』は『Hitman』を踏襲しながらも独自の進化を遂げている。代表的なのが、やたらと作りこまれたイベントの数々だ。
本作の舞台である学校に通うNPCたちは、朝登校してから放課後まで時間にあわせて独自の行動をとっている。しかもこのメカニズムは常に同じではない。たとえばYandereちゃんの愛するSenpaiは中庭で昼食をとることもあれば、幼馴染である「Osana-chan」とお弁当を交換することもある。NPCの生徒はそれぞれ自律的に行動を選択するので、まるで本当の学校ようだ。もちろん、こうしたNPCは特定の行動パターンを持ち合わせているだけでなく、Yandereちゃんとの友好度によって態度が変化したり、Yandereちゃんの衣服に血液が付着している と逃げ出したり、殺人現場に居合わせるとほかのNPCと協力して取り押さえようとしたりするなど、状況に応じた行動を選択する思考を持つ。乱暴に言えば、Bethesda作品のNPCのAIと『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のクロックタウンに住んでいるNPCのAIを組み合わせたようなものだと考えてもらえればいいだろう。
また、学校では常になんらかのイベントが発生している。屋上では友人に家庭事情を相談している女生徒もいるし、中庭では生徒同士の喧嘩が発生している。こうしたイベントに対してYandereちゃんが介入していくことができるのが本作の魅力だろう。Senpaiと仲が良い女生徒の自宅へもぐりこみ密室殺人をおこなったり、中庭で喧嘩している生徒を自宅で監禁して洗脳すれば手下にしたりすることもできる。ほかにも、オカルト部の部員を全員殺害して魔法陣の中へ放り込むとデーモンを召喚できるなど、ぶっ飛んだ内容のイベントも存在している。
刺殺や毒殺に加えて、溺死や焼死や転落死といった事故死、さらには精神攻撃による自殺への誘導など幅広い殺害手段が用意されている。仲睦まじげにお風呂に入りそのまま浴槽に沈めたり、電化製品のいじっているところに水を流し感電させたりといった手段も有効だ。多くのイベントが用意されており、さらにそのイベントをプレイヤーの望む形で完結させられる魅力は、まさに『Hitman』シリーズが持つものと同じだ。
こうした力の入った作りこみが目立つ一方で、『Yandere Simulator』がどのように完結するのか、まったく想像ができない一面もある。開発が50%に届いていないという状況を加味しなければいけないが、根本的にほかの生徒を殺す動機付けが「主人公がヤンデレだから」の一点突破であるし、自由度が高い分どのようにゲームが進行していくかまったく見えない。ほかのステルスゲームは多様なステージが用意されているのに対し『Yandere Simulator』のメインの舞台はあくまで学校の敷地内に限られているので、いずれ限界がくるだろう。つまり、興味深い「点」は多く用意されているが、「線」になる気配がないのだ。
「遊び場」さえあればいいという方向性
もしかすると、こうしたゲームデザインは意図的なのかもしれない。というのも、『Yandere Simulator』はユーザー主導のゲームとして進化を遂げてきているからだ。本作は、まだリリースされていないにもかかわらず、続々とModが作られている。キャラの外見を変化させるものから、既存のキャラのメカニズムを拡張するもの、イベントを発生させるもの、システム自体をいじってしまうものまで、いろいろなModが登場している。Wikiaのページに掲載されているModの一覧を見ても、充実のほどがわかるだろう。『Yandere Simulator』はベースとなるシステムが好評を博しており、そうしたベースを使ってModを導入し自分の好きな遊び方でプレイするユーザーも多い。ゲーム側ですべて用意するのではなく、ユーザーの遊び方に委ねるゲームとして進化しつつある。こうした点では、最初から「線」を目指さず「点」を楽しめればいいのではないか、という割り切りもありだろう。「遊び場」を提供し、ユーザー自身が遊び方を選ぶという、『Garry’s Mod』のようなゲームを目指すという選択肢もある。
そもそも『Yandere Simulator』は中心となるYandere devと、多くのボランティアスタッフによって開発されており、開発自体もユーザー主導ともいえる。Yandere devといえば、ユーザーから送られてくる質問メールに対する糾弾や、暴力的な表現により『Yandere Simulator』の配信を禁止し続けるTwitchに不満を爆発させるなど、“キレ芸”が特徴的な人物であるが、ユーザーの意見には常に耳を傾け続けている。
1年前にはKickstarterの開始やパブリッシングへの売り込みなど多くの選択肢を考慮していたYandere devは、最終的に募金とボランティアスタッフを募集し開発体制を強化することを選択した。ゲーム開発形態や内容も、一般的なゲーム開発と比較すると、独自の路線を突き進み続けているといえるだろう。リリース予定期日はまだまだ先となっているが、『Yandere Simulator』は着実に完成への道を歩みつつある。いちユーザーとしては期待と不安が入り混じるが、ブログやYouTubeチャンネルをチェックしつつ、その進化を見守りたい。