先日発売されたばかりのシリーズ最新作『BIOHAZARD 7 resident evil』(以下、バイオハザード7)の海賊版がすでに出回っている。同作は世界最強と名高いコピー防止技術「Denuvo Anti-Tamper」(以下、Denuvo)を搭載しているが、過去最短となる発売わずか5日で突破されたことになる。これまでにも「Denuvo」を導入したゲームタイトルが1か月ほどで破られた事例は複数報告されてきたが、初期セールスへ悪影響を及ぼしかねないケースは今回が初めて。すでに不正コピーのダウンロード件数は数万回を超えている。これまで破られるたびに堅固さを増す難攻不落の要塞として、パブリッシャーの販売計画を確実に守ってきた安全神話も、徐々に崩壊しつつあるのかもしれない。
「Denuvo」の存在意義が揺らいだ瞬間
「Denuvo」は、オーストリアに拠点を置くソフトウェア会社Denuvo Software Solutions GmbH(以下、Denuvo社)が開発した改ざん防止技術。ゲームソフトを特定のユーザーアカウントと紐付けることでコンテンツの無制限な利用を規制するデジタル著作権管理(通称DRM=Digital Rights Management)とは異なり、SteamやOriginといった既存のDRMプラットフォーム自体を保護するようデザインされている。デバッグ作業や逆行分析、実行ファイルの改ざんを防ぐことで、DRMをバイパスできないようさらに強固な守りを提供するのが目的だ。そのため、DRMを組み込まれていないゲームに対しては何ら意味をなさない。これまで発売日を待たずして違法コピーがインターネット上に蔓延するPCゲームの“割れ”事情に革命を起こした実績から、世界最強のコピーガードと賞賛されてきた。
もちろん、絶対に破られないプロテクトは理論上存在しない。「Denuvo」に関しても、その防壁は決して永久不変というわけではない。2014年に中国のクラッカー集団3DMに当時のバージョンを突破されたほか、これまでにも幾度となく海賊版の流通を許している。そもそもPCゲームにコピーガードを施す真の意義は、クラッカーたちに破られるまでの時間を可能な限り引き延ばすことにある。新作タイトルがクラッカーによってことごとく防壁を突破され、発売日を待たずして海賊版が出回ってしまえば、パブリッシャーにとって最も重要な初期の売り上げに少なからず影響を与えかねないからだ。逆に発売から半年以上が経過して、セールスの数字にほとんど変動が見られなくなったタイトルを死守し続ける意味はさほどないと言える。
特筆すべきは、「Denuvo」搭載のゲーム発売から海賊版が流通するまでのクラック期間が、近年急速に短縮されてきた事実だ。昨年8月、ブルガリアの“Voksi”が「Denuvo」をバイパスする形で、『Rise of the Tomb Raider』や『DOOM』、かつて3DMが大いに手を焼いた『Just Cause 3』へのアクセスに成功したことを皮切りに、クラッカー集団CONSPIR4CYにより完全に突破された。これにより発売から半年近く守られ続けてきたPC版『Rise of the Tomb Raider』の海賊版がついにインターネット上へ出回ることとなったが、発売から半年なら十分過ぎるほどに使命を全うしたと言える。しかし、数日後にクラックされた『INSIDE』は発売からわずか1か月ほど。ほかにも『DOOM』『Mirror’s Edge Catalyst』『Deus Ex: Mankind Divided』『Watch Dogs 2』など、「Denuvo」を搭載した昨年のトリプルA級タイトルは軒並み短期間で割られている。
そして『バイオハザード7』はわずか5日だ。そこには、以前『Just Cause 3』のコピーガードを突破できない実情から、2年後には世界から海賊版ゲームがなくなるかもしれないと3DMに言わしめた面影はもはや微塵もない。過去にも『Dragon Age: Inquisition』が発売から1か月でクラックされた事例はあったが、「Denuvo」が1週間以内の海賊版流通を許したのは前代未聞である。これまで「Denuvo」は破られるたびに厚さを増していく巨大な壁として、技術の抜け穴を見事に掻い潜ってきた歴戦の海賊団を確実に疲弊させてきた。決して絶対防御を約束しているわけではなく、難攻不落の要塞としてパブリッシャーの初期セールスを確実に守ってきた実績がある。その安全神話も徐々に崩壊しつつあるのかもしれない。実際の売上にどれだけの影響を与えるかは定かでないが、海賊版『バイオハザード7』のダウンロード件数はすでに数万回を超えている。
先日には『INSIDE』や『DOOM』、CrytekのVRゲーム『The Climb』から「Denuvo」が無効化される事例が相次いだことで、ゲーム発売から一定期間内に破られた場合は利用料金を請求しないといった保証制度の噂が、フォーラムサイトを中心にささやかれていた。後にDenuvo社が保証制度の存在を完全に否定。初期セールスを不正コピーから守りきった後や、DRMフリーでゲームを再リリースする際など、不要になった「Denuvo」を無効化するのはパブリッシャー側の判断に委ねられていると説明した。今回、発売から1週間足らずで不正コピーが出回ってしまった『バイオハザード7』では、初期販売計画の期間中に海賊版の流通を防ぐという「Denuvo」本来の役目は果たされたのだろうか。なお、コピーガードの導入に否定的な消費者の中には、「Denuvo」が搭載された商品は買わないと主張する動きもあることから、近いうちに『バイオハザード7』から「Denuvo」が無効化される可能性も否定できない。