道端で拾ったスマートフォンを操作して持ち主の行方を探る失踪ミステリー『A Normal Lost Phone』が1月27日にリリースされた。本作は2016年のGlobal Game Jamでプロトタイプが生まれた作品である。対象プラットフォームはPC/Mac/LinuxおよびAndroid/iOS。PC版はSteam/itch.ioにて購入可能。本稿執筆時点では日本語に対応していない。
『Replica』や『Sara is Missing』など、スマートフォンのインターフェイスを利用した「スマートフォン操作型」のゲームはひとつのジャンルとして確立されつつある。いずれのタイトルも持ち主のプライバシーを覗き込んで彼/彼女にまつわる謎を明かしていくことが目的となっており、『A Normal Lost Phone』もそのフォーマットに従っている。プレイヤーは道端で拾ったスマートフォンを操作し、チャットやメール履歴から情報を入手。持ち主の素性と行方を探るため、登録されている出会い系アプリや投稿フォーラムのパスワードを推理していく。
拾ったスマートフォンを起動すると「サム、どこにいったんだ」という父親からの新着チャットが届いている。どうやら持ち主の名前はサムのようだ。端末に表示されている日付によると、本日は2016年1月31日。サムにとっては18歳の誕生日である。フォトフォルダにはパーティ中に撮影された写真が残っているため、家族とともに祝ったのちに姿をくらませたとみえる。現時刻は午後10時。まだサムが端末を落としてから時間は経っておらず、遠くには行っていないはずだ。
サムの素性はチャットやメールの履歴を辿っていくうちに明らかになる。ハープを演奏する音楽学科の学生であり、少なくとも表向きには読書クラブとボードゲームクラブに所属している。両親との関係は良好のようで、クラブ活動の日には母親の手作りケーキをサムに持って行かせるほどだ。文体そして人間関係からも物優しい性格であることが窺える。
そのまま数週間前の履歴まで追っていくと、昨年末に恋人メリッサと別れたこと、数年にわたり音信不通であった従兄弟エリックから突如として結婚式の招待状が送られてきたことがわかる。また女友達のアリスを誰よりも信頼していることも鮮明になっていく。そのせいかメリッサはアリスに嫉妬していたようだ。こうした複数の交友関係を結び合わせていくうちに、サムがひとつの悩みを抱えていたことが明らかになり、物語の見方が大きく変わる瞬間が訪れる。
「スマートフォン操作型」のタイトルは、現実のスマートフォンと同等の仕様の中でゲームを設計している。この制約の中でいかに新鮮なゲーム性とストーリー・テリングを開拓していくのかが本ジャンルにおける注目ポイントとなる。その点、『A Normal Lost Phone』のゲームプレイ自体はテキストを読んでパズルを解くというオーソドックスなもの。
他作との差別化が図られているのは音楽の使い方であり、歌詞つきのBGMはスマートフォンの音楽アプリから流れているという設定になっている。その選曲から持ち主の人となりや好みが見えてくるというわけだ。またサムに対する理解が深まるにつれて音楽の歌詞も、本作における意味合いが明確になっていく。ある事実を知ることで音楽に意味が備わるという使い方は、本ジャンルにおいては新しい試みといえるだろう。
ビジュアルとしては『Sara is Missing』のような実写映像を取り入れたものでも、『Replica』のようなピクセル調でもない。ソフトでやさしいナラティブにマッチする手書きイラストとペイントが用いられている。世界観は近未来の監視社会でも超常現象の起こるホラーでもなく、我々が住む現実世界に沿っている。どこにでもある町で起きた、いつでも起こりうる青春物語。タイトル通り「Normal」な出来事が描かれるのだが、物語を進めるにつれて本作における「Normal」の意味を考えさせられる作りになっている。
スマートフォンのインターフェイスを用いる利点は、現実とフィクションの差を一時的にでも曖昧にしやすいことだろう。『A Normal Lost Phone』はその中でセンシティブなトピックを扱い、物語の中心に置くことで、よりプレイヤーの心に届くストーリー・テリングを試みている。ただセンシティブな題材ではあるが、その扱い方は丁寧でやさしさに溢れている。押し付けがましくならないよう、音楽から語り方までソフトに統一されたミステリーなのだ。