早期アクセスゲームを守る“忍者先生”になる?売上を開発進捗度に応じて支払う「Early Ninja」に人は集まるか

早期アクセス専用のゲームプラットフォーム「Early Ninja」のKickstarterキャンペーンが議論を呼んでいる。「Early Ninja」は、デベロッパーにゲームの売上を一括ではなく開発の進捗度に応じて支払うことで、開発スケジュールに従うインセンティブを与えるというもの。

早期アクセス専用のゲームプラットフォーム「Early Ninja」のKickstarterキャンペーンが議論を呼んでいる。「Early Ninja」は、デベロッパーにゲームの売上を一括ではなく開発の進捗度に応じて支払うことで、開発スケジュールに従うインセンティブを与えるというもの。「Early Ninja」はユーザからの売上金を管理し、たとえば予定通りにベータ版が完成すれば、デベロッパーへ支払う売上を先に決めたパーセンテージまで引き上げる。コンセプト段階から一向に進まない作品、ロードマップを無視して開発が停滞している作品には、いつまでたっても低い割合の売上金しかわたされないというわけだ。

また返金制度に関してもユニークな制度を取り入れており、返金請求には購入日から15日間以内であれば全額、その後は開発の進捗度に応じた割合のみ応じる。たとえば40%まで完成してたのに開発が停滞した作品を購入したのであれば、開発されたなかった60%分の返金を受けることができる。このほか開発中止というリスクを軽減するため、「Early Ninja」では担当者が厳選したポテンシャルの高いタイトルだけが採用されるという。この「Early Ninja」を利用する際のロイヤリティは、売上の15%となっている。

アルファ・ベータといった段階に応じて支払いが生じるという意味では、パブリッシャーとデベロッパーの関係にも似ている
アルファ・ベータといった段階に応じて支払いが生じるという意味では、パブリッシャーとデベロッパーの関係にも似ている

早期アクセスプログラムが持つメリット・デメリットは、すでに多くのユーザがご存知だろう。デベロッパー側は開発中のタイトルを通じて売り上げとフィードバックを得ることができ、ユーザは意欲的な作品を完成前に触れ、ゲームが完成していく様子をリアルタイムで追うことができる。一方で開発が停滞してしまう、さらには正式リリースまでこぎ着けないといったタイトルも少なくない。この問題を解決しようと試みているのが、「Early Ninja」である。とはいえ、このコンセプトに誰しもが賛同しているわけではないようだ。

 

「これでは改善はされない」との指摘も

『Thomas Was Alone』『Volume』の開発者Mike Bithell氏は、ブログ記事を公開して「Early Ninja」に対する考えを述べている。Bithell氏は「早期アクセス市場には問題が多い」という「Early Ninja」の考えには同意しつつも、「Early Ninja」によって早期アクセスゲームが改善することはないと主張した。クオリティの低いタイトルはそもそもPCゲームコミュニティのあいだで酷評され、被害者が増える前に放っておいても自然淘汰されていく。またデベロッパーとユーザの間に「Early Ninja」が入りプロジェクトにナイフを突きつけるという手法はユーザにカタルシスをもたらすが、ユーザに「ゲームを買うか、リスクを受け入れるか」を判断してもらう方が簡単だとも主張した。さらには開発資金を割合とはいえ差し止めることでデベロッパーが安定したキャッシュを得られない点を指さし、あと一ヶ月で好転するようなプロジェクトを中止に追い込む可能性があるのではないかとも指摘している。

Bithell氏は他にも、15%というプラットフォーム利用料に対する疑問も呈している。というのも、ほかの大手プラットフォームと同等のサービスを提供できるのか不明瞭なのだ。また「Sensei」と呼ばれるプロジェクト担当者はゲームパブリッシャーのプロデューサー兼コミュニティー・マネージャーとして機能するように読めるが、「Early Ninja」の現メンバーには業界経験者がおらず、プロデューサーとして経験豊富な人材を雇えるのかなど、さまざまな懸念を伝えている。Bithell氏の記事からは、プロジェクトチームを詐欺師のような悪い人たちとは思っていないものの、コンセプトや企画自体がおざなりであり、実現性がないので辞めた方がいいという助言の姿勢が見て取れる。このほか海外フォーラムのスレッドでも、批判的な意見が目立つ状況だ。

「Early Ninja」のサンプル画像。表示されているタイトルを取り扱うわけではなく、Bithell氏はこれらの資料は権利許諾を得たのかとも突っ込んでいる。この点については謝罪が行われている
「Early Ninja」のサンプル画像。表示されているタイトルを取り扱うわけではなく、Bithell氏はこれらの資料は権利許諾を得たのかとも突っ込んでいる。この点については謝罪が行われている。

Kickstarterキャンペーンを立ち上げたEarlyNinja Limitedは、Bithell氏の疑問に答える形でブログを更新している。プラットフォーム利用料が大手プラットフォームと比較して高すぎるという指摘に対しては、「そもそもSteamは競争相手ではない」と述べている。デベロッパーは「Early Ninja」独占タイトルとして契約する必要はなく、複数のプラットフォームを併用できる。あくまで収益の動線が増えるだけなので、デメリットはない。その上での15%は決して過大評価ではないという。また「Sensei」の役割については進捗管理が基本であり、プロデューサー業ではないとした。このほか「Early Ninja」は売上を身代金のように扱うわけではないとしたほか、現在は公開していない内部資料からさまざまな配慮があることもいくつかを開示し強調している。

「Early Ninja」のブログ記事を見てみると、彼らがマイルストーン式の支払いや「Sensei」でデベロッパーの開発進行を上手く管理することができるという根拠は薄く、早期アクセスタイトルを購入したユーザのリスク軽減をプラットフォームの存在意義とすることにやや傾倒しているようにもみえる。確かに「Early Ninja」のアイデアはユーザにメリットをもたらすだろう。だが「Early Ninja」がその目的を実現するには、実際にデベロッパーを集めて早期アクセスゲームをプラットフォーム上に展開しなければならず、開発者らが興味を示さないのであれば本末転倒である。開発スケジュールを守らせるために開発資金が限られたデベロッパーのキャッシュフローを絞るという手法は現実的なのだろうか。デベロッパーがどれだけスケジュールを守りたくても、資金がなければ開発は続けられない。デベロッパーが自ら足枷となるような契約条件を呑むかは疑問で、同プロジェクトの今後には懸念が残るところとなっている。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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