『スーパーマリオ』関連作品を“勝手に”制作してしまうユーザーら複数現わる。ファンゲームは「パッチ」に形を変える

この年末年始にかけて、横スクロール型の『スーパーマリオ』のファンゲームが複数リリースされているとの報告が海外で相次いでいる。これまでにも幾度となくファンゲームが生まれた事例を報じてきたが、今度はオリジナルに手を加えて関連作とも思えるタイトルを制作するユーザーらが出現している。

この年末年始にかけて、横スクロール型の『スーパーマリオ』のファンゲームが複数リリースされているとの報告が海外で相次いでいる。『スーパーマリオ』は、その知名度と人気からか、2D3D問わず頻繁にファンゲームの題材にされる傾向にあるシリーズである。これまでにも幾度となくファンゲームの事例を報じてきたが、今度はオリジナルに手を加えて関連作とも思えるタイトルを制作するユーザーらが出現している。

拡張版、あるいは続編

ひとつめの事例となるのが、スペイン在住のIván Delgado氏が制作した『Super Mario Land 2 DX』だ。同作はその名のとおり、1992年にゲームボーイ向けに発売された『Super Mario Land 2(スーパーマリオランド2 6つの金貨)』を拡張したものとなる。制作者が特に強調しているのは、白黒が特徴だったビジュアルをカラーに変えるという点。ゲームボーイカラー対応ソフトを遊んでいるかのように、色鮮やかな『スーパーマリオランド2 6つの金貨』を楽しめるというコンセプトとなっている。単に彩りを加えるだけでなく、物理演算や挙動の部分にも細かい調整を入れていることもあり、「DX」の冠がついているようだ。

そして年始に公開されたのが『Newer Super Mario Bros. DS』。2006年にニンテンドーDSで発売されメガヒットを記録した『New スーパーマリオブラザーズ DS』の続編を思わせるタイトルとなっている。オリジナル作品のビジュアルやエッセンスはそのままに、ハンマーマリオやトロッコのギミックなど数多くの新要素を追加したもの。80ステージもの新ステージを収録し、BGMもリファン・新規製作されている。同作を手がけたNewer Teamは、以前に『New スーパーマリオブラザーズ Wii』のベースにした『Newer Super Mario Bros. Wii』をリリースしており、こちらは3ステージであることを考える大幅にコンテンツの増量がなされている。

両作品ともにシリーズへの情熱が込められたものであることが垣間見えるが、問題となるのはその方法だ。どちらの作品ともにパッチをあてるという手法を選択している。『Super Mario Land 2 DX』はRomhacking.netからダウンロードし、『スーパーマリオランド2 6つの金貨』のROMに適用させる。『Newer Super Mario Bros. DS』においては公式サイトからパッチファイルをダウンロードして『New スーパーマリオブラザーズ DS』のROMに適用させる。ハックロムとも呼ばれる、元ファイルを間接的に改造することにより実現した作品だ。

『Newer Super Mario Bros. Wii』はパッチではなくソフトそのものを配布している。

ゲームにおける改造および改造ファイルの配布は、原則的にご法度されている。ゲームデータの改造においては、同一性保持に付随する問題が生まれる可能性があるという(弁護士ドットコム)。事例によって事情はやや異なるが、少なくとも合法と呼べる行為ではない。また言わずとも、あたかも任天堂が開発したかのようなそのタイトル、そしてIPの無断使用による著作権違反も問題のひとつだ。では、制作者はこうした行為をどのように思っているのだろうか。

パッチは未だ「範囲外」か

『Super Mario Land 2 DX』を制作したIván Delgado氏に話を聞いたところ、いずれかの法律の違反に抵触しているのではないかという点について「国によって異なっているように思う」と語る。自身のパッチ作成および配布が違法行為だとは認識していないようだ。任天堂キャラクターを無断使用しているという点で、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)にて公開停止処分を受けるリスクについて聞いてみると「パッチは基本的にデジタルミレニアム著作権法違反の対象にならない傾向にある」と語った。

氏の語る部分は一理あるだろう。というのも、これまで任天堂ファンゲームは多く公開停止処分を受けてきたものの、パッチを介したロムハックタイトルは配布型の作品に比べると厳しく処分されていない。2016年に『ポケットモンスター クリスタル』にパッチをあてるロムハック作品『Pokémon Prism』が公開停止処分を受けたものの、この事例はごく稀なのだという(Arstechnica)。作品を改造してロムファイルを配布するのは明確な著作権侵害として申告できるものの、既存のロムにパッチを当てる行為についてはまだあやふやな部分もあるようだ。

『スーパーマリオ』シリーズを改造した作品については、国内でもニコニコ動画などを中心に「改造マリオ」がコミュニティを賑わした。「改造マリオ」もまたIPSパッチを介してプレイすることが可能になる作品が多く、形は違うえど今回取り上げた作品と共通点があるといってもいい。ニコニコ動画では、2009年にはこうした作品の動画が削除され、その可否をめぐる議論が巻き起こった。最終的に任天堂が、ユーザーそれぞれが自分の好きな『スーパーマリオ』を作れるという『スーパーマリオメーカー』を発売したことにより、明確な答えが用意された形だ。

つまり、自分の「マリオ」を作りたいなら、『スーパーマリオメーカー』を使ってくださいというのが任天堂としての主張だろう。ただ、「マリオを作りたい」のみがファンゲームの動機ではないようだ。というのも、Delgado氏になぜ自分のゲームではなく『Super Mario Land 2 DX』を制作したのか、理由を聞いたところ「好きなゲームを改造することで自分のゲーム制作スキルの向上したかった」と語っている。『メトロイド2』の非公式リメイク『Another Metroid 2 Remake』を制作していたDoctorM64氏も同様の説明している(関連記事)。シリーズが好きだけでなく、自身のスキルもアップできるがゆえにファンゲームを開発しているようだ。任天堂としては『スーパーマリオメーカー』という答えを提示してもなお、こうした作品が出て来るのは歯がゆいところだ。

いずれにせよ、現時点では『Super Mario Land 2 DX』と『Newer Super Mario Bros. DS』は配信停止処分を受けていない。最近では『MOTHER 4』を代表に、任天堂ファンゲームを開発していたユーザーがリスクなどを考慮しそれらをベースとしたオリジナル作品を作る動きが目立っていた(関連記事)。しかしながら、やはりファンゲームを作りたいと情熱を燃やすユーザーは一定数存在し、彼らが非公式ゲームを制作する上では、いくらかリスクを回避できる「パッチ」という手法がメインストリームになってきているのかもしれない。

【UPDATE 2018/1/6 20:30】
侵害の事例における文章を一部修正しました。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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