『Until Dawn』PlayStation Moveを活用したPS3プロトタイプ版の映像が発掘される
Supermassive Gamesによるインタラクティブホラー『Until Dawn』は、当初PlayStation 3のPlayStation Move対応タイトルとして開発されていた。その2009年ごろのプロトタイプ版と思わしき映像がYouTubeにアップロードされている。Supermassive GamesまたはSIEからの正式ルートではなく、YouTubeチャンネル「PtoPOnline」にて公開されているものである。「PtoPOnline」はこれまでにもメジャータイトルのプロトタイプ版映像を掘り出してきたチャンネルであり、ゲーム保存活動の一環として動画をアップロードしているという。
『Until Dawn』は2015年8月にリリースされたPlayStation 4独占タイトルである。物語の設定は、雪山のコテージに集まった大学生たちが孤立してその身に災難が降りかかるという、ティーンホラー映画の定番である。スラッシャー物からモンスター物まで「B級ホラー映画」のオマージュを随所に散りばめており、その中でQuantic DreamsやTelltale GamesのようなQTEや会話の選択肢によって物語が分岐していくインタラクティブドラマが展開されていく。プレイヤーが選択した言動により学生たちの運命が変わる「バタフライエフェクト」システムを特徴としており、複数のキャラクターを3人称視点で操作することになる。2016年10月にはPlayStation VR向けのスピンオフタイトル『Until Dawn: Rush of Blood』も発売されている。
動画をアップロードした「PtoPOnline」によると、今回発見された映像はデモ版としての配信を想定して作られたビルドとのこと。3人称視点で操作するリリース版とは異なり、ゲームプレイ中は一人称視点で操作する。PlayStation Moveコントローラにより懐中電灯を動かし、またQTEシークエンスもコントローラを上下左右に振ることでこなしていく。映像から判断する限りだとリリース版よりもパズル要素が多い。プレイヤーは手がかりとなるアイテムを拾いながら恐る恐る屋内・屋外を探索していく。物語については分岐型ではなく、一本道であったようだ。名前、役回り、モデリングは異なるものの、サム、マイク、エミリー、マットといった主要キャラクターの原型はこの時点で存在している。
なぜ開発の途中になって1人称視点から3人称視点操作に切り替えたのかは気になるところである。Gamescom 2012で公開されたトレイラーの時点では、リリース版に近いカットシーンと、1人称視点と思わしきゲームプレイシーンが映っていた。そのため3人称視点に切り替わったのは2012年前後と考えられる。とはいえ、2009年ごろのビルドと推測されている今回のプロトタイプ版の時点ですでにエピソード形式の物語が採用されている。つまりドラマ風のストーリー・テリングをしたいという思惑は2009年ごろからあったことになる。
思うに1人称視点操作を採用していたのは、PlayStation Moveでのプレイにフィットするためだろう。1人称視点の強みはプレイヤーが特定のキャラクターに憑依し、キャラクター自身が味わう恐怖をそのままプレイヤー自身の恐怖として感じやすくする点だと筆者は考えている。だが本作には複数の操作キャラクターが存在し、短時間で入れ替わっていく。操作キャラクターが頻繁に変わる物語に主観操作は適していなかったのかもしれない。現にプロトタイプ映像では、操作キャラクターが変わったことをプレイヤーに知らせるためゲームを中断し、わざわざ「Player Swap」という画面を挿入している。また数分おきに3人称視点のカットシーンを挿入するにも関わらず、ゲームプレイに戻ると1人称視点に切り替わるというのもスマートではないように思える。
やはり『Until Dawn』のように1人のキャラクターからの視点ではなく、俯瞰的な視点から物語を語る場合、3人称視点の方が適していそうだ。開発の途中からPlayStation Move対応タイトルではなくなったことで1人称視点にこだわる必要がなくなり、よりドラマ風のストーリー・テリングに適した3人称視点の操作を取り入れたのかもしれない。もちろん、『Heavy Rain』やTelltale Games作品の登場も作風に影響しているだろう。
「PtoPOnline」がどのようにして今回の映像を入手したのかは定かでないが、このようにゲームの開発過程と試行錯誤の痕跡を見れる資料というのは貴重だ。ゲームのアーカイブ化というのは、リリースされたゲーム本体だけを保存すればよいという話ではない。そう考えさせてくれる。