世界最強と名高いコピー防止技術「Denuvo Anti-Tamper」(以下、Denuvo)が、Playdead ApSのパズルアドベンチャー『INSIDE』に続いて、Bethesda Softworksのファーストパーソン・シューター『DOOM』からも無効化されたと、海外フォーラムを中心に囁かれている。いずれもゲーム販売元および開発元からの公式声明は出されていないが、コピーガードを除外した背景にはDenuvo社の期間保証が関係しているとの情報がある。両作とも今年8月の段階でクラックされたと報じられていたことから、全く信憑性に欠ける仮説でもなさそうだ。
3か月以内に“割られ”たら代金は無料との噂
「Denuvo」は、オーストリアに拠点を置くソフトウェア会社Denuvo Software Solutions GmbH(以下、Denuvo社)が開発した改ざん防止技術。ゲームソフトを特定のユーザーアカウントと紐付けることでコンテンツの無制限な利用を規制するデジタル著作権管理(通称DRM=Digital Rights Management)とは異なり、Valve CorporationのSteamやElectronic ArtsのOriginといった、既存のDRMソリューションそのものを保護するようデザインされている。デバッグ作業や逆行分析、実行ファイルの改ざんを防ぐことで、DRMをバイパスできないようさらに強固な守りを提供するのが目的だ。そのため、DRMを組み込まれていないゲームに対しては何ら意味をなさない。
フォーラムサイトNeoGAFに寄せられた情報によると、PC版『DOOM』のユーザーが最新パッチを分析したところ、ゲーム内から「Denuvo」が無効化されていたという。ちなみに、パッチノートに無効化の事実や理由は一切記載されていない。先月には、PC版『INSIDE』からも「Denuvo」が取り除かれたことがパッチノートから判明し、DRMに否定的な多くのユーザーから賞賛の声が寄せられていた。その際も、ゲーム販売元や開発元からは除外の理由や声明は一切出されておらず、DRMフリーでゲームを販売するオンラインストアGOGでリリースされたことが関係しているのではないかという見方に留まっていた。
そもそもPCゲームにコピーガードを施す真の意義は、クラッカーたちに破られるまでの時間を可能な限り引き延ばすことにある。新作タイトルがクラッカーによってことごとく防壁を突破され、発売日を待たずして海賊版が出回ってしまえば、パブリッシャーにとって最も重要な初期の売り上げに少なからず影響を与えかねないからだ。逆に発売から半年以上が経過して、セールスの数字にほとんど変動が見られなくなったタイトルを死守し続ける意味はさほどないと言える。今回「Denuvo」が無効化された2件に関しても、『DOOM』が今年5月、『INSIDE』が今年7月といずれも半年近くが経過している。Denuvo社との契約内容や課金形態は定かではないが、もし継続的なコストが発生していたとしたら契約を終了してプロテクトを解除したとしても何ら不思議な判断ではない。
一方で、ゲーム企業が「Denuvo」を利用する際の保証制度についての噂が浮上している。先日、「Denuvo」を利用する大手ゲームスタジオ勤務のゲーム開発者を名乗るユーザーが、フォーラムサイトRedditにてDenuvo社の期間保証について言及した。同社には、もしゲーム発売から一定期間内にコピーガードが破られた場合、利用料金は一切不要という保証制度があるとのことで、リファンドの条件として「Denuvo」をゲーム内データから削除することが求められるという。なお、保証期間は通常3か月に設定されるようだ。『DOOM』も『INSIDE』も今年8月はじめの時点でクラックされたことが確認されており、返金ポリシーによる無効化説に全く信憑性がないというわけではなさそうだ。
海賊版の撲滅にはほど遠いクラッカー側の猛威
これまでの仮説が真実だったとして、次に気になるのは「Denuvo」の現状と永続性だ。相対費用の観点からトリプルA級タイトルをはじめ一部のゲームにしか導入されていないが、「Denuvo」には何よりも、発売日を待たずして違法コピーがインターネット上に蔓延するPCゲームの“割れ”事情に革命を起こしたという実績がある。今年はじめには、中国のクラッカー集団3DMがスクウェア・エニックスのアクションアドベンチャー『Just Cause 3』に施された「Denuvo」の防壁を突破できない実情から、2年後には世界から海賊版ゲームがなくなるかもしれないという不安感を露わにしたほどだ。なお、翌月には少なくとも1年間はシングルプレイヤーゲームの違法コピーに着手しないことを表明していた。
しかし、こうした実績とは裏腹に「Denuvo」の防壁は決して永久不変というわけではない。2014年12月に、改良される前のプロテクトを一度3DMに突破されたことがある。今年8月には、ブルガリアの“Voksi”が「Denuvo」をバイパスする形で、『Rise of the Tomb Raider』や『Doom』、3DMが大いに手を焼いた『Just Cause 3』へのアクセスに成功している。この時は『Doom』のSteam体験版を用いたループホールを利用する手口だった。いずれもDenuvo社の迅速な対応により穴は塞がれ、完全に突破されたとは言えない状況にあった。そんな中、難攻不落の要塞として存在感を示していた「Denuvo」は、クラッカー集団CONSPIR4CYにより同月中に突破され、発売から半年に渡り守られ続けてきたPC版『Rise of the Tomb Raider』の海賊版が、ついにインターネット上へ出回ることとなった。
ちなみに、『INSIDE』がCONSPIR4CYによってクラックされたのもこの頃である。その際、「Denuvo」の突破に挑み続けてきた“Voksi”は、CONSPIR4CYが「Denuvo」の脆弱性にどこまで迫れているかに言及していた。同グループが「Denuvo」を陥落させたのは明白であり、少なくとも現行バージョンを突破する方法は完全に把握しているだろうと言われていた。特筆すべきは、7月発売の『INSIDE』に実装されていたプロテクトが「Denuvo」の最新バージョンであったことに加えて、リリースからわずか1か月足らずで割られたという事実だ。『DOOM』に関してもタイミング的に発売から3か月以内にクラックされた可能性は否めない。つまり、Denuvo社による期間保証が本当なら、同社は相当の痛手を被ったことになる。また、『INSIDE』で最新のプロテクトを割られたスピードを考えると、今後も「Denuvo」を無効化するケースは十分起こり得る。
もちろん、これらはあくまでも噂に基づいた仮説であり、現状における「Denuvo」の信頼性や無効化の理由は定かではない。余談になるが、先日にはポーランドのゲーム開発スタジオFlying Wild Hogが、同社の新作『Shadow Warrior 2』をDRMフリーで発売した理由を明かし、堅固なプロテクトが逆に作品のクオリティを貶める要因になる可能性を指摘していた。Steamフォーラムにて、決して不正コピーを容認するわけではなく、今のところ消費者に害を及ぼさずに止める手立てがないことは事実であるとコメント。さらなる資金の投入により「Denuvo」を導入することで、正規ユーザーにとってのゲームクオリティを犠牲にしたくないと説明している。事実、メーカーが過剰なコピーガードを施す姿勢に難色を示すユーザーは少なくない。商品価値の追求が海賊版の防止に繋がるとは言えないが、逆に違法コピーの不在が本当にセールス増加へ繋がるかどうかについても、まだまだ議論の余地があることは間違いない。