知能を持ったトウモロコシと毒舌テディベアによる一人称コメディアドベンチャー『Maize』がシュール
おしゃべりなトウモロコシとロシア産の毒舌テディベアとの会話を楽しむ、一人称視点のトウモロコシアドベンチャー『Maize』が12月2日にリリースされた。対象プラットフォームはPC。Steam/GOG.com/Humble Storeにて購入できる。
本作については本誌でも何度か取り上げてきたが、これまで公開されてきたゲーム内容はあやふやで、開発元がFinish Line Gamesという無名のデベロッパーということもあり、期待と不安が入り混じっていた方もいるかもしれない。本稿では発売と共に明らかになったゲームの中身を紹介していく。
『Maize』は直訳すると「トウモロコシ」という意味だ。本作では2人の科学者が米国政府から送られてきたメモを読み間違え、トウモロコシに意識を宿す実験に成功してしまうという、コントのような力の抜けた物語が語られる。
ゲームプレイは、マップ上を探索しアイテムを使ってパズルを解いていくオーソドックスな一人称視点アドベンチャーゲームとなる。操作はWASDでの移動や走る、アイテムを拾う、インベントリーの選択という非常にシンプルなもの。キーのリバインドやマウス感度の調整はできないが、複雑な操作や急なカメラ移動が求められることはないので、プレイに大きな支障をきたすことはないだろう。
プレイヤーはさびれた穀物農園で目覚め、トウモロコシ畑の迷路を歩みながら周囲の探索を始める。農園主の家に飾られた絵画や写真には、笑顔の似合う恰幅のよい大男と、神経質そうな細身の男が写っている。どうやら彼らが例の科学者2人のようだ。農園には不釣り合いな研究者の銅像も建てられており、少なくとも片方はエゴの強い人間であることが窺える。
二人の名はボブとテッド。時代が時代ならコメディ映画の主人公コンビになれそうな名前だ。農園の地下に広がる研究施設には、彼らが残した付箋がそこら中に貼られており、どれもおバカな指示を出すボブに、しっかり者のテッドがツッコミを入れるという滑稽なやりとりになっている。
ユーモラスな言葉の応酬は研究者二人の間だけでなく、途中で仲間になるロシア産のぬいぐるみVladdyとプレイヤーとの間にも見られる。ロシア訛りの英語で話しかけてくるVladdyは「Stupid American」が口癖の毒舌テディベアであり、悪態をつきながらも、ちょこちょことプレイヤーの後をついてきてくれる可愛らしいやつだ。
ゲームのナレーションも変わっている。本作の滑稽さを、目標説明やアイテム説明文を通じて、これでもかとばかりに強調してくるのだ。そもそも本作は4時間前後の短いタイトルながら、全部で75個ものテキストアイテムが用意されている。だがそのほとんどが石ころ、ゴミ袋、水道管といったガラクタばかり。アイテム説明文も「この石は本当に石なのだろうか。石に見えるスポンジなのかもしれない」といった本筋とまったく関係のない内容が多い。見かねたテディベアが「なぜゴミばかり集めるんだ、バカなのか」と追い打ちをかけてくる始末だ。思えば、ストーリー重視のアドベンチャーゲームというのは、得てして膨大な量のテキストアイテムで溢れかえっている。『Maize』はそうしたジャンルの特性を、オーバーに表現することでからかっているのだろう。
本作における笑いへの取り組みはキャラクターやナレーションにとどまらない。ゲームプレイの中心となるパズルには入り組んだものはなく、プレイヤーの思考力を試すというよりは、パズルの内容自体で笑わせようとしている。RAMを拾ったのでPCの修理に使うのかと思いきや、キーボードの方に突き刺すといった具合だ(なにを言っているかわからないと思うが、なぜそうなるのかは本編でぜひ楽しんで欲しい)。とてもロジックが通っているとは思えないので、仮にパズルが複雑であれば不条理すぎて匙を投げてしまうだろうが、アイテムを使う場所はハイライトされる親切な仕様なので笑って済ませる。なおゲームの一番最初に手に入る「イングリッシュ・マフィン」の使い道については大いに悩んでいただきたい。
これまでゲームのコメディ要素に字数を費やしてきたが、一応プレイヤーには目的らしきものが存在している。まずプレイヤーが操る主人公の素性は不明であり、人間なのかすら定かではない。プレイヤーは「自分が何者なのか」を探ることが第一の目的となる。またトレイラー動画にも登場しているトウモロコシの女王は「Promised Island(約束の地)」に行きたがっている。彼女の願いを叶えることもプレイヤーの目的のひとつだ。
科学者二人のコントじみた付箋のやりとり、毒舌なテディベアと能天気なトウモロコシ、ユーモラスなナレーション。どこまでもあっけらかんとした笑いを届けてくれる本作は、それこそポップコーン片手にけらけらと笑える「PG12」指定のコメディ映画のような易しい作品だ。声優陣の演技も適度に力が抜けていてリラックスして聞いていられる。ただし日本語字幕に対応していない点と、一周目でほとんどのアイテムを揃えられるためリプレイ性が低い点は最後に提示しておこう。