00年代インターネット風ADV『餓史シャチの幸』Steam版が5月4日配信へ。奇妙な個人ホームページの深部に潜る

『餓史シャチの幸』は、架空の奇妙なホームページ「餓史シャチの幸」を探索する、00年代インターネット風の短編謎解きアドベンチャーゲームだ。本作でプレイヤーは、Gashikoなる人物が所有するWindows XP風のPCを操作することになる。

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第687回は、PC向けのアドベンチャーゲーム『餓史シャチの幸』を紹介する。本作は 3月からVectorでフリーゲームとして公開中であり、Steam版も5月4日から無料配信が予定されているようだ。Steamのストアページによると、日本語および英語に対応する。
 

 
『餓史シャチの幸』は、架空の奇妙なホームページ「餓史シャチの幸」を探索する、00年代インターネット風の短編謎解きアドベンチャーゲームだ。本作でプレイヤーは、Gashikoなる人物が所有するWindows XP風のPCを操作することになる。まずはPCを起動し、ユーザーGashikoとしてログイン。同人物はパスワードをかけていないため、あっさりログインに成功する。解像度XGAの画面には、青空の下に壮大な草原が広がっており、「Internet Xplorer」のショートカットアイコンだけがデスクトップ上に設置されている。同ブラウザを起動すると、ホームページ「餓史シャチの幸」が表示されるので、以降はブラウザを使ってホームページ内を閲覧していくのだ。
 

 
ホームページ「餓史シャチの幸」は、外見上00年代に作られた個人サイトだと思われる。管理者は不明。トップページでは水面のような画像と、赤と青の大文字で表現されたサイト名が異彩を放つ。辿れるページ数は多く、各ページ内には意味深やテキストや謎の画像が配置。ページのひとつ「るんるんシアター」内にはFlash風のアニメーションまで用意されており、奇妙な世界が描かれている。精力的にホームページの更新がおこなわれていたのだろう。

また、サイト内には、謎のオブジェクトが多数設置されており、クリックしているだけでは閲覧できない隠しページも存在する。ただし、ブラウザInternet Xplorerは、かつて標準的に使用されていたブラウザと比較しても機能が限定的で、隠しページ探しにあたりソースコードを見たり、TABキーでリンクを発見したりといった力技には対応していない。代わりに、Internet Xplorerには独自のスポイト機能が搭載されている。餓史シャチの幸にあるオブジェクトは、スポイト機能で取得可能。拾ってきたオブジェクトを特定の箇所で使用してイベントを発生させることで、謎の個人ホームページの深淵へと潜るわけだ。作中では設定は明白に語られず、いくつかヒントになりそうな要素を提示しつつも、考察の余地のある謎が用意されている。
 

 
2021年現在、インターネットは誰もが当たり前にアクセスする公共の場となった。大通りには多くの人間が行き交い、きらびやかなコンテンツと広告が壁面を埋め尽くす。誰かが何かを叫べば、同じ声を持つ誰かによって、情報はすぐさま世界中へと広がっていく。それが良いか悪いかはさておき、ここは確かに現実と繋がっていて、現在を生きる人間の息遣いが感じられる。しかし、2000年代のインターネットには、どこかに未知の何かが潜んでいるような、得体のしれない空気が残されていた。夜の学校や郊外の廃墟。明るく照らされた道を一歩外れると、不思議で、不気味で、荒削りで、ほんの少し怖い非日常的な世界が広がっていた。本作には、そうしたかつての薄暗いインターネットの空気が、色濃く感じられる。細部まで当時のテイストを採用しつつも、00年代風の架空ホームページ/ブラウザを巡るFLASHゲームの代表作『こ~こはど~この箱庭じゃ?』や『赤い部屋』などと比べると、どこか爽やかに仕上げられていることも本作の特徴だろう。
 

 
『餓史シャチの幸』Steam版は、5月4日に配信開始予定。また、本作はVectorにてフリーゲームとして公開されている。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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