高評価リメイク『ロマサガ2』『聖剣伝説3』を生み出した開発元xeen(ジーン)とは、どういう会社なのか?これまでは知名度なしだった理由、NTTグループになった理由、社長と開発責任者に訊いた

昨今にわかに注目を集めているデベロッパーがxeen(ジーン)だ。xeenは『聖剣3』リメイクおよび『リベサガ』を手がけたスタジオ。

関西のゲーム開発会社に、企業文化や特色などを訊く連載を、AUTOMATON日本語・英語版で開始する。第一回はxeen(ジーン)である。

大手ゲーム会社から発売されるゲームにおいて、実際に開発作業をおこなうデベロッパーの存在は不可欠だ。日本国内のみならず世界でも高い人気と知名度を誇るスタジオが増えてきている。しかしながら、脚光を浴びやすいのは一部で、そのほかのデベロッパーについてはユーザーに意識されにくく認知度が低いのが現状だろう。そんな中で昨今にわかに注目を集めているデベロッパーがxeen(ジーン)だ。

xeenは『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』※1(以下、聖剣3)および『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』※2(以下、リベサガ)を手がけたデベロッパーだ。原作の見下ろしドット絵から、三人称視点で3Dフルリメイクされた両作はいずれも高い評価を獲得。魅力的なキャラクターモデリングも特徴で、そうしたことから両作が同じデベロッパーで開発されていることに気付いたユーザーも多いだろう。

※1 『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』
2020年4月にスクウェア・エニックスより発売されたNintendo Switch™ / PlayStation®4 / Steam®/iOS/Android/Windows/Xbox Series X|S 向けソフト

※2 『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』
2024年10月にスクウェア・エニックスより発売されたNintendo Switch™ / PlayStation®5 / PlayStation®4 / Steam®向けソフト

そんなxeenが2024年4月よりNTTドコモグループの一員になったことが発表された。ゲームというイメージのないNTTグループの一員になるとは一体どういうことだろうか。

今回、xeen社長の里見陽祐氏と、『リベサガ』のディレクターを務めた開発トップの秋山惟行氏にインタビューをおこなう機会に恵まれた。会社の特徴や歴史、評価の高いフルリメイクが生まれた理由、そしてNTTグループに加入した背景や今後の展望などについて話を聞いた。

マルチデバイス・マルチジャンルをバグが少なく作れる会社

――簡単なキャリアも含めて自己紹介をお願いします。

里見陽祐(以下、里見)氏:
xeen代表取締役社長の里見と申します。1999年に当時のナムコに新卒で入社しました。8年間アミューメント施設で勤務しまして、その後バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)のPCオンラインゲームの部門に異動し、オンラインゲームのプロデューサーをつとめ、2009年開発運営会社バンダイナムコオンライン(今年4月にバンダイナムコエンターテインメントに統合)の立ち上げメンバーとなりました。2023年にNTTグループであるNTTコノキュー*に転職しました。そしてxeenのNTTグループへの加入を機に当社代表取締役社長に就任しております。

*NTTコノキューとは
2022年10月1日に設立されたNTTドコモの100 % 子会社です。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などXR技術を活用した受託開発・コンテンツ制作、XRデバイス販売などを通じて、幅広い業界のお客さまの業務DXを支援するとともに、生活を豊かにするサービスを提供いたします。

――もとからxeenにいたのではなくバンダイナムコでキャリアを積んでNTTグループに行って、そこからxeenに至ると。

里見氏:
以前からNTTグループだけでなく、KDDI、Softbankなどの通信会社はゲームプラットフォーマーの立場でゲーム会社と連携したり、キャラクターコラボレーションなどで協業することがありましたが、近年はゲーム以外のXR中心に様々な協業が増えてきています。NTTグループは通信キャリア事業だけでなく幅広い事業を展開していますので、ゲーム、エンタメ業界とwin-winな関係が幅広い分野で築けるのではないかと考え、NTTグループに転職しました。

秋山惟行(以下、秋山)氏:
xeen取締役の秋山です。僕は分かりやすいキャリアで、xeenに新卒でプログラマーとして入社しました。PSPや3DSなどの携帯機向けのゲーム開発、それからスマートフォン向けの開発を経てディレクターに転向しました。本当に開発一筋でやってきたという感じですね。

――今でこそリメイク請負人みたいなイメージですが、ゲーム会社としてのxeenさんの特徴ってなんでしょう。

里見氏:
外からxeenを見ていた私の印象だと、マルチデバイス・マルチジャンルを途中で投げ出さず確実に作りきれる力があって、バグも少ない会社ですね。業界の方にインタビューすると、本当にバグが少ないというワードが出てくるので、かなりの評判だと思っています。

――バグが少ないというのは品質管理の担当など関係なく。

里見氏:
関係なく、です。開発プロジェクトに品質を任せきりにせず、何か問題が起これば全社でカバーする。納品責任があるので当たり前かもしれませんが、それをしっかり確実にやるのはなかなか難しい。とにかくゲームづくりに真面目に取り組む姿勢をxeenに入って改めて感じました。

秋山氏:
手前味噌ですが、バグ以外では丁寧に物を作っているとは思っています。仕様や要件を満たせばOKではなく、コンテンツの面白さを突き詰めて考えるようにしています。少なくともそういう姿勢でやってきましたし、これからもそうです。また、社内の風土としては、僕自身が新人だった頃から、会社に何かを提案して「ダメ」と言われたことは一回もなかったです。今でも年齢や立場を問わず「ダメ」という姿勢で話したことは一度もなく、チャレンジを許容、推奨する環境ですね。

リメイクでxeenの名前が浸透してきた

――xeenさんが手がけた代表的なゲームを教えてください。

秋山氏:
2024年の『リベサガ』、2020年の『聖剣3』が分かりやすいですね。アーケードでは現在運営中の『機動戦士ガンダム アーセナルベース』。『ルイージマンション アーケード』や『頭文字D THE ARCADE』もご存知の方は多いのではないかなと思います。ゲームセンターには公開出来ないタイトルも含めるとxeenが作ったゲームが結構並んでいます。

里見氏:
弊社公式サイトのWORKSページにも色々掲載されています。PC/モバイル向けの『龍が如くONLINE』や、開発協力したタイトルとして『ペルソナ3 リロード』、『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』※3(以下、パラノマサイト)などもありますね。

※3 『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』
2023年3月にスクウェア・エニックスより発売されたNintendo Switch™/Steam®/iOS/Android向けソフト

――xeenさんは業界では長年知れ渡っていると思います。一方で、やはり最近特に浸透してきたという実感はありますか。

秋山氏:
「知れ渡っている」という認識は無かったですが、かつてより「知られて来た」と感じる事は多くなってきました。過去の話でいうと、会社が19年目ではありますが、受託メインなので名前はあまり世間には浸透していませんでした。とはいえアーケードゲームでは実績も多いので、アーケード業界の中では名前はある程度浸透していたと思います。ただ、一般のユーザーの方はアーケードの、しかもデベロッパーとなると絶対知らないかと。

――最近、ロゴを見る機会が増えました。

秋山氏:
メーカーさんのロゴの後に出させて頂いているのは、最近ですと『聖剣3』、『リベサガ』、『パラノマサイト』の3つですね。スクウェア・エニックス(以下、スクエニ)さんからロゴを出す許可をいただいているのですが、ロゴを出させていただき、そのタイトルや、メーカーさん、遊んでくださるプレイヤーの皆さんに対する責任を持って開発を行っています。、企業の宣伝というよりは我々の覚悟。看板を出していいものを作るぞ、というふんどしを締め直す意味合いですね。

見かけたかもしれない、ロゴ

『聖剣3』があったからこその反響と現代風のテンポ感

――今名前が広がりつつあるということですね。『聖剣3』でも反響はあったとは思いますが、『リベサガ』の方が大きい印象です。

秋山氏:
ありがたい事に、『リベサガ』で大きな反響をいただきました。

それは単純に2安打目だったからだと思います。『聖剣3』もすごく評判よく楽しんでいただいたんですけど、良リメイクとしてフォーカスされつつ、どこが作ったのかという流れにはあまりなっていなかった。2つ目として『リベサガ』が出てきた時に、同じ会社がデベロッパーだ、というフォーカスをいただけたので、反響としては当然『リベサガ』の方が大きい。ですが、1つ目の『聖剣3』があったことによって起きたことだと思っています。

――たしかに1つだけだと偶然なのかなと思いますが、2つ目を同じ感覚で出せたら開発チームの自力だろうと。

里見氏:
リメイクに際しては、テンポが速くなったのもあると思います。昔のゲームはプレイするのにいろんな手間暇があって、それが良さでもあるが、テンポを損ねる側面もあった。今は多くのゲームがストレスなくスムーズに進むような設計になっている。このテンポの落としどころは開発チームがこだわったところだと思います。『リベサガ』は原作の良さであるちょっとした手間も残しながら、現代のゲームとしてのテンポの良さを作り上げたことは評価いただけたポイントの一つだと思います。

秋山氏:
最初にテンポにこだわられたのは『聖剣3』に続き『リベサガ』でもプロデューサーを務められている田付さん(スクエニ)なんですよ。我々は最初はテンポにはそこまでフォーカスしてなかったんですけど、テンポを良くしてみるとすごく遊びやすく、戦闘が苦にならなくなったんですね。とはいえ、テンポの速い今風のゲームになったことによって失われるものも出てくる。テンポを速くしつつも原作の奥深さや、楽しさ、体験を残すことが、我々がすごくこだわったところで、貢献できたところでもあります。

里見氏:
昔のゲームは何週もすることがありましたが、今は大量のゲームがリリースされることもあってクリアしない、できないことも多くなってます。でも『リベサガ』では周回してくれるユーザーが多い。それはテンポのストレスがないことと、原作にあった何回でも遊べるという本質が組み合わさった結果だと思っていて、いい着地だったかなと思います。

――たしかに『リベサガ』は全体的に重みもありつつ速さもありますね。

秋山氏:
おっしゃる通りです。原作の『ロマサガ2』のバトル自体はすごく難しくて、重厚感がある。それがリメイクによって、テンポが速くカジュアルになることによって重さが消えてしまうと、原作のファンの方からは「こんなのロマサガじゃねえ」ってなっちゃうんですよ。歯応えをいかに損なわずに『ロマサガ2感』を残すのかはかなり気を配った点でした。

――スクエニさんとの連携がうまくいったと。

秋山氏:
はい、それについては、スクエニさん(田付プロデューサー)の英断に助けられました。ユーザーからはこういうのでいいんだよ、いい意味で変わってないと言っていただけているんですが、実は変えたところはめちゃくちゃあるんです。我々が頑張ったのは、「“変えた”けど、に“変わった”ように感じない」という部分ですね。そのあたりは現代のゲームに合わない部分は原作要素であってもオミットする、逆に芯の部分はきちんと残すなど、いい意味でメーカーっぽくない判断をしていただけたのは非常にありがたかったです。

それもあって、『リベサガ』は、我々もスクエニさんも頑張りに頑張って、「僕らはおもしろいと思えるところまで作ったけど、もう味見しすぎてわからない」という状態でした(笑)それぐらい開発のみんなやスクエニさんと、ああでもないこうでもないとポジティブに開発したので、いろいろと課題は見えつつも、やれるだけやりきった感覚はありましたので、ユーザーの皆さんから反響をいただけてホッとしました。

xeenファンと会社のカラーが形成されてきた

――『聖剣3』や『リベサガ』のような分かりやすい実績が増えたことによって何か変化はありましたか。

秋山氏:
交流会や、カンファレンスなどで名刺交換してると、あっxeenさんって言われることが増えました。僕はxeenが無名だった頃からいるのでより強く感じますね(笑)。

里見氏:
リアクション変わってきたなっていうのは、ありがたいことに感じています。それと特に中途採用の応募量や質は大きく変わってきました。中途採用だと『聖剣3』や『ロマサガ2』を当時遊んでいた世代だったりするので。

――あのゲームのリメイクを作らせてくれ、とくるわけですね。xeenさんはリメイク屋ではないですが、そういう人がくるのはありですか?

秋山氏:
全然ありだと思っています。デベロッパーですので、完全新規タイトルを開発する機会は多くありませんが、新規タイトルの楽しさ、難しさと同様に、リメイクの楽しさや難しさも学ぶことが出来ました。

また、リメイクならではの経験としては、我々が原作をどう解釈し、どう落とし込んだのかや、原作の物量をどう実装していったのかについて、スクエニさんにすごく楽しんでもらえた点です。これはリメイクでしか味わえないプロセスだと思います。新規タイトルとリメイクのどちらにも良さや難しさがあるので、xeenではどちらもやっていきたいと思っています。

――「xeenファン」みたいな人もでてきているのでは。

秋山氏:
いやーーーどうなのかな。

里見氏:
「xeen」でエゴサしてるからわかるけど……ファン、いる。完全にいる。

一同:
エゴサ(笑)

――ファンができるとなると「ファンが求めるxeen観」も生まれるわけで。xeenさんの守備範囲は広いので、そこに相反しないか怖いですよね。「xeenっぽくない」「こんなの作ってほしくない」と言われる日が来てしまうかもしれない。

里見氏:
マルチデバイス・マルチジャンルでやってきたので、xeenの特徴的なカラーって今まであまりなかった。そして『聖剣3』あたりからRPGを作る会社というイメージができ始めている。

秋山氏:
僕が就職活動をしていた当時のxeenの会社説明会で、xeenには決まったカラーがないからこれから作らなきゃいけないという話があったんですよ。アーケード(レース)のカラーはこれまでもあったんですが、当然一般の方にまで届くカラーではありませんでした。それから10年以上経ってやっと一般の方にも知ってもらえる新たなカラーが出てきました。

――でもいろんなゲームが作れることが強みであるならば、“カラー”が出て動きにくくなる側面はないですか。

秋山氏:
何かに偏るのはどうかなとは思いつつ、我々がやってきたことの結果としてRPGというカラーが出たのであれば、それは正しいプロセスなのかなと思います。とはいえ、カラーが足枷にならないように注意しないといけないですね。

『聖剣3』と『リベサガ』は突然変異ではなく基礎の賜物

――xeenの強みはなんだと思いますか。

秋山氏:
どの会社にも言える事ですが、やはり我々がアーケードを含めた、過去の開発で培った技術とノウハウの積み重ねだと思います。たとえば『聖剣3』の開発現場では見直すべきことや課題が山ほどあってすごく大変だったんです。でもそのおかげでフレームワークだったり環境だったりをさらに積み上げていけた。当然『リベサガ』開発にも改善点はありますが、そうした積み重ねを活かして、今後どうブラッシュアップしていくのかがこれからの新たな課題ですね。

それと、アーケードはゲームプレイをしていない人が、パッとプレイ画面を見た際に興味をもてるか、理解できるか、やりたいと思えるか、がすごく大事なんですね。そういったノウハウというか感性はコンシューマー向けゲームでも、見た時にどう思うかという風にナチュラルに気にしています。

――これまでのアーケード開発の中で基本的な体力が培われていたと。

秋山氏:
スポーツと同じですよね。基礎の上でしか技術は伴わないので。

――突然変異的に見えるかもしれないけどそうじゃないと。

秋山氏:
今はスマートに開発しているという様な、そういういい見方をされてるかもしれないんですけど、僕としては不器用に、泥臭く、地べたをはいずり、頭をぶつけながらやって来ている認識なので、華やかにトントンときた感じではないです。会社を人で例えると天才肌ではなく、牛歩で一歩ずつ地道に積み上げてきた感覚ですね。

――マルチデバイス・マルチジャンルもできますしね。

里見氏:
マルチジャンルができる理由は、社員みんなゲームが大好きなんですよ。多彩なゲームの理解がないとマルチジャンルの開発なんかできるわけがない。開発現場ではいろんなゲームを遊びながら、良いところやこのジャンルはこうあるべき、という最新を捉えるようにしている。真面目でみんなゲーム好きという根本があると思っています。

NTTグループに入ったのは市場環境がゲームテックを求めていたから

――xeenさんの会社規模は現在どれくらいですか。

秋山氏:
正社員で268人、常駐いただいている協力会社さんもカウントするとだいたい370人くらい。今も続々と増えてるので年内で400人ぐらいになるかもしれません。新しくオフィスも借りて拡大中です。

――結構なスケールですね。そもそもなぜNTTグループになったんですか?

里見氏:
土木建築や自動車のデザイン、設計、シミュレーションなど、さまざまな業界でUnreal EngineやUnity などのゲームテックが使われるようになってきた。そしてNTTグループは法人の窓口が非常に多くて、いろんな企業から3Dアプリケーション、ソリューションのご相談や、そもそもゲームエンジン使えなくて困っているという相談があるわけです。日本に限らず世界的にもゲームテックの活用や需要は高まっています。

ゲームエンジンを使えたり、開発を頼めるところとなると、やはりゲーム会社が目に留まります。xeenの親会社はNTTグループのXR事業を担うNTTコノキューという会社です。様々な企業のXR事業を支援する中でゲームテックは必要なケイパビリティだと考えました。その流れでゲームデベロッパーを子会社に迎え入れる検討が始まった、という背景ですね。

――なるほど、ゲームエンジンやゲーム自体の進化によってゲーム会社自体の需要が高まったと。

里見氏:
そうです。非ゲーム事業をやるゲーム会社もありますよね。逆に言うとマーケットが、ゲーム会社の非ゲーム事業展開を求め始めていた。そういう市場環境だと思います。

――それでxeenに目を付けたと。

里見氏:
xeenがデバイスやジャンルを絞り込まず、取引先も多彩で、非ゲームのXR事業についても部門をつくり拡大を目指していたタイミングだったことが大きかったです。私はゲームテックを様々な業界で活用できるようにしたい、将来NTTグループの次世代通信技術をゲーム業界に還元できるとゲーム業界はもっと発展すると考えNTTグループに入りました。xeenはその思いを実現するような、マルチデバイスの開発技術やノウハウを持っていたので出口が広い。とはいえ、NTTグループの中でxeenって名前は誰も知らなくて。やっぱり最初は大手ゲームパブリッシャーの名前が挙がるんです。

――ええっ。

里見氏:
なので、デベロッパーについて理解いただいて、次はデベロッパーの中でいろんな企業の課題を解決できる会社はどこだと問われます。マルチデバイスの開発ができて、Unreal EngineやUnityなどのゲームエンジンもバランスよく使える、職種の配置もバランスがいい、ということでxeenにお声掛けしたという経緯です。

――NTTグループとして、前例がないですよね。

里見氏:
NTTグループとしてあまり例のない取り組みです。です。ドキドキです(笑)。

――秋山さんは長らくxeenにいました。NTTグループ入りすると聞いてどう思いましたか。

秋山氏:
これからどうなるんだろうと。いわゆる企業買収ってポジティブなイメージがあまりない。ネガティブでもないけどよく分からない。そもそも我々は泥臭くやってきた会社なので「なんで?わざわざxeenを買う?」と。

一同:
(笑)

――たしかに実績はありますが、相手は巨人NTTですもんね。xeenのほかのスタッフも同じような反応ですか?

秋山氏:
周りの反応もだいたいそうでしたし、みんな漠然と不安な感じだったと思います。例えば、もっとがんじがらめにされるとか、あるいは部署をバラバラにされるとか、NTTグループの仕事ばっかりになってゲーム会社じゃなくなるんじゃないかという不安が大きかったですね。

NTTグループに入ってもこれまで通りゲーム開発は続けていく

――NTTグループ入りしたことで、ゲーム以外の仕事が増えたのでしょうか。

里見氏:
ゲームばっかりやってます。

――え?

秋山氏:
最初に言われたのが、「今まで通りのゲーム開発をしっかり続けてください」だったんです。まあ嘘だと思ってましたけど。

一同:
(笑)

里見氏:
実際にゲームばっかり作ってます。

――NTTグループとしては大丈夫なんですか。

里見氏:
大丈夫です。NTTグループはいろんな業界に対して支援活動をしている企業体です。日本一、ひょっとしたら世界一かもしれないくらい企業とつながっている。ゲームテックを活かせるビジネスを模索できる側面もありますが、成長しているゲーム業界にNTTグループの次世代技術を応用できるんじゃないか、というのが思い描いた未来です。

NTTグループの新しい通信技術やAI技術などを開発手法に取り入れながらゲーム業界へ広めていく。その役割としてxeenが表に立ちますので、ゲーム開発を続けないと広がらないんですよ。

秋山氏:
我々がNTTグループの中でノウハウを活かすためにも、ゲーム開発は続けて欲しい。。ゲーム開発をやらなくなると取り残されてしまう。それでは意味がない。これも最初に言われましたね。

――秋山さんは、変化は感じますか。

秋山氏:
xeenという会社を尊重してもらっているなと感じます。いい意味で、「NTTグループに入った」という感覚は少ないです。逆に良くなった側面の方が多いくらいでコーポレート機能だったり、いろんなところがスムーズになって、会社組織として綺麗になっていっています。これまで手が回らなかった開発以外の部分は、風通しも良くなり、本当にすごくやりやすくなりました。

里見氏:
社員を支えるのはNTTグループの強みでもあります。実際にNTTドコモから出向でコーポレートにも来てもらっています。福利構成や社員を支える制度を最適化している感じですね。ゲーム会社はアイデンティティが大事なので、xeenは成長はしても本質は変わっちゃいけないんです。我々としては、安心してクリエイティブ活動をしてもらえるようなサポートをしていくというのが基本的な考え方です。

R&Dができる唯一無二のデベロッパーへ

――元々のゲーム開発ラインがあって、プラスアルファで新しいこともやっていると。

秋山氏:
NTTコノキューのおかげで新しい技術に触れる機会は圧倒的に増えました。VRコンテンツやARグラス(MiRZA)デバイスのアプリケーションを開発したりもしてます。

里見氏:
ゲーム作りにおいては、技術探求心をもってR&D(Research and Development、研究開発)を回していくことが重要で、新しい技術から生まれる発想やゲームが絶対にあります。ですが、日本のゲーム業界では新技術や新デバイスなどのR&Dを徐々にやらなくなりました。

――基本的にR&Dやれるのは、企業体力のある大手だけですもんね。

里見氏:
本当に超大手だけですし、大手でも満足なR&Dができているかというと難しい現状があります。でも日本で最もR&Dに力を入れているのはNTTグループだと思います。ゲーム業界のR&Dとは毛色が違いますが、さっきのFEEL TECHみたいなR&Dもやっているんですよ。こういうR&Dがクリエイターを育てる環境にも適していると思います。

――R&Dできるデベロッパー、いいですね。

秋山氏:
本当にそうですね。今のところ良かったことしかないですね。

里見氏:
そう言っていただけると嬉しいです。

秋山氏:
(NTTグループに入った後もゲーム開発を続けられるという話は)嘘じゃなかった。

一同:
(笑)

里見氏:
1年経っても嘘じゃなかったでしょ(笑)

秋山氏:
でも3年後に化けの皮はがれるかもしれない……。

一同:
(笑)

――唯一無二のxeenしかできないことがあるのは尊重されそうですね。

里見氏:
そうですね。珍しいからNTTグループにとってもいい刺激になっていると思います。

実際にNTTドコモの社長や役員陣がxeenの開発現場を見に来られました。そして開発現場を見られると、ユーザーに感動を与えるもの作りの現場ってこういうことだよなと、皆さん口を揃えておっしゃいます。xeenを迎え入れて本当に良かったと言っていただけています。

xeenの新作はボードゲーム?

――今後のお話として、受託のゲーム開発は続けてxeenの新作も出てくると。

秋山氏:
そうですね。もちろんゲーム開発はメイン事業として続けていきます。

里見氏:
取引先のメーカーさんからもNTTグループ入りしてゲーム作らなくなるのかな、という声がありました。説明にうかがってゲーム開発続けます、お約束しますということを伝えると、その返しで渋い会社を子会社化したねと(笑)

――間違いない(笑)

里見氏:
大手のゲーム会社さんとは長い付き合いもあるので、いい会社だから大事にしてくれとも言われました。それがxeenとして19年間積み上げてきた信頼とか偉業だと思います。これを壊さずに良好な関係を続けさせていただきながら、NTTグループとしてもチャンスがあれば一緒にいろんなことをやっていきたいですね。

――ちなみに開発ラインは空いてますか?

里見氏:
おかげさまで忙しくさせていただいておりますが、開発ラインは増やしていますので、お仕事のご相談はいつでも歓迎です。今のゲーム業界のデベロッパーは苦しい状況なので、お声がけいただけるのは本当にありがたいです。とはいえ、この幸せがいつまで続くか分からないので、全社員緊張感持って仕事をしています。

――自社パブリッシングゲームなどは開発しないのでしょうか。

里見氏:
新しいこともやらなきゃいけないので若手クリエイターにはアナログでボードゲームを企画してもらっています。デジタルなゲームは短期間で繰り返し作れない。紙ベースだと余力でやれるし、自分たちでペースコントロールもできるし、職種も問わない。そしてゲームの本質を学べる。

――たしかにアナログゲームはアセットやコーディングも不要ですね。

里見氏:
紙とサイコロですね。こういった工夫はゲームの企画教育においてすごく重要なことで、xeenらしさを守る手法として有効だなと思っています。

秋山氏:
原始的な遊びに立ち返ることをフォーカスしたいというのがあって、しっかり取り組みとしてやっていきたいなと。

里見氏:
ゲーム業界はもう一度、ゲームの本質を見つめ直さなきゃいけないと思っています。ハリウッド映画みたいなゲームも魅力的ですが、ゲーム性やルール、ゲームジャンルそのものを生み出すのが日本のゲーム会社の本質だった。これを作れる会社でありたいです。

映画みたいなゲームは作りたいですし、無尽蔵の予算があればいいんですけど、特に若手のクリエイターにはゲーム性やルール作りが日本のゲーム会社の強さだと教えてあげたいなと。それが作れる素養がある会社なので、原始的で繰り返し遊んでも楽しめるコンテンツを作りなさいと言い続けています。それさえ続ければ絶対外さない会社になると思います。

――「外さない会社になる」。開発トップの秋山さんの責任重大ですね。

秋山氏:
そもそもこの業界の人は、みんな面白いものを作りたいと思ってるんですよね。これが最近、他から見ると割と珍しい業界なんだと思うようになりました。みんなが絶対に面白いものを作ってやるという意思がある。外す外さないは分からないけど。

里見氏:
外さないというか、自分たちで納得したものを作ろうという。

秋山氏:
少なくとも面白いものを作ることに、最大限アプローチをするというのは、これからも変わらず続けていきます。

――今後も楽しみにしております。ありがとうございました。

[執筆・編集:Haruki Maeda]
[聞き手・編集・撮影:Ayuo Kawase]

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