100万本ヒットADV『飢えた子羊』Nintendo Switch版、販売再開。開発者に“配信停止+配信再開”の経緯を訊いた。CEROを頑張ってとったらしい
『飢えた子羊』Nintendo Switch版開発者に、“配信停止+配信再開”の経緯を訊いた。

2P Gamesは6月5日、『飢えた子羊』Nintendo Switch版の配信を再開した。本作は今年3月にSwitch向けにリリースされたものの、一時ストアから取り下げられていた。
『飢えた子羊』は、明朝末期の中国をモチーフにした世界を舞台にするビジュアルノベルゲームだ。本作の世界では深刻な飢饉によって社会は混乱し、王朝も崩壊の危機に瀕している。そんな中、盗賊である主人公は人買い業者からの依頼を受け、4人の少女を華州城から洛陽城まで護送する任務に就く。しかしその道中で1人の少女が、買い手は人食いの豚妖であると明かし、彼女がここにいる目的は豚妖を討つことだと打ち明けたことで、物語は大きく動き出す。
本作はPC(Steam)でリリースされ、その後Nintendo Switchでもリリース。日本語吹き替えなども実装され、売上は100万本を突破するなど、絶好調模様。一方でNintendo Switch版は発売後すぐ発売停止となった。そして今回はれて販売再開されている。何があったのか。経緯を訊いた。
――自己紹介をお願いします。
嵇零:
初めまして。Zerocreation Gameの嵇零(Jī Líng)と申します。私は5年前にZerocreation Gameスタジオを設立し、現在はプロデューサー兼メイン脚本を担当しています。代表作には、『葬花·暗黑桃花源』と『飢えた子羊』があります。
私のキャリアは少し複雑で、これまでさまざまな業界を経験してきました。中学卒業後すぐに、私は契約小説家として活動を始めました。高校時代には漫画の脚本を担当し、30作の作品を手掛けた漫画スタジオを率いていました。
大学では、短編映画の監督としてホラー映画をいくつか製作し、小規模な映画祭でいくつかノミネートされたこともあります。その後映画と漫画制作に専念するために、大学を中退しました。
しかし、ちょうどそのタイミングで新型コロナウイルスが流行したせいで、映画製作はしばらく制限されてしまい、仕方なく試しでゲーム制作を始めることになりました。現在、つまりゲーム業界に飛び込んでから5年経った今、私はゲーム制作こそ自分が本当にやりたいことだと確信しています。——最高のゲームを作ることが私のしたいことです。
――餓えた子羊について紹介いただけますか。
嵇零:
『餓えた子羊』のストーリーを語るには、まず「饿殍(餓死者)」という言葉について話す必要があります。

中国の歴史書にはこういう言葉があります。「岁大饥,人相食(歳は大飢饉、人が人を食らう)」。これは当時飢饉が発生し、人々が共食いを始めたことを示す言葉です。この描写がとても印象的で、明朝末期の歴史書を読み漁るうちに、主人公の「穂」のイメージがどんどん形作られていきました。
本作は、明朝末期を時代背景とすることで、大飢饉に苦しむ人々の様子が描かれています。
そして物語全体は、「穂」という強く聡明で優しい少女を描くために構成されています。プレイヤーには盗賊「良」として、大飢饉が起こっている地域を抜ける女の子4人を護送してもらいます。旅の途中、口のきけない穂が突如任務の「真相」を明かします。これは「少女たちを運ぶ任務」なのか、それとも「少女たちを救う任務」なのか?彼女の言葉を信じるのか、それとも疑うのか?すべてはプレイヤーの選択に委ねられている。ゲームには27万字のテキストと9つの異なるエンディングが用意されており、乱世での人間の葛藤と救済を描いています。
「以史为鉴,可以知兴替(歴史を鑑とせば、興亡の理を知る)」という言葉があるように、我々はいつも歴史から教訓を学び、数々の苦難に満ちた物語を心に深く刻み込んできました。恐らくこれが『餓えた子羊』がたくさんのプレイヤーに愛された理由の一つだと思います。私は「饿殍(餓死者)」というテーマを通して、「餓死者を二度と再び出さない」を目指して尽力した人々へのリスペクトを込めたゲームです。
――作品のコンセプトが伝わってきますね。Switch版の再販おめでとうございます。販売停止の件について、いったい何があったのでしょうか?何が原因だった?
嵇零:
無事Nintendo Switchで販売を再開できてとても嬉しいです。突然販売停止になった原因についてですが、ゲーム内の一部の表現がプラットフォームのレーティング基準を超えているとされたためです。パブリッシャーの協力を得て、我々は即座に調整を行い、再審査のうえで無事再配信に至りました。
――販売停止された際、やはり慌てましたか。
嵇零:
正直申し上げると、販売停止の知らせを受けると誰でもショックを受けると思います。でも我々は似たようなことをたくさん経験しましたので、動揺は本当に少しの間だけでした。その後我々は即座に現実を受け入れて、すぐに行動を開始することができました。
実は、一番販売数の多いSteamにおいてでも審査に落ちるのではないかと心配したこともありました。中国国内のプラットフォームでも、通報によって再審査を受けたり、販売停止と再開を経験したことがあります。
我々はよくこういう状況に直面しますが、毎度無事解決できてよかったです。ダークな雰囲気や、議論を呼ぶ可能性がある面白いゲームを作るなら、こういった事態は避けて通れない道だと思っています。
――どのようにして再販にこぎつけたのでしょうか?
嵇零:
我々は資料を再提出し、再審査を通過しました。プラットフォームの販売規則も完全に順守しましたので、販売再開に至りました。
補足:
なお本作はCEROレーティングDである

――再販に際した今の心境はいかがでしょうか。Switch版の展開にどのような期待をしていますか。
嵇零:
我々としてはすごく嬉しいです。本作がSwitchでもっとたくさんのプレイヤーに愛されることを期待しています!Switchはとても素晴らしいプラットフォームですし、我々としてもこのプラットフォームを通して海外市場ももっと開拓していく必要があると考えています!私自身もSwitchプレイヤーとして、まもなく発売されるSwitch 2で本作をプレイできることをとても楽しみにしています!
――国外からCEROを取得するのはかなり大変ですよね。なぜ頑張ったのでしょうか。
嵇零:
2P Gamesというとても頼もしい海外パブリッシャーの協力を得て、我々は色んな困難を乗り越える自信を持つことができました。
また、我々は『飢えた子羊』が家庭用ゲーム機プラットフォームで発売されることで、海外でより高い影響力を持ち、よりたくさんのプレイヤーに我々のゲームを知ってもらいたいです。Switchは家庭用ゲーム機プラットフォームへの第一歩ですので、このプラットフォームで発売する機会を逃したくなかったのです。

――昨年10月に日本語ボイスが実装され、9歳の少女である穂は釘宮理恵さんが演じることになりました。“釘宮ボイス”についての反響はいかがでしょうか?どのようなフィードバックをよく目にしますか?
嵇零:
約14年前、小学校を卒業した頃に私は日本のアニメを見始めました。そのきっかけとなったのが、釘宮理恵さんが主人公の声を担当した「緋弾のアリア」で、その後に「ゼロの使い魔」と「銀魂」を観ました。
釘宮理恵さんは私にとって、アニメの先導者のような重要な存在です。そして、一緒に仕事する中で、声優の皆さんはとてもプロフェッショナルで、ハイクオリティな体験をプレイヤーに提供できたと思います。皆さんぜひゲームをプレイして体験してみてください(笑)
――ちなみに『飢えた子羊』の売上は100万本を超えていると発表されましたね。なぜここまで売れているのだと思いますか。
嵇零:
一番の理由はゲームの題材がとても斬新だったからだと思います。前述のとおり、『餓えた子羊』は中国の王朝末期の、あまり語られることのない、しかし注目されるべき「飢饉」をテーマにしています。それと同時に、この面白い設定に、このゲームは「穂」という魅力的な美少女キャラをうまく描写できたと思います。
このような歴史背景とキャラ描写は、このゲームが広く知られる可能性を大きく高めたと思います。それ以外にも、我々のスタジオは脚本、美術、アフレコ、音楽において細部までこだわり抜き、2P Gamesのような頼もしいパブリッシャーの協力も得たことで、クオリティーも担保されました。
発売する前から、本作は我々にとって起死回生の作品になると信じていましたし、実際そうなりました。
しかし、我々はこれで満足しません。本作においても妥協したところはあります。当時のスタジオは資金の問題で、既に存続の危機にありました。このゲームも多くの部分は費用の制限で、極致には至っていません。
しかし、本作は優秀な作品であると自信をもって言えます。皆さんにぜひプレイしてもらいたいです。今後も、我々はより多くの、そしてよりハイクオリティな作品作りに挑戦していきます。今回の成功で歩みを止めることはありません。
――まだ本作を遊んでないけど気になっているユーザーへメッセージをお願いします。
嵇零:
多くのプレイヤーがこのように評価してくれています。
「いい食事一回分の金額でこのゲームを買えます。そして、プレイした後、今後数か月の食事はすべていい食事であるように感じられる」
購入をお待ちしてます!穂を好きになってくれることを期待してます!
『飢えた子羊』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに発売中だ。