「誰もいなくなった東京」を散策するアドベンチャーゲーム『Tokyo Stories』試遊感想+開発者インタビュー

「誰もいなくなった東京」を散策するアドベンチャーゲーム『Tokyo Stories』試遊感想+開発者インタビュー。延期のその後について。

『Tokyo Stories』はドリコムがPC(Steam)および、家庭用ゲーム機向けに開発中のタイトル。解体切断アクションゲーム『100万トンのバラバラ』や、雨が降りしきる街をテーマにした『rain』などを手がけた池田佑基氏、寺島誠一氏のふたりが手がけている。本作の舞台は「誰もいなくなった東京」で、3D+ピクセルアートで描かれた街並みが映し出す情緒的な雰囲気が特徴だ。


そんな本作は2023年にリリース予定だったが、現在は「やりたいこと、伝えたいことが膨らんできた」ため発売時期が未定と無期延期中だ。だが露出が減ったわけではなく公式Xアカウントでは日々アートが更新されており、ビジュアルに惹かれて発売を今か今かと待っている読者も少なくないだろう。そこで今回は東京ゲームショウ2024にて、池田佑基氏・寺島誠一氏にインタビューをする機会をいただき、イベントに出展された『Tokyo Stories』の新たな試遊をプレイすることができた。本稿では、プレイ感想とともに、インタビューの様子もお届けしたい。

「寂しさ」が強調される東京というテーマとビジュアル

TGS会場でプレイ可能なデモ版は10分ほどでクリアできる内容だったが、そのような短時間であっても世界観に引き込まれた。本作の特徴はまさしくパッと見でも伝わるようなグラフィックの質感と、そのビジュアルから想起されるノスタルジックな雰囲気だろう。テキストで雄弁にストーリーが語られるタイトルではないが、冒頭部分は主人公の少女「スズ」が電車に揺られたのち、「誰もいなくなった東京」に降り立つ場面からはじまる。消えてしまった親友「ユノ」を探し、思い出のゲームセンターに向かうまでが今回の試遊で描かれる範囲だ。


本試遊の新要素として謎解きがあり、ゲームセンターまでの道中では蝶を引き連れて黄色い花を調べたり、ゲームセンター内でブレーカーを操作したりできる。プレイヤーがアクションを起こすことでマップの先へ進めるなど、歩くだけではなく“ゲーム”としてインタラクションとその結果がもたらす変化も楽しめる。そしてオブジェクトへの光の当て方や配置を工夫しており、説明は少ないながらも直感で「次に進むべき場所」が理解でき、謎解きに詰まらず丁寧な誘導で作品の雰囲気に没入することができたのも注目したポイントだ。


3Dマップで再現された「夜の渋谷」を歩いていると、モノローグが画面上に浮かび上がる演出でテキストが表示されていく。背景は固定カメラが採用されており、“一番キマった角度”の美しいシーンを楽しめる、ウォーキングシミュレーターのような感覚でもプレイできた。操作しているだけで感傷をかき立てられるようなノスタルジックなアートやエモい雰囲気も相まって、主人公の内省的な独白と同調しながら、現実の散歩のようにプレイヤー自身が思索に耽られる。


それは本作がリアルから要素をそぎ落としたピクセルアートで表現されているが故に、画面内で表現される細部の補完をプレイヤーの想像に頼る部分も多く、いなくなった親友を探すスズに共鳴するかのように、それぞれの内の「東京」という場所が持つ「寂しさ」や「すれ違い」といったイメージを投影しやすいのかもしれない。以上わずか10分ほどのプレイであったが、試遊範囲においてはビジュアルや雰囲気から連想される、静謐で儚いアドベンチャーゲームという体験の一端を感じることができた。それではここからは、そのような本作を手がける開発者へのインタビューをお届けしたい。

『Tokyo Stories』開発者インタビュー

右から池田佑基氏・寺島誠一氏


最初から最後までインタラクティブな起伏が存在するゲームにしたい

――自己紹介をお願いします。

池田佑基(以下、池田)氏:
『Tokyo Stories』プロデューサー兼ディレクターの池田です。

寺島誠一(以下、寺島)氏:
同じく『Tokyo Stories』でアートディレクターを担当しています、寺島です。

――『Tokyo Stories』のゲーム紹介と制作経緯についてお聞きできれば。

池田氏:
「誰もいなくなった東京」を舞台にした、ピクセルアートと3Dを融合したグラフィックのアドベンチャーゲームです。制作経緯としては自分と寺島君で新しいゲームを開発する際に、ピクセルアートで1作作ってみたいと思っていました。どういうピクセルアートがいいのかを話し合ったときに、2Dでもトップビューでもサイドビューでもない、さまざまな画角のピクセルアートのゲームが作れたら面白いのではないかという発想がもとになっています。ただすべての画角のグラフィックを描くのは現実的ではないので、試行錯誤をしながら3Dとピクセルアートを融合させる方法を思いつきました。そしてこのスタイルであれば東京を舞台にしたら、見ごたえがある絵作りができるのではないかと『Tokyo Stories』の制作に取りかかりました。

――2023年に開催された「BitSummit Let’ Go!!」にて、発売延期のアナウンスについてインタビューさせていただきましたが、改めて経緯説明とそれから1年ほど経過した開発状況を教えていただけますか。

池田氏:
あれから1年以上経ったんですね、まだ半年ぐらいな気がしています。毎日頑張って作っています(笑)延期理由としては、当初考えていたサイズ感からボリュームが徐々に増えていき、どうせ作るならやりたいことを詰め込んだほうがいいのではないかとプロジェクトのサイズ感を変更したのが1番大きい理由です。そこから物語やゲームシステムの修正を落とし込む作業に時間がかかっていますが、以前のインタビューからしっかり進んでいます。

寺島氏:
これからも頑張っていきます。


――ちなみにこの1年ほどで「チル」や「イマーシブ」というワードが流行り出して、『Tokyo Stories』も雰囲気やテーマ的に掠っているように思いますが、意識することはありますか。

池田氏:
最初に決定した『Tokyo Stories』のコア部分が、今流行っている温度感と似ているのかなと思いますが、先見の明があったというわけではなく(笑)本作以前にもテーマとして扱っていたタイトルは多かったと思いますし、ワードとして可視化されて一般層にまで広がっているのかもしれません。

――スケジュールの見直し(延期)によって実現できたことを教えてください。

池田氏:
グラフィックに関しては初期からビシッと決まっていたので、それを肉付けするフェーズに入っていますね。延期によって実現できたことは、全体的なストーリーテリングについて凝れるようになったことと、ゲーム体験も最初は平坦なゲームになっていたのですが、プレイのはじめから終わりまでインタラクティブな起伏を感じられるように設計し直しています。全体的にゲームへ向き合う時間が作れたのが1番大きいでしょうか。

――試遊をおこなった印象として、絵作りの幅が広がったように感じました。

寺島氏:
グラフィックのルールはあまり変わっていないのですが、要素が増えているのでビジュアルの印象は変わっているかもしれません。

池田氏:
冒頭に電車のシーンを追加したのですが、ライトや吊り革がコマ落ちしながら少し動いているんです。そういった細かいエフェクトや動作で情報量が増えているので、リッチになったような感覚はあるかもしれません。またノイズに見えてしまうのではないか、誤解を与えてしまうのではないかという粗は常に修正していますね。

――この1年はXアカウント運用が露出のメインだったと思います。新たな情報が出せないなかでSteamのウィッシュリストの伸び幅はどうでしたか。

池田氏:
さまざまなメディアが取り上げてくれることがあって、そのときにウィッシュリストが伸びたのでありがたいですね。今まで日本のメディアも多数取り上げていただいていたのですが、新情報が出せていないときでも海外メディアが「こんなゲームが日本であった」と取り上げてくれた際に数字が跳ねることも多かったです。世界で見たら知られていないタイトルではあるので、触れるタイミングで新しく捉えてくれる人がまだまだいたんだと思いましたね。

――たしかに延期して余裕があるからこそ、マーケティング期間に当てられる側面もありますね。

池田氏:
そうですね。ただずっと進捗がないままだと、追ってくださっている人も飽きてしまうと思うので、とにかく早くリリースできればと常に思っています。

――Xアカウントではほかのタイトルのキュレーションも積極的にされていますが、『Tokyo Stories』と同じ規模感のタイトルで、刺激やインスピレーションを受けているタイトルがあれば教えてください。

寺島氏:
私は元々あまりゲームをプレイしないタイプで……ただ知らない分だけ素晴らしいゲームが世の中にはたくさんあるなと触れるたびに驚かされています。影響を受けていると言えば自分がピクセルアートの表現に四苦八苦しつつもこだわっているので、ピクセルアートが印象的なタイトルに注目することが多いですね。

池田氏:
最近ピクセルアートに魅せられるタイトルが多いじゃないですか。それこそ集英社ゲームズの『都市伝説解体センター』を最近では一番ライバル視しています(笑)

寺島氏:
『都市伝説解体センター』みたいな緻密なピクセルアートにも挑戦してみたいですよね。レーザービームや爆発を1枚ずつ描いてみたい欲求はあります(笑)

――最後になりますが、『Tokyo Stories』のプレイを通してプレイヤーにどのような体験を伝えたいか、どういうゲームにしたいかを教えてください。

池田氏:
“夜の街を歩く”ただそれだけではない、感情が高ぶることも落ち込むこともあるような起伏が存在するゲームを作りたいと思っています。そういう意味では予想を裏切る部分があるかもしれませんが、最終的には本作に期待されているだろう「ノスタルジックで寂しい」雰囲気が十分に味わえる面白いゲームに仕上がると考えているので、もうしばらくお待ちいただければと思います。

――ありがとうございました。

『Tokyo Stories』は、PC(Steam)および家庭用ゲーム機向けに開発中だ。

[聞き手・執筆・編集・写真:Yuuki Inoue]
[聞き手・編集・写真:Ayuo Kawase]

Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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