人気パブリッシャーTHQ Nordicは今年も東京ゲームショウで日本展開やる気満々だった。“宣伝ではミッキーマウスに食われ気味”、でも担当者イチオシの2作品について根掘り葉掘り訊いた


先月9月26日から29日にかけて東京ゲームショウ2024が開催された。同イベントにてホール2の一角にひときわ大きなブースを構えて5作品を出展し、存在感を放っていたのがTHQ Nordicだ。THQ Nordicといえばさまざまな作品を手がける人気パブリッシャーであり、近年は日本語ローカライズにもさらに積極的な姿勢を見せている。今回弊誌はブースへの出展タイトルのなかでも『The Eternal Life of Goldman』および『Titan Quest II』の二作品に関して、取材を実施した。

『The Eternal Life of Goldman』は2Dアクションプラットフォーマー。キプロスに拠点を置くWeappy Studioが手がけ、綺麗な手描きアニメーションが目を引く作品だ。対応プラットフォームはPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S/Nintendo Switchとなる見込み。日本語表示のほか、日本語音声にも対応予定。

『Titan Quest II』はTHQ Nordic傘下でドイツに拠点を置くGrimlore Gamesが制作中。2006年に発売された見下ろし型アクションRPG『Titan Quest』の待望の続編となっている。対応プラットフォームはPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|Sを予定している。

THQ Nordicブースの受付の担当者によれば、いずれも魅力的な作品ながら、同じTHQ Nordicがパブリッシングをする注目作『ディズニー エピックミッキー:Rebrushed』に隠れるなど、ユーザーの関心がやや集まりにくくなっている印象もあるという。今回は両作品に携わっているAndreas Schmiedecker氏からお話を伺うことができた。

Andreas Schmiedecker氏


いいとこどり”なアートゲーム

──自己紹介をお願いします。

Andreas Schmiedecker(以下、 Schmiedecker)氏:
Andreas Schmiedeckerといいます。THQ Nordicに属するプロデューサーの一人で、現在は『The Eternal Life of Goldman』を担当しています。プロデューサーとしてではありませんが、『Titan Quest II』にも携わっています。

──『The Eternal Life of Goldman』がどんなゲームなのか教えてください。

Schmiedecker氏:
『The Eternal Life of Goldman』のジャンルはプラットフォーマー・アドベンチャーです。ゲームそのものは敵を倒したりジャンプしたりといった古典的なプラットフォーマーに近いですが、島のさまざまな場所やいろんな世界を探検するという側面もあるわけです。

主人公のGoldmanは年老いた男で、杖を武器に戦います。杖で物を引っ張ったりフックにひっかけたりといったアクションが使えるほか、杖に新しいパーツをつけたり、オーラといった特殊能力を追加できます。とはいえ、杖の強化はあくまで任意で、ボスを倒すのに特定の能力が必要といったことはないです。

ストーリーにおいては生と死のほか、そしてサイバーパンク的なダークで不気味な要素も出てきます。また、タイトルにもある「Eternal Life(永遠の命)」は大きなテーマですね。ストーリー自体はヨーロッパやユダヤの伝説、さまざまな神話、寓話、おとぎ話にインスパイアされています。想像力豊かに書き上げられた、古代の巻物みたいなイメージをしてみてください。

ゲームプレイとしては、クラシックなプラットフォーマーでありつつ、美しい手描きグラフィックかつ現代向けに遊びやすい作品です。本作の担当者としては、日本市場にどれくらい受け入れられるか注目しています。Nintendo Switchで発売されますし、日本向けにもローカライズされますので、日本語音声を通してストーリーが自分に「語られる」という経験をぜひしていただきたいです。それと、日本のユーザー向けに情報を付け加えるとすれば、本作の作曲を担当する三人の中には日本のアニメに関わったスタッフもいます。

──ジャンルはプラットフォーマー・アドベンチャーとのことですが、メトロイドヴァニアとは違うのでしょうか。

Schmiedecker氏:
本作にはメトロイドヴァニアの要素もありますが、異なる部分も多いです。例えば、大きな一つの世界があり、探索によって新しいアビリティを手に入れ、それによって新しい道を開拓する点はメトロイドヴァニア的です。ですが、本作のゲームプレイはどちらかといえば一本道で、来た道を引き返すことはあまりないです。

メトロイドヴァニアは難易度が高く、探索を重視する作品が多いですが、本作では死んでも近くのチェックポイントからやり直せますし、探索よりもストーリーに重きが置かれています。そうした違いから、本作をメトロイドヴァニアと呼ぶことは避けています。とはいえ、ある意味では「遊びやすくしたメトロイドヴァニア」とは言えなくもないです。

──本作のSteamストアページには「さまざまなスタイル、トレンド、時代を横断して、横スクロールアクションで私たちが最も愛する要素すべてを注意深く取り入れています」とアピールされていますが、具体的には作中のどういうところに表れているのでしょうか。

Schmiedecker氏:
大きく分けて二つの側面があると思います。まずひとつがビジュアル面。過去にゲーム機が8ビットから16ビットに進化した時代、グラフィックは大きく進歩しました。その時代には、本編のグラフィックが良いことはもちろん、美しいキーアートやカートリッジなど、ゲーム内外のビジュアルすべてでひとつの作品だったように思えます。本作でもそうしたビジュアル面は力を入れていて、手描きの2Dアートにこだわっているのもその理由ひとつです。

もうひとつの側面がゲームプレイです。本作は遊びやすく明快でありつつ、単純すぎないアクションゲームになるように意識して作られています。昔の作品から見境なくあれこれ引用するのではなく、うまく取捨選択をすることで焦点が絞れた作品になっています。プレイしていただければ、その意味が伝わるのではないかと思います。


ちなみに、スーパーファミコンが発売された頃、私は3歳ぐらいでした。そんな自分にとって、本作をプレイ中にはまるで歴史的な作品のようにも感じられてきます。そうしたノスタルジックな側面もあるといえますね。

──開発元のWeappy Studioについて教えてください。

Schmiedecker氏:
彼らはクラシックなゲームと映画が大好きな人たちで、アニメーション映画のようなゲームを作りたいという想いから『The Eternal Life of Goldman』が開発されています。私は開発が始まった7年前から同スタジオと一緒に仕事を進めてきましたが、THQ Nordicはスタジオ発足からずっと関わっていて、本作以前にもWeappy Studioの作品をパブリッシングしています。

本作の開発が長期間にわたっている理由は、ほとんどがアート面です。すべて手作業で、もはや絵画やアニメーション映画に近い内容ですから。彼らは大きなスタジオではありません。20人くらいの人数が、この作品のためだけに働いているのです。

──アートが手描きの横スクロールアクションというと、『Cuphead』を思い出しますね。

Schmiedecker氏:
スタッフの献身と努力という意味では、確かに似てるといえます。『Cuphead』も、長期間にわたって人が手作業で作りましたから。もちろん、ゲーム面ではいろいろ違いがあります。『The Eternal Life of Goldman』はボス戦に重点を置いていませんし、難易度は『Cuphead』よりずっと低いです。

──本作のアートスタイルに影響を与えている作品はありますか。

Schmiedecker氏:
本作はアニメーション映画やバンドデシネ、そのなかでも特にベルギー漫画から影響を受けています。ベルギー漫画は線がくっきりとしていて、背景と前景がはっきり分かれているのに、細かく描写がされる「リーニュクレール」というスタイルが特徴的です。「タンタンの冒険」の作者、エルジェが確立したことで有名ですね。エルジェ以外にも、もう少しダークな作品や都会を舞台にした作品も参考にしていますが、リーニュクレールの明瞭なコントラストが本作のアートに与えた影響は大きいです。


コミュニティと共に育てるアクションRPG

──『Titan Quest II』に話を移しましょう。前作『Titan Quest』は2006年発売のゲームですが、続編を制作した背景を教えてください。

Schmiedecker氏:
まず最初に述べておきたいのですが、確かに『Titan Quest』は古いIPですが、オーストラリア、ヨーロッパの多くの国々、そしてアメリカなどで今でも根強い人気があります。現在も活動する活発なコミュニティがあり、多くの人がプレイし続けているのです。

THQ Nordicではしばしば、「アセットケア」と呼ぶ取り組みをしています。古いゲームであっても、アップデートやパッチ、時にはDLCのような追加コンテンツでサポートを続けることですね。THQ Nordicが『Titan Quest』のIPを取得した時に、私たちはまず10周年記念としてアニバーサリーエディション(リマスター版)を制作しました。そして、その後に合計三つのDLCも作りました。10年以上前に発売されたゲームに、です。

そして、多くのプレイヤーがプレイしてくれたのを見て、DLCではなく続編を作らねばならないと考えるようになりました。『Titan Quest II』は昨年アナウンストレーラーを作り、非常に良い反応をいただけました。今年はゲームプレイ動画と、実際に遊べるバージョンをお見せできればと思っています。

──コミュニティが今なお活発となると、そのぶんユーザーからの期待も高そうです。

Schmiedecker氏:
そうですね、『Titan Quest』シリーズは100%コミュニティ主導です。ですので、私たちもコミュニティと連携しながら制作をしています。例えば、私たちのYouTubeチャンネルには開発者が解説しながらデモをプレイする動画や、ゲームのあらゆる側面についてチームの考えを説明するDev Diaryがたくさんあります。そうした動画に寄せられたコミュニティの反応に耳を傾けているのです。

本作ではまずは年内にクローズドベータテスト、そしてその後に早期アクセスを予定しています。早期アクセスでは、1人もしくは2人のオンライン協力プレイができる状態で配信し、フィードバックを得たうえで開発の方向性を検討します。正式リリースでは4人協力プレイを実装したいと思っていますが、ローカライズする国をどうするかなど(早期アクセスでは英語のみに対応予定)、まだ未定の部分も多いです。確かなのは、私たちはコミュニティと協力し、『Titan Quest II』を改善し続けていく意思があるということです。

──見下ろし型のアクションRPGに馴染みがない人もいると思いますが、そうした人には『Titan Quest II』になにを期待してもらいたいですか

Schmiedecker氏:
遊んでいくうちに、「こんなこともできるのか」と気付いていく点だと思います。こうしたアクションRPGでは多くの場合、最強の、最適解の戦術があります。しかし私たちとしては、もっとたくさんのことができると示したい。本作では新しい体験が次々と現れるため、あとちょっと、あとちょっと、という風についついプレイし続けるループがあります。私が小さい頃にも『Diablo』や『Diablo II』、それこそ『Titan Quest』などで経験したものです。

また、本作は買い切りのタイトルです。ですので少額課金やルートボックス、シーズンパスは存在しません。発売後にDLCは出すかもしれませんが、あくまで『Titan Quest II』本編は買い切りのゲームとなります。そうした手法を取る他社タイトルを否定はしませんが、私たちは避けたいと思っています。新要素のために逐一課金が必要になるのは、初めてゲームをプレイする人には優しくありませんから。まずゲームを楽しんでもらいたいんです。

結論としては、中毒性のあるゲームプレイのループを体験したくて、かつ新たな体験のために搾取されることがない、そんなゲームを探している人におすすめしたいです。

──同ジャンルの人気作には『Diablo』シリーズがありますが、『Titan Quest』シリーズはどのように違うのでしょうか。

Schmiedecker氏:
『Diablo』シリーズでは、最初に選んだクラスで遊び続ける必要があります。ですが『Titan Quest』はゲーム開始時にキャラクターのクラスを決めずに、ゲームのある時点でマスタリーと呼ばれるものを選択します。マスタリーはそれぞれアクティブスキル用のものと、パッシブスキル用のものがあります。

レベルが上がるにつれ、マスタリーに応じた新たなスキルを覚えたり、スキルのカスタム要素が増えていきます。例えば跳躍系のいわゆるリープ攻撃をするスキルなら、攻撃にスタン効果を付与したり、2スタック保持できる代わりにクールダウンを長くしたり、使用時に自分にバフを与えたり、といった感じです。

スキルには決まった数のカスタム用スロットがあり、効果が強力であるほど多くのスロットを消費します。空きがある限りいくらでも付け替えができるので、『Diablo』シリーズに比べてビルドを柔軟に追求できるのです。『Titan Quest II』ではもともとあったマスタリーシステムを拡張し、より遊びやすく改良しています。

キャラクタービルドのもう一つのシステムがキャラ特性(Attribute)です。 レベルアップ時にMightやAgilityなど4つのアーツに自由にポイントを割り振ることができ、例えばMightなら物理攻撃、Agilityなら魔法攻撃に関するステータスがまとめて上昇させられます。どういったステータスを上げるのが良いか、探っていくのも楽しみのひとつといえますね。

また、本作はギリシャ神話を題材にしているので、『Diablo』と比べてカラフルで明るいグラフィックになっています。敵にはギリシャ神話の神々も登場します。個人的にはゲームの見た目や舞台設定、オーソドックスな敵キャラや火の表現まで、なにからなにまで全部好きですね(笑)本作は背景が非常に凝っていますが、自動生成ではなくデザイナーが手作業で作り込んでいることもアピールさせてください。


THQ Nordicとゲームの距離感

──THQ Nordicとしてゲームの開発にはどのくらい関わっていますか?

Schmiedecker氏:
『The Eternal Life of Goldman』に関して言えば、私たちはあくまでパブリッシャーです。Weappy Studioとはあくまでパートナーシップですし、彼らの熱意あるプロジェクトとして、クリエイティビティを大いに尊重しています。

Weappy Studioには開発資金を提供して、パブリッシングもしますが、作品をどのように作るかは彼らの自由です。それに、Weappy Studioの人たちは強いこだわりとビジョンを持っていますから、正直なところ干渉しようと思っても無理です(笑)私たちとしても、そういう開発者は大歓迎です。

一方で、『Titan Quest』のように私たちがパブリッシャーでありオーナーでもある場合もあります。私たちはゲームの開発をあらゆる形でサポートしたいと思っているので、こうした場合はゲームの方向性にもアドバイスを出すことがあります。

それと、『Darksiders』みたくシリーズ作品であれば細かい表現方法に気を遣いますね。『ディズニー エピックミッキー:Rebrushed』や『スポンジ・ボブ:Battle for Bikini Bottom – Rehydrated』のように、ディズニーやパラマウントといったIPホルダーがいる場合は仲介役を担うこともあります。

──THQ Nordicにパブリッシングをしてもらいたいゲーム開発者は多そうですが、線引きはどこで決めていますか。

Schmiedecker氏:
おもに二つ基準があります。ひとつは単純に、THQ Nordicのラインナップに適しているかです。私たちのポートフォリオにはあらゆるゲームがありますが、私たちが好むもの、得意とするゲームもあれば、相性の悪いものもあります。どんなにゲーム自体が良くても、他のパブリッシャーの方がいい場合もあるわけですね。

もう一つ、どちらかといえば私が個人的に見ている部分ですが、開発チームが誰なのか、どんな人たちなのか、どれだけ情熱を持っているのか、何か特別なことをやりたがってるのか、という点です。多くの人は流行を追って「いま人気のあのゲーム」に似たものを作りたがりますが、そのプロジェクトに適した人材が本当に揃っているのか、お互い考えなければなりません。

くわえて、チームがやりたいことと、実際にできることの区別ができているのか。その見極めも必要です。ゲームを作るのは開発者であって、私たちはサポート役のパブリッシャーに過ぎませんからね。作りたいゲームに必要なさまざまなものやビジョンと、それを実現できるメンバーがうまく合致すること。これが良いチームの証拠です。

でも結局のところ、単に「応援したくなる人たちがいい」という気持ちもあります(笑)やりたいことやこだわりを強く持っている人であれば、一緒にやりがいがありますから。

──最後に、日本の読者に向けてコメントをお願いします。

Schmiedecker氏:
いつも応援ありがとうございます。私たちにとって日本市場はとても大事で、こうして東京で出展しているのも、みなさんにそう感じていただきたいからです。もちろん日本に来て、いろんな方々に会えたのも嬉しく思っています。みなさんに気に入ってもらえるゲームをこれからも出していきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

──ありがとうございました。

The Eternal Life of Goldman』はPC(Steam)/PS5/Xbox Seires X|S/Nintendo Switch向けに発売予定。発売日は未定。

Titan Quest II』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売予定。年内にクローズドベータテストおよび早期アクセスを予定しているとのことだ。