『Trine』シリーズを手がけたFrozenbyteが語る新作『Shadwen』、“時間を巻き戻せる”ステルスアクションの新たな可能性

『Shadwen』は時間を巻き戻すことができ、マップ上のさまざまなオブジェクトに干渉できる物理演算ベースのシステムを導入したサンドボックスゲーム。『Shadwen』とはどのようなゲームなのか、そしてFrozenbyteの近況など、マーケティング・マネージャーのKai Tuovinen氏にお話をうかがった。

Frozenbyteは本日5月17日、PC/Mac/Linux/PlayStation 4向けに、ステルスアクションゲーム『Shadwen』を発売する。Frozenbyteといえば色彩豊かな美しいアクションゲーム『Trine』シリーズを手がけているフィンランドのスタジオだ。同シリーズは日本でも発売されており好評を得ていたが、最新作である『Trine 3』では一定の評価を集めながらも、主にゲームのボリューム不足から批判を受け、謝罪の動画をYouTubeにアップする事態にまで発展していた。そして2016年、これまでの作品とは一転、時間を巻き戻すことができ、マップ上のさまざまなオブジェクトに干渉できる物理演算ベースのシステムを導入したサンドボックスゲーム『Shadwen』を発売する。

今回、改めて『Shadwen』とはどのようなゲームなのか、そして「我が社は危機的な状況にある」とコメントしていたFrozenbyteの近況はどうなっているかなど、マーケティング・マネージャーのKai Tuovinen氏にさまざまなことをお聞きした。

 

“新しいステルスゲーム”を生み出す

Kai Tuovinen氏
Kai Tuovinen氏
――まず始めに、『Shadwen』について説明してもらえますか。

Kai Tuovinen氏(以下、Tuovinen):
『Shadwen』は、戦争で疲弊し色褪せてしまった、中世の街を舞台としたステルスアクションゲームだ。主人公はShadwenという名のアサシン。道中にLilyと呼ばれる少女と出会い、不本意ながらも彼女を引き連れて旅に出ることになる。

『Shadwen』における重要な要素はまず“時間”だ。Shadwenを操作しているときだけ時間は進行し、またプレイヤーは好きなタイミングで時間を巻き戻すことができる。つまり、ゲーム内で失敗してもすぐにやり直せるということだ。その場で考えつくさまざまな選択肢を気軽に試すことができるし、敵を殺さずにプレイすることも容易だ。また、フックアクションによって自由な移動ができるし、罠も数多く存在する。ゲームをクリアする手段はたくさん存在しているんだ。

 
――『Shadwen』はこれまでFrozenbyteが開発してきた『Trine』や『Shadowground』とは少し異なるゲームですよね。ステルスアクションゲームを作ろうと思ったきっかけはなんですか。

Tuovinen:
『Trine 3』の開発が終わってすぐに決断したことだった。僕らは何か新しいゲームをできるだけ早く作らなければいけなかったからね。いくつかゲームの基礎となるものはすでに出来上がっていて、暴力性のあるゲームを作りたいと思っていた。幸いにも僕らは『Trine 3』のZoyaのロープアクションに1年半を費やしたり、さまざまな技術を試していて、それらを次のゲームに活かしたいと思っていた。ステルスアクションゲームはそういった選択肢にまさに即していたんだ。

 
――『Shadwen』はステルスアクションゲームでありながら、時間を巻き戻すという要素を組み合わせていて、とても個性的ですよね。そういったアイディアは何から生まれたのでしょうか。

Tuovinen:
『Shadwen』は『Trine 3』のロープアクションから始まったんだ。僕らの会社のCEOであるLauriはロープアクションがとても好きで、もっと使っていきたいと思っていた。そして動いている間だけ時間が進むというアイディアが生まれ、それらを使えばロープアクションがもっと簡単になると考えたんだ。

時間の巻き戻しは、新しいステルスゲームを実現したいという願いから生まれたものだ。一般的なステルスゲームだと、見つかったらゲームオーバーだよね。巻き戻しがないと、ついイライラしてしまうような難しすぎるゲームになったと思う。セーブやロードを頻繁におこなわなければいけないからね。

巻き戻しの技術やさまざまな種類のトラップ、物理エンジンベースの数々の要素をゲーム内に導入した時に、それらのシステムがすごく噛み合うことがわかった。初期段階から、小さなオブジェクトが入った棚が倒れてバラバラになったものを、巻き戻しで元通りにするテストなどをおこなっていたんだ。それと、しばらく前から中世を舞台に人々を殺害するゲームのコンセプトデザインはできていて、モーションを作るところで止めていたから、そういった要素もゲーム作りの刺激となったのは間違いないね。

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――時間を巻き戻すというシステムは私のような、ステルスアクションゲームですぐに見つかってしまうユーザーにはとてもありがたい要素です。その一方で、巻き戻せることによって簡単になりすぎるのではないかという懸念もあるのですが、そういったジャンルに自信があるプレイヤーに向けては何か措置などはありますか。

Tuovinen:
ありがとう、『Shadwen』は君のようなプレイヤーにはピッタリなゲームだと思うよ(笑)簡単だと感じるのは、あくまでセーブやロードなしに巻き戻しができるからなんだと思う。ステルスアクションゲームが得意な人でも見つかってしまうようなポイントはいくつかあるんだ。そういった時は、巻き戻せば何があったのかすぐに確認できるよね。だから時間の巻き戻しは、セーブアンドロードを気持ちよくした形でしかないんだ。そのおかげで、より大胆なプレイが可能になる。それに、難易度を変えると視覚的な情報が減り、警備兵がより賢くなって君を執拗に追いかけるようになる。

警備兵を倒し爆弾を爆破させると、音に反応したほかの警備兵が警戒を強める。そういった「クリア不可能なシチュエーション」を自分で作り、自分でゲームを難しくして遊ぶのもひとつの手段だね。時間の巻き戻しは本当に難しい部分にだけ使うなんてことも可能なんだ。

 
――私が『Shadwen』のデモを遊んだ時、ダークファンタジーな世界に浸りつつも、時折物理演算などで敵が奇妙な死に方をするとつい笑ってしまいました。そういったハプニングも狙いのひとつでしょうか。

Tuovinen:
その感想は正しいよ(笑)僕らも最初は暗い気持ちにさせることを狙っていたが、トラップや物理演算でちょっとした“コメディ”になるのはよくあることなんだ。ゲームの体験をあるがままに感じてほしい。だから、ゲーム中には物理演算システムのランダム性によって奇妙な状況が多々生まれていく。そういう時は、存分に笑ってくれ(笑)

 
――『Shadwen』はステルスゲームとしてどういった点が特に個性的だと感じていますか。

Tuovinen:
物理演算や時間を操るといった要素が『Shadwen』をユニークなゲームにしていることは間違いないね。爆発トラップでNPCがパニックになっているのを楽しむもよし、時間の巻き戻しを使いながら思い通りのプレイを演出するもよし。こういった点はほかのステルスゲームにあまりないところだと思うね。

 

『Trine』シリーズは停滞中だが、続編は考えている

――次は『Trine』シリーズについてお聞きしたいと思います。『Trine 3』ではボリューム不足などによって批判され、その評価で会社の存続が危うくなるかもしれないといったことを仄めかしていましたよね。現在の状況はどうですか。

Tuovinen:
状況はかなり良くなってきているよ。『Shadwen』はスケジュールどおり進んでいるし、ほかにも期待できるプロジェクトがいくつも動いている。今はかなり楽観的になったね。近いうちにそういったことについても発表できると思うよ。

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――『Trine 3』が批判を受けた時、FrozenbyteはYouTubeにユーザーに向けての謝罪の動画を投稿しましたよね。Frozenbyteほどの規模の会社が謝罪の動画をあげてユーザーと直接対話しようとするのは珍しいことだと思います。

Tuovinen:
あの件については、僕らはもっと自分たちの言葉で事態を伝えなければいけないと感じたんだ。だから、動画を投稿することで正確に自分達の考えを伝えた。短期間でネガティブなSteamレビューが瞬く間に投稿されていて、ファンをミスリードする内容がいくつもあった。だからファンにはそれを説明し、謝る必要があると思ったんだ。

 
――それからFrozenbyteは『Trine 3』の無料コンテンツの追加を宣言し、早速それを去年追加しました。まだ『Trine 3』に何かを追加する予定はありますか?

Tuovinen:
現在は『Trine 3』に関連することには取り組んでいないね。

 
――『Trine』シリーズはどうなるのでしょうか。個人的に3人のヒーローが活躍する姿がまだまだ見たいのですが。

Tuovinen:
『Trine』の続編については考えているが、今は停滞中だ。うちのシナリオライターのスタッフは『Trine 3』で描く予定だった物語を書きたいようで、僕らもエンディングまで見たいんだ。話の内容は機密事項で、そのライターしか知る由がないからね(笑)今言えるのは、3人のヒーローの物語の続きを期待してもらっても構わないが、今のところは動いているプロジェクトで手一杯だ。もし次に『Trine』の新作を手がけるならば入れたい要素はたくさんあるし、それらをスマートに実装していきたいと思っているよ。

 
――友人に『Trine』シリーズをプレイさせると、初めは必ず物理演算の動きを見て「このゲーム、なんかバグのようなところがあるね」と言います。でもその後はその“バグ”を楽しみ始めるんです。『Shadwen』もそういうところがありますよね。こういった良い意味での“バグっぽさ”はFrozenbyteの開発のこだわりなのでしょうか。

Tuovinen:
ははは、いい反応だね(笑)僕らは『Trine』シリーズで、へんてこな動きをする物理演算を用いていることで有名だよね。もちろん『Shadwen』も例外じゃないさ。物理演算によって、偶然性や自由度といったものが生み出され“バグっぽい”現象になるんだ。そういう経緯で、「バグっぽい」というのが僕らのゲームの特徴となっているんだろうね(笑)

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――『Trine 3』の騒動の際に、あなたたちは3D化による開発コストの肥大化が原因だったとコメントしていました。しかしながら、『Shadwen』は力の入った3Dゲームですよね。開発環境の大きな変化があったのでしょうか。

Tuovinen:
僕らは内部で色々なことを変えて、さらに自分達に合った規模のゲームを作り始めたから、とてもスムーズに開発が進むようになった。特に大きかったのが、アーティストがひとつひとつ手作業で進めていた流れを、一気に組み立て式にしたことかな。おかげで開発のスピードは速くなった。『Shadwen』は『Trine 3』とは視覚的にだいぶ異なっていてデザインに一体感があるところも理由だね。

 
――『Trine 3』の騒動の影響を受け、『Shadwen』の長さを気にしているファンも少なくないと思います。そういった点についてどうでしょうか。

Tuovinen:
『Shadwen』は15の面が用意されている。テストしたところ、ひとつの面はだいたい初見だと20分から30分かかるみたいだ。だから、クリアまでは5~7時間程度の時間を見積もっている。もちろん、プレイヤーのスキルや遊び方によってそれらも変わってくるけどね。ゲームにはエンディングがふたつあって、警備兵を殺すか、殺さないかで変化するから、リプレイ性もあると思っている。一度クリアした後は異なる遊び方を選ぶと、全く違う体験ができると思うよ!

 
――『Trine』シリーズは日本でしっかりローカライズされており、いくらか有名なタイトルのように感じます。『Trine 3』は音声まで日本語で素晴らしかったです。しかし、『Shadwen』は日本語に対応していないようですが、追加予定はありますか。

Tuovinen:
おお、それはありがたいね!僕らは本当に日本語音声が好きで、僕らのキャラが日本語を話していることにとても興奮したよ。確かに『Trine 3』では日本語に対応したけど、『Shadwen』ではご存知のとおり、英語音声にのみ対応しており、字幕はフランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語のみだ。発売後はほかの言語を追加することも考えているけど、今はゲームを発売することに専念しているんだ。

 
――最後に、Frozenbyteのこれからの抱負を聞かせてください。

Tuovinen:
僕らは今小さなチームでたくさんのプロトタイプを作っていて、核となる部分が面白いと感じた時はチームの規模を大きくして開発を進めている。現在ではVRも含めてたくさんの技術の実験をおこなっていて、楽しんでいるんだ。ぜひそういった部分の可能性にも期待していてほしい。

 
――ありがとうございました。

 
『Shadwen』は2月にリリースされたデモの段階から、物理演算によるアクシデントや戦略性、巻き戻しで思い通りにいかないこともすぐにやり直せる快適さなど、荒削りながらもステルスアクションゲームとしての新たな可能性を感じるタイトルだった。弊誌ではデモバージョンのインプレッションを掲載しているので、そちらも読みながら購入を検討してほしい。定価は16.99ドル、発売後はしばらく14.55ドルで販売されるようだ。

 

[聞き手: Minoru Umise]

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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